朝食を通じて成長する。仕事、恋愛、全ての女性に共通するストーリー。
全てに疲れた日に読みたくなる。朝食と女性たちの物語。
どんなにつらくても、どんなに悲しくてもお腹はすく。涙しかない夜。それでも、朝はやってきてしまう。そんなどうしようもない朝、目の前に素敵な朝ごはんが現れたら。きっと多くの女性が救われる。主人公の麻里子、その友人たちも朝ごはんに救われる女性たちです。ドラマの主人公やアイドルのような特別な女性たちではなく、ごく普通のアラサー女性たち。まるで自分のような女性たち。私はいつも、主人公たちの経験や会話に自分が重なります。恋をして仕事をして美味しいものを食べて。その一瞬の表情は、どの女性にも通じるはず。心が疲れた日、私はこの「いつかティファニーで朝食を」を読み、つかの間のホッとする時間を味わいます。「こんな気持ち、私だけじゃないんだ」「そう!こういう時って本当にそう」アラサー女性の微妙な心の揺れ動きを肯定してくれる漫画です。
絶妙なタッチで描かれる朝食、登場人物の表情。
この漫画の魅力は、ただ上手なだけでない絶妙なタッチの絵。昭和初期の少女漫画みたいなレトロ感に、現代のおしゃれ感がマッチした他にはない絵です。だからこそ、朝食が映える!「いつかティファニーで朝食を」に出てくる朝食は、実際のお店がモデル。そのモデルを壊すことなく、素朴なものは素朴に描くというあるがままの姿に好感が持てます。ある日はモツだったり、コッペパンだったり、おにぎりだったり。「女性は可愛いものが好き」という一般論ではなく、ちゃんと街中にいる等身大の女性が食べたい朝食が反映されている為、現実味があります。個人的には、飯テロと呼ばれる多くのグルメ漫画の絵は苦手です。妙にテカりが強かったり、線が細すぎて食べ物に味があるようには見えなかったり。ですが、「いつかティファニーで朝食を」の作者は、きっと素直に朝食が好きなのだと思います。「好き、だからこう書く」というストレートな姿勢が伝わってきます。また、ふとした瞬間の呆然とした顔、気が抜けた顔、怒りを抑え込もうとする顔。自分だけが取り残されているのではないかと心配な姿、好きな相手とうまくいかない格好悪い姿。そういった本来、女性が誰かに見せたくはない顔や姿もリアルに描かれており、何だか安心感を持ってしまう漫画です。また、私が朝食、登場人物の表情と同じくらい注目しているのがファッション。元々、主人公の麻里子はアパレル会社で働く女性。センスが良く、着こなしが難しい流行の服も難なく取り入れています。主人公の友人たちも、それぞれフェミニン系、ナチュラル系、クール系と系統は分かれているものの、ファッション雑誌を見ているような感覚です。
アラサー女性が抱える心のモヤモヤ。優しく包み込んでくれる。
私は、大人になればなるほど、綺麗事だらけの少女漫画を読むと虚しくなってしまいます。だって、現実は、アラサー女性がいきなり年下の美少年に告白されたりなんてしない。モテないアラサー女性が眼鏡をはずして超美人、人生大逆転なんて漫画だけの話。シンデレラストーリーもいいところ。本当のアラサー女性は、時に爽やかではない恋愛をし、仕事で言い争いもする。若い女性にいいところ取りされてしまっただけで終わったり、アラサー女性そのものを話のタネにするオジサンなんてものもいる。だからなのか、全てがうまくいかないなんて日常茶飯事。その中で日々、心に積もっていくモヤモヤ。このモヤモヤを、「イタイ」「負け犬」「行き遅れ」「BBA」と表現し、笑いもののように取り扱う漫画家は多い。そういう漫画家が、優越感に浸りながら漫画を描いているのか、自分の経験を面白おかしく描いているのかどうかは知りません。でも、この「いつかティファニーで朝食を」は、どちらでもないと信じています。なぜなら、主人公たちが抱える心のモヤモヤは、自分のごく身近に感じる性質のものだからです。ただのネタではない、独特のゆるいタッチの絵に潜む本音の部分。それは、本物のアラサー女性にしか分からない光と闇で、優越感や面白おかしい体験談では語れない類です。そして、その語れない類の物語を、作者はそっと優しく包み込んでくれています。「人間、イタくてもいいんだよ。負け犬でもいいんだよ」といったお説教とは違い、「そんな時もあるかもしれないけど、美味しい朝食を食べよう。忘れよう。そして頑張ろう。きっといい事もあるよ」というシンプルで一番胸に響くささやかな応援です。私は、このささやかな応援をとても心強く感じます。「きっと私に似たたくさんの女性たちが、この漫画を読んでる。皆、心のモヤモヤが少しでも晴れるといいな。美味しい朝食を食べていればいいな」と想像することで自分の励みにしています。だから今日も、仕事終わりの疲れた夜に「いつかティファニーで朝食を」を読みます。明日の朝食が、ちょっぴり素敵な時間でありますように。
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