キキの成長物語
キキ、一人立ちを決意
物語は、主人公のキキが草原でゆったりとラジオを聞いている場面から始まる。ちらほらと民家があるだけで、大きな建造物もなし、まさに「田舎」。 ちなみにキキが使っているラジオは、父親から拝借したものだ。
「素晴らしい満月の夜になるでしょう。」 おそらくキキは、ラジオから聞こえたこの一言で、今夜旅立ちを!と決めたのだと思う。ガバッと起き上がり自宅へ小走りで向かう。家へと着いた彼女はまず、愛猫ジジに「今夜に決めたわ。」と報告。 そして次に魔女である母親に報告する。その場面には、古くからの客であろう老婆が、椅子に座って薬が出来上がるのを待っている。キキの突然の決断に母は、何を急に、と驚きのあまり声を上げる。 いつでもいいわけではなく、「満月の夜」というのがお決まりらしい。そのため、当初の予定では次の月の満月に出発する予定だったが、どうしても晴れの日がよかったキキは、急ぎ取り決めたのだ。 出発の準備をするキキはウキウキとしていて、まだ見ぬ世界に胸を躍らせ、これから起こることが楽しみで仕方ない、そんなふうに見えた。一方愛猫ジジはというと、どことなく乗り気ではない、キキとは正反対の表情をしているのがおもしろい。決めたらこう!という曲げない性格のキキについていく彼の気苦労が伺えるシーンだ。 その後しばらくして、父親が部屋に様子を見に来る。小さい頃から見てきた娘の成長に、ほんの少し切なくなりながらも背を押すその姿は、理想の父親像だ、そんな風に思う。
出発の時、親しい友人や近所のひとたちに見守られて、キキは旅立つ。 生まれ育った土地を離れることに対しての悲しみや不安などは一切感じられない、やる気に満ちたキキの表情。彼女の姿が見えなくなっても遠くを見つめる両親の姿が、印象的なシーンだ。
新しい街、理想と現実
キキは「コリコ」という大きな街へと降り立つ。自分が育ってきた場所とは全く違うその景色に驚き、そして感動する。街には多くの自動車、人々がうごめくように溢れていて、それでいてキキに話しかける人はいない。挨拶もそこそこにまるで異端を見るような人々に傷ついたキキは、あてもなく歩きだすのだが、その姿は、出発を決めた時の彼女とはまるで別人のようだ。愛猫のジジだけが彼女を優しく励まそうとしてくれる。彼女を想うジジの気持ちがよく描かれている、良いシーンだと思う。
さて、誰も自分を好きになってはくれないのではと悲観に暮れるキキではあったが、物好きな少年「トンボ」や、その後家においてくれることになった「オソノ」たちと一緒に、キキはこの街で生活することになる。ここで思わずクスッとしてしまうのは、愛猫ジジと、オソノの夫の無言のシーン。パンが乗った鉄板をクルクルと器用に回しながらさばくその姿に、ジジは目を大きくあけながら思わず「わあ~!」と声をもらす。キキを家におくことになった時も、夫の意見など聞かずにオソノの独断で決まってしまったものだから、さぞかし不満なのだろうなと考えがちではあるが、このシーンを見ると、案外そうでもないのだなとわかる。
そしてキキは、宅急便屋をはじめることになるのだが、ここでもジジは嫌そうな顔で、キキとの態度の差に思わずニヤリとしてしまう。何事にも一生懸命な彼女の姿は、この作品の見どころの一つだ。わずか13才で仕事をしているのだからすごい。それくらいの年の頃、自分は何をしていただろうかと思い返してみると、学校でただただ黒板を見つめていたことしか記憶にない。 少しずつ仕事に慣れてきたかと思われたある日、キキは突然飛べなくなってしまう。その前にトンボという飛行オタクな少年から、パーティーへと誘われるのだが、仕事が終わらずに、挙句大雨に打たれ、熱を出してしまうのだ。それまで風邪をひいたことがなかった彼女は、「わたし、死ぬのかしら。」と一言。そんなキキを笑って看病するオソノの姿に、きっと故郷の母親を思い出していたのかな、と思う。慣れない土地でひたすらに頑張るキキの姿に、胸うたれながらも、自然と応援したくなってくる。
キキ、ヒーローになる
ある日ふと目にしたテレビで、飛行船にぶら下がっているトンボを発見する。急いで家を飛び出し彼を助けに行く姿はまさに「ヒーロー」そのもの。その時箒を持っていなかったキキは近くにいた掃除夫のおじさんが手にしていた“デッキブラシ”で飛行に挑戦する。なかなかうまくいかずに最終的には、そのデッキブラシに向かって「燃やしちゃうわよ」などと話しかけるのだ。 その時の周りの人間たちの反応がおもしろい。 「この子、一体何するつもり?」誰もがそう思っていただろう。 なんとか救出できたことにホッとしつつ、少し残念に思ったのは、愛猫ジジとのコミュニケーションが取れなくなってしまったことだろう。あの熱を出した日からジジと会話することが出来なくなってしまったキキは、飛ぶことが出来るようになったその後も、ジジとは話せないままであった。そこだけが少し残念に思う。あの仲睦まじく会話する二人の姿を、ぜひともまた見たかった。とはいえこの一件でキキはこの街のひとたちに知れ渡ることになり、知名度もグンと伸び、人気者になったのだ。結果オーライなのかもしれない。そして最後に注目したいのは、キキ役の声優さんである、高山みなみさんだ。彼女はキキ、そしてウルスラという少女の二役をこなしている。何回もこの作品を見ているが、この二人を高山さん一人でこなしているとは全く思えない。まさに神業、そんな風に思う。
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