結婚式を巡る「なんてこった!」なミュージカル
歌! 歌! 歌! とにかく歌だらけの110分
『マンマ・ミーア!』はギリシャの架空の島を舞台した、ミュージカル映画である。
映画としてのタイトルはもとより、たびたび舞台などでメディアに紹介されることから、日本国内で名前を聞いたことのある人は多いであろう。
『マンマ・ミーア!』元がミュージカル作品ということもあり、歌が作中のほとんどを占める。
タイトルともなっている"Mamma Mia" はもちろん、"Money, Money, Money"や"Dancing Queen"など、作中で使われている曲たちは有名なアーティスト・ABBAの名曲ばかりであり、日本人にも聞き覚えのあるものばかりだ。
登場人物たちが陽気に楽しく歌い、踊る姿は元気を貰え、全編を通して楽しく観れるであろう。
だが、曲はフルバージョンで歌われることが多く、その間はもちろん展開が進まないため、後半になると少し冗長ぎみになって飽きてしまうかもしれない。
映画館で観るより、パッケージでじっくり、休憩を挟みながら観るのに適した作品であろう。
大女優、メリル・ストリープの実力が発揮される
物語はエーゲ海の島でホテルを営む母娘・ドナとソフィーが中心となって展開される。母ドナは娘ソフィーを女手一つで育て、やがて成長したソフィーは青年・スカイのもとに嫁ぐことになったが、ついにソフィーの父親がわからないまま結婚式を挙げることになる。
自分の父親を知りたいソフィーは、かつて母ドナと交際していた男性三人を母に内緒で呼び寄せ、結婚式に呼ぶ…というのが騒動のもとになる。ドナはいずれも自分のもとには残らなかった三人の男性を拒絶するが、ソフィーのために少しずつわだかまりを解いていく…。
一見、物語は花嫁であるソフィーのようだが、実際に鑑賞してみると、母親であるドナのほうが主役であることがよくわかる。
それが故に、ドナ役にはミュージカル映画の主役足りうる歌唱力と、若く美しいソフィー役を超える存在感が求められた。
そんな求められるハードルが高いなかで、ドナ役に選ばれたのは名女優メリル・ストリープである。
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』で「鉄の女」サッチャー役を、『プラダを着た悪魔』ではランウェイの冷血編集長であるミランダを演じている。メリル・ストリープは持ち前の気品あふれる容姿からか、演じる役はいずれも気位が高く、立場・地位のある女性を演じることが多い女優である。
しかし、ドナは若い頃色々遊んだ明るく破天荒な女性であり、それまでのメリルのお堅いイメージを覆す驚きの配役であった。
更に観客を驚かせたのは、満面の笑顔で歌い、踊る顔も、男たちの登場に嘆くシーンも、娘の結婚を喜ぶ母の顔も、見事に演じるメリルの姿である。
主役であるドナは、『マンマ・ミーア!』の登場人物のなかでも全編を通してもっとも歌うシーンが多い。歌の種類も実に様々で、ムーディーな曲やハイテンポな曲、エレジーやバラード、ポップスなど、実に多岐に亘る。歌いこなすには様々な課題があっただろう。しかし、メリル・ストリープはその全てを完璧に演じてのけた。
『マンマ・ミーア!』は、このように大女優メリル・ストリープの演技を観るためだけに観てもいい映画である。
また、ドナの親友であるロージーとターニャも、ドナと一緒に年齢のわりには(失礼!)激しくアクティヴなダンスを求められた。しかし、ロージー役のジュリー・ウォルターズも、ターニャ役のクリスティーン・バランスキーも、見事ドナのダックダンサーをやってのけた(時折彼女たちが主役となる歌唱もある)。エンディングクレジットで登場する妙齢のマダムたち三人のダンスは、飛ばすのが惜しくなるほど不思議でエネルギッシュなオーラを放っている。
舞台となるギリシャ・エーゲ海の美にも酔いしれる
また、『マンマ・ミーア!』のもう一つの見どころが、舞台となっているギリシャ・エーゲ海の美しさだ。
島じゅうにある白壁の建物の美しさ。厳しい断崖のうえに佇む壮麗な教会。ギリシャ特有の織物や色とりどりの野菜やフルーツ。なにより、コバルトブルーのエーゲ海は、ため息が出るほど美しい。
登場人物たちは、ミュージカルのさなか海に飛び込んだり泳いだりするのだが、灰色の太平洋ばかり見ている日本人からすれば、なんともうらやましくなる光景だ。
『マンマ・ミーア!』の物語のもととなった大騒動も、いかにもギリシャ人のおおらかな性格を映しているようで、映画にはぴったりの舞台といえるだろう。
このように、『マンマ・ミーア!』は一本の映画として観ると、ミュージカル部分が長かったり、結局ソフィーの父親の正体がわからないままで終わるなど、消化不良の面も多いが、細かいことを考えず元気を出したいときに観るのは最適の映画であるといえる。
仕事や恋愛に疲れたとき、舞台となったギリシャ・エーゲ海の美しさと、登場人物たちのダンスや歌に夢中になれば、自然と元気を貰える。
『マンマ・ミーア!』は、そういう作品なのではないだろうか。
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