『ヴォーグ』の編集長、アナ・ウィンターに密着したドキュメンタリー - ファッションが教えてくれることの感想

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『ヴォーグ』の編集長、アナ・ウィンターに密着したドキュメンタリー

4.04.0
映像
3.5
脚本
3.0
キャスト
3.0
音楽
3.0
演出
3.0

目次

ドキュメンタリーを超えたドキュメンタリー映画

『ファッションが教えてくれること』は、100年以上の歴史を持つアメリカ発祥のファッション誌『ヴォーグ』の編集長・アナ・ウィンターを中心にしたドキュメンタリー映画だ。

『ヴォーグ』はクイエイティブでクールな最先端のファッションを取り上げる雑誌であり、アメリカだけでなくイギリスや日本、中国やフランスに至るまで、世界18か国一地域で発行されているメガマガジンだ。

女性なら、実際手に取ったことはなくても名前だけも聞いたことはあるだろう。アン・ハサウェイ主演の『プラダを着た悪魔』に登場する雑誌「ランウェイ」のモデルとなったことでも有名な雑誌である。

メリル・ストリープ演じる「ランウェイ」の編集長ミランダは冷酷無比な鬼編集長として描かれ、アン・ハサウェイ演じるアシスタントのアンドレアに次々と無理難題を押し付ける姿が印象的だったが、ミランダのモデル(という説が強いだけで、本当にモデルになっているのかは実は定かではないが)アナ・ウィンターも「氷の女」と呼ばれるほど強い決断力とファッションへのこだわりで『ヴォーグ』編集部を引っ張っていく。その姿は、男性顔負けなほどだ。

どんな立場のある人間も、アナ・ウィンターの描く芸術的なファッションの世界には意見が出来ない。『ヴォーグ』に関わる全ての人間にとって、アナの言うことが全てであり、誰も異論を挟めない。そのアナの存在感は絶大なものであり、彼女は『ヴォーグ』のみならずアメリカ、ひいては世界のファッション業界すらけん引する。

そんな独裁的とも思えるアナであるが、劇中では『ヴォーグ』ファッション・エディターでありスタイリストのグレイスとの対立が映されている。ファッション雑誌のなかでもっとも重要な9月号を巡り、ファッション業界のベテランであるアナとグレイスは自らの理想とするファッションのために激しく火花を散らす。

一分野を極めた女性と女性のプライドの戦いは、ドキュメンタリー映画という枠を超えて一本の映画としても楽しめる作品となっているであろう(なお、ドキュメンタリー映画であるため、脚本・演出・キャスト部分の評価は基本点の3とする)。

アナの作りだすイメージに圧倒される

ドキュメンタリー映画ということがあって、『ファッションが教えてくれること』で取り上げられる内容は全て真実だ。それゆえに、観客はアナの生み出す『ヴォーグ』の世界、そして『ヴォーグ』にまつわる人々の苦労を肌で感じるように実感できる。

今作で取り上げられているのは、『ヴォーグ』9月号のテーマだ。ファッション業界で一年でもっとも大事な月でありながら、アナは最大のページ数を目指すという。『ヴォーグ』編集部にとっては、修羅場といえる時期なのであろう。

アナは編集長であり、雑誌の記事を生み出すのはアナの部下たちーーエディターや各種クリエイターだ。アナは彼らの作った記事に承認・非承認を下す。

中でもアナの右腕と称されるグレイスの生み出す世界は、優雅・華美ながら実に繊細だ。そのため、『ヴォーグ』はファッション雑誌でありながら、アートブックのような様相を呈している。グレイスの手がけたフォトは、特に女性ならば引き込まれるような完璧な美しさを誇っている。まるで絵画や、映画のワンシーンのような世界なのだ。

しかし、それにもアナは納得出来ないという。劇中では、アナに却下されて翻弄される『ヴォーグ』編集部の面々がたびたび映っている。モデルと共にロケ地へ出かけ、金と時間をかけて撮った写真なのに、アナは全く納得しない。しかも、どうすればいいという具体的な指示はないのだ。時間もなく、目に見えない焦りと、悄然とした空気が『ヴォーグ』編集部を漂う。このままで本当に雑誌は完成するのか、内部分裂まで起こしそうな編集部の状況に、観ているこちらがハラハラする展開だ。

しかし、アナは自身のサディズムや横暴のために却下を出している訳ではない。全ては、彼女の理想とするファッションのためだ。人に嫌われてまで、芸術を追及する。それこそが、世界を席巻する『ヴォーグ』とアナの世界なのだろうと実感させられる。

結果的に、一度は却下されたグレイスのフォトが、多く『ヴォーグ』9月号のページを占めることになった。のちに、アナはグレイスを「天才」だと認めていることを明かしている。ツンデレかな?

タイトルのセンスがいまいち

さて、ドキュメンタリー映画でありながら創作さながらの展開で魅せてくれる『ファッションが教えてくれること』であるが、一点だけ納得が出来ないことがある。

それは、『ファッションが教えてくれること』というタイトルそのものだ。

俗に「邦題はセンスがない」と揶揄されるが、この邦題のつけ方は本当に謎だ。この映画の原題は『The September Issue』。直訳すれば「9月号」という意味だろうか。

映画の内容は「ファッションが教えてくれること」よりも仕事へのプロ意識や、ファッション業界、クリエイティブ業の難しさを密に伝えるものであって、決して押しつけがましい自己啓発本のようなタイトルの作品ではない。

「9月号」では意味が伝わらないのはもっともであるが、もう少し観たくなるようなタイトルのつけ方をしてほしいものである。

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