何度も観れる舞台
箱舞台
ビルの一室に集まった如月ミキのファンである5人の男たちが織りなす物語で、事件の証言ビュー以外はそのビルだけが映されていくワンスチュエーションものである。ワンスチュエーションものでも、カットを積み重ねていくタイプもある中で、本作は積み重ねていくというより、ビルの一室という舞台を様々な角度で描写するタイプで、映画というより舞台をみせられている感覚であった。特にそういう印象を引き立てたのはセリフ量であった。映像でみせていくのが映画的であると考えるならば、このセリフで紡いでいく手法は舞台的といえる。逆に生の舞台でこの5人の掛け合いを観てみたいものだ。それだけにこの5人の掛け合いは面白かった。こういったセリフがものをいうみせ方をする場合、役者の力量不足では単なる三文芝居になりかねない。しかし、本作はたまに芝居が極端すぎる粗も含めて、5人ぞれぞれの役割をパワフルに発揮し、成功を収めたから、面白かったのである。
さらに、5人の芝居の成功に付け加えて、この狭い箱舞台を面白く映し出していった映像の構図も本作の面白みをを増幅させたと思う。確かに映画的ではないが、この舞台をどう映していくかと考えたときに遊び心があふれる構図ばかりであった。例えば、いちご娘が犯人に疑われる下りにおいて、構図上では3人が奥で話していて、手前にいるいちご娘の焦る表情は観客の目にしか、映らないようになっている。よくあるカット割りでは、3人が話しているカットの間にいちご娘の焦るカットを挿入するといったところであろうか。これを本作では同時並行でみせる。これだけではよくあるアイディアともいえるが、角度が階段下ということからか、下からのショットになり、さらに空間の狭さもあいまって、なにかあの狭い空間から覗いているような感覚を味わうことになる。これが面白い。事件の真相なるものを観客が現場の登場人物よりもいち早く感づける構図になっているのである。観客というものは登場人物よりも先に物語を先行したがる生き物であり、そこを意識して作られたものは比較的面白がられる傾向にあり、それが本作では至る所で使われていると感じた。
事件の真相は考え放題
エンディング後に違う証言者が現れ、如月ミキを殺した新犯人がいると言って終わる。事件にはこの物語が語っていない、または登場人物たちが見逃した真実があるといったテイストであり、事件の真相という意味では観るたびに違った見え方がするように巧妙に筋道が仕組まれている本作は見事である。一人一人が疑われ、その度にそうかもしれないと観客は振り回される。そして、さんざん振り回されたあげく、事故死に落ち着く。事故死に落ち着いた流れは本当にあっぱれな筋道で面白いのだが、如月ミキのアホさがあってこそだと思うと何か疑わしさがある。また、オダ・ユージ、スネーク、いちご娘に関しては犯人の疑いをきっちりかけられているが、家元と安男に関してはそれがなかった。その点がどうも疑念を残させた。特にラストのプラネタリームでそれぞれが回想にふけって終わるという、べたなお茶の濁し方もその疑惑を増幅させた。本当に回収したように見せかけて、しかしところどころに疑惑の種を残し、観客にもう一度観たくさせる。何度見ても楽しめる作品といえる。
脚本家古沢良太
本作と古沢さんのその後の作品であるドラマの「リーガル・ハイ」と映画の「エイプリルフールズ」にはある共通点を感じた。それは言葉の不確かさ、嘘、ということである。この2作がたまたま私のお気に入りということで、他の作品に関しても同様にその共通点は語られているかもしれないが、今回は芝居のテンポの似ていることも考慮にいれ、上記の2作品との言及に抑えたいと思う。
「リーガル・ハイ」に関しては本作で5人で分担していたものを堺雅人一人がやり切ったという芝居である。彼が扮する主人公は弁護士として嘘も方便として戦うのであり、実に言葉巧みである。逆に言葉の不確かさを遊び、利用しているともいえる。職業柄とはいえ、実に汚いともいえるし、それを考える脚本家の古沢さんのすごさを感じるものである。
そして「エイプリルフールズ」に関しては、タイトル通り嘘を扱った作品である。オムニバスの物語でこちらは素敵な嘘が沢山使われており、嘘の悪い響きを払拭するものであり、これまで言葉の不確かさと向き合ってきた古沢さんの総体性といえるのではないかと思われる。
さて、この後の二作品に言及したうえで改めて本作の「キサラギ」についてみていく。仮にやはり彼らの証言にそれぞれ嘘があり、自分が犯人であることを隠しているのであれば、実に汚い嘘を吐いたことになる。しかし、物語の結末のように皆が傷つかないようにという思いでの嘘と思えば、実に素敵な嘘を互いについたことになる。行動こそが真実とされる映画において、先ほども触れたとおり、本作はセリフに頼る部分が大部分を占めているだけに、もろい根拠の上に物語が成り立っていることになるが、その不確かさゆえに解釈が如何様にもできる豊かさを本作は持ちえたといえる。
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