実写化漫画の成功例
素晴らしいキャストでの実写化。至福っ…!
特徴的言葉回し、金の人間の真理を突いた漫画家・福本伸行の作品は、老若男女問わず多くの人に読み愛されている。
『アカギ』『賭博覇王伝 零』『銀と金』など、ほとんどの作品がギャンブルや賭博と関連しているのが主な特徴だ。命を削るようなオリジナルのギャンブルの数々は、独創的な設定と駆け引きの面白さから、多くの熱狂的ファンを生み出している。
その福本伸行の代表作『カイジ』が、ついに実写映画となった。香川照之、天海祐希など、実力派の俳優陣が脇を固め、自他ともに認める”クズを演じさせたら当代随一”の藤原竜也が、主人公であるカイジを演じている。
キャストの布陣は盤石。宣伝も功を奏してか、興行収入は 22.5億円にもなった。漫画の実写化はダダ滑りの酷評の嵐になることが多いなかで、かなりの大成功といえるだろう。
もちろん、制作陣はキャストに全てを甘んじた訳ではない。漫画では一見しただけではわかりにくかったギャンブルの駆け引きも、人間同士の心理描写も、『カイジ』といえば忘れていけない「ざわ…ざわ…」もサウンドでしっかりと表現するなど、細部に至るまで全く手を抜いていない。
秀逸な脚本、実力派のキャスト、手を抜かないサウンド。全てにおいて、実写版『カイジ』にふさわしい盤石の舞台を揃えたうえで臨んだ作品なのである。
圧倒的良作っ……! 制作陣のこだわりが見える一作
映画になって初めて、『カイジ』という作品を知った(観た)という人は多いだろう。筆者も、『カイジ』が面白い作品だということは知っていても、駆け引きのシーンが文字が多く、一度読んだだけでは把握できないため、なかなか進んで読もうとはしていなかった。
しかし映像化したことによって、セリフで上手いこと駆け引きが集約され、ルールや状況が大変わかりやすくなっている。しかも、藤原竜也によるモノローグが大変緊迫感があり、勝負のさなかの緊張感が全く損なわれていない。このあたりの配慮は『カイジ』初心者にはとてもありがたく、福本作品の入門編としても大変良く出来ているといえるだろう。
また映画の構成としても一流だ。カイジが勝負に挑むギャンブルパート、カイジと周囲の人間とのやり取りを映す会話パートのバランスが非常に良く、観ていて全く飽きない。蛇足の説明や不要なパートがないため、ごく自然な流れでカイジが勝負へと挑んでいく。無駄のない、素晴らしい脚本といえるだろう。
もっとも素晴らしいのが、『カイジ』の肝であるギャンブル(勝負)のシーンだ。カイジが挑むことになるギャンブルは、話が進むにつれてますます熾烈なものになっていき、観客も否応なしに引き付けられていく。
カードジャンケンでは借金帳消し、鉄骨渡りでは命の綱渡り、Eカードでは人生をかけた最後の大勝負と、それぞれカイジが限界を超えた勝負へ挑んでいくため、観客は結末まで固唾を飲んで見守ってしまう。最後の利根川とのEカードの鬼気迫る勝負は、藤原竜也と香川照之の魂の籠った演技が更に観客の熱を高めてくれた。
そしてクライマックスの、”クズ”であるカイジが利根川の頭の良さを逆手にとって勝利を掴む一連の流れは、爽快感があり心が打ちふるえるほどであった。
このように、脚本も、役者の演技も、漫画版『カイジ』の魅力を存分に引き出す最高のものだった。
映画『カイジ』を観て、原作漫画を読みたくなった人も多いことだろう。また、その完成度の高さから、漫画ファンからも多くの賞賛を浴びている。理想的な漫画実写化の成功例といえるだろう。
また、細かいところにはなるが、Eカードやジャンケンカードなど小道具の出来も素晴らしいものだった。こういった細やかな点にも気を抜かなかったため、『カイジ』は良作となりえたのではないだろうか。
かなり完成度が高かっただけに、続編が残念極まりない。なぜこうなったっ…!
映画としての完成度も高く、漫画の実写としても申し分ない出来だった『カイジ』。
舞台が現代で再現しやすかったこともあるだろうが、この成功を裏付けたのはやはり制作陣の情熱に依るものだろう。
昨今、漫画の”手当たり次第”の実写化が増えているが、お世辞にも素晴らしい出来とは思えない。人気漫画をモチーフにすれば売れると思っている怠惰な制作陣は、『カイジ』をモデルケースにし、後学の参考にしてほしいものだ。
なお、蛇足になるが、続編である『カイジ2 人生奪還ゲーム』全くダメだった。
なぜ『カイジ』に恋愛要素を入れようと思ったのか謎である。おそらく、人気女優とのラブストーリーを挟めば女性にも観てもらえると思ったのだろうが、完全に失敗だったといえる。
映画オリジナルの吉高由里子演じる石田の娘は行動が全く支離滅裂で、存在する意味がわからないほどだ。ラブストーリーを入れれば売れるという安易な考えが、邦画離れを加速させる原因だと思うのだが…。
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