乙女の心に咲く希望を全部詰め込んだ作品
妄想暴走娘、星名愛理は努力家
星名愛理は、妄想が暴走する乙女です。普通の家庭を夢見ていたはずなのに、魔法王国からアラムが来てしまう。暗闇に身をおくと大きくなるジェイルの魔法で、愛理と同じ年齢にまで成長してしまう。夜に小さかった男の子が、朝になったら変身している?愛理は半信半疑。絶妙のタイミングで鏡を通って、レイが華麗に現れます。それがちゃんと愛理に説明しています。これは魔法なんですと。
愛理は、いい奥さんになるタイプだなと感じました。2階にひとり暮らしの割には、部屋が散らかっていない。料理もできる。高校生の年齢でできる子ってやる気がある子なんだなということがわかります。アンケート集計も人の手を借りずに自分がやってきて、委員長に「これはパーセントで出すことにしなかったっけ・・・?」と聞かれるシーンでも自力でパーセントを出し、まとめることを宣言します。「自分を上げる努力はしなくちゃね」という言葉からもあるように、掃除、料理も頑張って、委員会活動も頑張っている努力家だということがわかります。ちゃんと副委員長に選ばれたのにもわけがあるんだなと感じました。
いきなり愛理がアラムのお気に入りになれたのは、料理の要因も大きかったのではないでしょうか。作ってみると、オムライスは難しいです。中身は作れても外の卵が結構やぶけます。中身のご飯をちゃんと包み込むオムライスができるってすごいです。オムライスの上にかかっているソースもこれは!デミグラスソースでしょ!ケチャップだったら、こんな風にたっぷりかけない。デミグラスソースもいい奥さんになる第一歩だからと、愛理なら妥協がないような気がします。それを暗示させるのがアラムの食べっぷりのよさ。きちんとソースを妥協なく作っているから、舌が肥えていると予想される王族アラムでもすぐに平らげてしまう。このオムライスは、アラムのお気に入りになり、たびたび料理というとこのオムライスが出てきます。まさしくお気に入りの乙女になれたのは、アラムの胃袋をしっかりと満たした愛理の勝利です。
王子様たちの登場にため息
アラムは、8歳の設定ですが、きちんと「男」しています。かっこいいんです。ジェイルの魔法のおかげで17歳の彼が見れることに感謝です。オムライスにはぁぁとため息をつくシーンは、かわいい男の子だし、自分の好きな風船を元気のない愛理に差し出して、一所懸命に喜ばせようとするシーンなど、アラムの精一杯が伝わってきていいです。
ジェイルは、情熱的な人です。でも、ラストでちゃんとレイのお姉さん、ネイと結婚したんだなと思いました。ネイとの子どもが生まれましたが、ジェイルの秘密の花園には、メイドさん姿の娘さんたちがまだいるような気がします。ひとりに集約した純度を高めた思いは、彼の場合、まずい・・・。山百合の乙女、愛理の趣味の部屋を作ったとき、愛理人形までいました。なんて愛のいれようなんだと恐ろしくなった。その表紙で、愛理人形を兄から奪還しているアラムの姿が!あの部屋から奪ったのかなと妄想を膨らませてしまいます。
アラムは絶対浮気しちゃダメだけど、ジェイルは浮気をしてもいいのだと自然に思えます。それがこの王子のすごいところです。女性の扱いにも慣れていて、アラムが愛理を思い出さないところで、彼女の悔しさをよくわかってハンカチを出すシーンなんて、生きてきた年数の違いを感じました。フリルとリボンが似合う王子といえば彼しかいない。ここまで堂々と着こなしができる人は、彼以外にはいないかも。複雑な魔法も使えて、女性の扱いにも慣れていますが、極端すぎる男のために少し抜けている感じが面白いキャラクターに仕上がっています。すべてが完璧の人よりも、少し抜けているほうが人間らしくて面白味が出ています。
理想と現実の恋
理想の恋が仲央路くん、現実の恋がアラムとしっかり分けて表現しています。愛理が仲央路くんなら、いいお父さんになりそうと感じ取ったとき、彼は理想の人です。大草原の結婚物語のような結婚、仲央路くんとなら叶ったかもしれない夢。仲央路くんが、大草原の結婚物語のビデオを返そうとしました。愛理は人生のバイブルとまで言っていた、あの大事にしていたビデオをあげちゃいます!彼の方を振り返りもせずにまっすぐに走っていく。「自分の物語を作る時間だ」と愛理が思っているように、夢見る時間は過ぎたのです。理想の恋との決別のときがこの一瞬に表されています。
理想の恋、仲央路くんのほうを向きながらも、愛理の心はすでに好きな人がアラムだとわかっていた。「私あいつとは別に付き合っているつもりないから!だから・・・」その先の言葉が言えなくなるほど、好きだと心が欲しているのに、愛理を躊躇わせる魔法の存在、彼は現実にはまだ小さい。無意識の意識下で、無理だと思っているのがよくわかります。永久の牢獄につながれるところで、アラムと古の結婚の約束を知らぬ間にさせられてしまう愛理。無理矢理の展開のようですが、そうでもしないと自分の心と向き合うこともできなかったのではないかなと作者の手腕に拍手を送りたいです。
好きな人アラムとの結婚する場面で愛理が思っています。「引き返せない道を今歩いている。残してきた色んな周りの事見向きもしないで、アラムだけを見て・・・これから先後悔する瞬間が必ず何度でもある。それでも、傍にいるのがアラムなら・・・」結婚に後悔はつきものです。江原啓之さんも某番組で「結婚とは忍耐です」と言われていました。後悔する瞬間も含めて好きな人となら、どんな苦労のなかも歩いてゆけると思っている愛理の姿。暗い廊下をひとりで歩いているところから、アラムと二人で明るいお披露目の席に出る瞬間。愛理が「どうして私を・・・選んだの」との問いにアラムが「違う。選んだんじゃない。出会ったんだ」という言葉に、人の力ではどうもできない大きな運命的な出会いと転機を感じました。愛理がこれからまったく別の人生を歩んでいかなければならない瞬間です。ページ数をたっぷりとって、丁寧に描かれているのがわかります。
この物語のベースには、童話があります。王子さまのキスで目が覚めるねむり姫、逆バージョンのかえるの王様がふんだんに使われていて、それがカレーに入ったスパイスのように効いています。小さい頃から聞いていた童話は、なぜか心に残っていて「いつか王子様が」の白雪姫の歌にあるような夢を、誰もが知らぬまに心のなかに刻んでいる。それが上手に作用されて、物語が作りこまれています。ただ、この物語がいいと思わせるのは、愛理がただ王子様を待つだけの存在ではないというところです。想いの小箱に「愛理の記憶」を吸い取られたアラム、マリアベルの後ろにはレイがいて、さらにその後ろにラズがいて、ラズの後ろには王妃様がいた!黒幕王妃様とは!その困難をくぐり抜けなければならない。ジェイルの助けを借りることにはなりますが、ひとりで対峙しなければいけない。映画の「エバー・アフター」のダニエルを思い出します。シンデレラのお話なのですが、魔法がない世界なので、自分の力でなんとかしなくてはいけない。それが困難に対峙した愛理と重なります。ヒロインなのにヒーローの立ち位置ではないかと思えてしまうようなかっこいい姫なのです。ただ待っていれば王子様がやってくるだけのかわいい姫ではないのです。「自らの運命を自ら切り開く!」これがこの物語のテーマのような気がします。
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