呼び飛ばした世界観もきちんと魅力的に見せてくれる! - 戦う司書と恋する爆弾の感想

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戦う司書と恋する爆弾

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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感想数
1
読んだ人
1

呼び飛ばした世界観もきちんと魅力的に見せてくれる!

4.54.5
画力
3.0
ストーリー
5.0
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
5.0

目次

小説は自分の想像力の世界、漫画は容赦ない世界

小説の方を先に読みました。武装司書と聞けば、有川浩さんの図書館戦争を思い出します。しかし、この物語は、また違っていて面白いです!武装司書ものでまだまだアイディアが出るのか!とびっくりしてしまいました。でも図書館戦争が2006年発売、戦う司書と恋する爆弾が2005年発売なのです。でも、全然違う新しさがこのふたつに共通しています。是非、また他の小説で武装司書物を読ませてくれないかなぁと思います。

小説の方が好きだったなぁと感じさせるのは、この漫画には苦しいと思わせる部分がきちんと描かれています。小説は、自分が苦しいと思う部分は、読み飛ばせばいいという無意識が働いたのはないかなと思いました。このお話は、爆弾コリオ=トニスの視点から始まります。漫画では、この私の想像力が飛ばした部分を再現してくれています。洗脳された人間爆弾、ハミュッツ=メセタを殺すためだけに胸に埋め込まれた爆弾。たまたま手に入れた300年前のお姫様の本。それがコリオの人生を変えていきます。コリオ、レーリア、ヒョウエの苦しさ、死にたくない思い、それが漫画では容赦なく描かれています。こんな話だったかな?と思うほど、重厚な世界観。それはきっと間違いではない世界観。私のなかではもっと軽い物語に変身していたので、漫画に出会えてよかったです。

どこをとっても無駄のないお話

「俺は何なんだ。俺は爆弾だったじゃないか。爆弾が恋をするのか?幸福を求めるのか?爆弾には心もないとしたら、今抱えているこの気持ちは・・・?」爆弾であったコリオが爆弾でなくなる瞬間です。まぎれもない人間です。胸に爆弾を抱えていようがいまいが彼は人間なのです。考えること、これは人間であれば誰もが持つことのできること。ハミュッツ館長代行は、本が好きなんだなぁと思います。コリオが爆弾だと知りつつ、彼の持っているシロンの話を彼と話しています。でも、殺すはずだった彼をハミュッツ=メセタは生かす。これが全部後のお話に影響するので、どれひとつをとっても無駄なことはないお話です。「ああ、そうか。俺は人間になりたくなかったんだ。どんな苦しみも死の恐怖も自分は爆弾だからと思えばなんともなかった。でも、今は何もない。希望も解放感も幸福感も、未来も過去も変えるべき場所も大事なものも。あるのは思い出だけ、シロンの「本」の思い出だけ」この本に出会っていなければ、ハミュッツ=メセタを殺せという呪縛によって、ハミュッツの触覚糸で感知され、投石器によって殺されていたかもしれない。彼が夢中になって考えていたことは、ハミュッツではなく、シロンのことだった。そして、ハミュッツと話を交わすことになる。いろいろな見えない糸で物語の全体が無駄なく繋がっているので、後のお話が予想できなくて、かなり物語を読み進めていくと、大体のラストは予想がつくものですが、これは全然最後までわからなかった。それがこの物語のおもしろさだと思います。

ラストですべてがわかる演出

最後で最初に見たシロンの物語が、自分の話ことだったのだと意味が全部繋がる仕掛けになっているのがにくい演出です。「大切な人が大切な人を失った場所」と最初に言われても何のことやらわからなかったのですが、ラストにイアに会いに行きます。そこで、シロンの物語のかけらをみせてもらいます。そして、イアの言葉によってすべてがわかる。「生きる意味なんて一人じゃ見つからないよって言ったわ。どんなに考えたって一人じゃ絶対わからないよって、自分一人で生きてたら、悲しくなっちゃうよ。一人で生きてるって思ってても本当は誰かに優しくされたりしてるから、一人じゃないよ。自分から離れていかないで、遠く離れてるように見えても、ほんとはすぐそばにいるから」きっとこの言葉がなかったら、コリオは動かなかった。全部が繋がって、漫画の最初の方を読み返しながら、よくできた物語だなと感心しました。ばらばらになったパーツがやっと組み合わさったみたいなパズルの感覚です。コリオも最後の最後で目がすわっていて、生きている感覚というのがある人間になっています。それまでのコリオの瞳は、ハミュッツを殺す目的がありながらもどこかうつろです。人に決められたレールというのは、そんなに味気ないものなのです。でも、自分の生きる意味、それを考え抜いたコリオ、シロンと本のなかで出会ったことがすべてを変えていき、ハミュッツ館長代行が敵わない相手にも最後に勝ってしまう。彼とシロンがいないと、世界は竜骸咳で滅んでいく。時空を超えた恋というものが成立した瞬間というのを、その時空に飛んで行かなくてもできるというのを上手に表現しています。お互いにお互いの映像を見て恋をする。憧れに近いような恋なのかなとも思います。戦国時代に飛んで行って恋をするパターンのようなものはたくさん見ましたが、このパターンは新しくてまだまだこのパターンで書けるのではないかなと思います。小説がベースにある漫画ですが、シロンの帽子が飛んでいって、顔が見える。その瞬間に彼が恋をしたというのがよくわかります。ラストにシロンと自分をつなぐ糸のようなものが見える瞬間も、過去の言葉とともに今の映像を重ねてあります。難しい複雑な物語を漫画化ってすごいことなのだなと、見終わった後にため息が出てしまう作品です。

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