作品自体がひとつの生命体として成長してゆく作品 - Mの悲劇の感想

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ドラマレビュー数 1,147件

Mの悲劇

4.004.00
映像
4.00
脚本
4.50
キャスト
3.50
音楽
3.50
演出
4.50
感想数
1
観た人
1

作品自体がひとつの生命体として成長してゆく作品

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
3.5
音楽
3.5
演出
4.5

目次

どうか最後まで観てほしい!!

稲垣吾郎さん主演の2005年放映版を

視聴したのだけど・・・

「どうか最後まで観てほしい!!」

と願わずにはいられない作品。

というのは、何よりもまず、

ドラマ序盤から中盤、そして終盤に向けて、と、

どんどんと世界観とエネルギーが

変容していくからだ。

全体を通してでなければ味わい尽くせない

この作品の全体像、というものがある。

それは、

ラストまで観て初めて実感できる、

そんな構成になっていると感じるのだ。

私はこのドラマ、

リアルタイムで観たのではなく

好みのドラマを探していた時

たまたま見かけたレビューに惹かれて観たのだけど

もしそれらの前情報が一切ない状態で観始めていたら、

もしかしたら途中で観るのをやめてしまったかも、しれない。

冒頭は特にそうだった。

そもそも観ようと思った理由が、

「ヒューマンドラマ系の復讐もので

 演者の怪演も見どころ」

という前情報に期待してた、というものだったから、

観始めたとたんに流れるコミカルなBGMと演出に、

「あれ?これ、コメディドラマ・・、ですっけ?

 同名タイトルの別物・・??

 アタシ、間違えちゃった???」

と、思わず確認してしまったくらいだ。

更には、だいたい4話くらいまでだろうか、

観ていてツッコミどころが満載で

主人公「衛(まもる)」の行動、

復讐をはかる、長谷川京子さん演じる

「美沙」の復讐理由、などなど、 

いちいち

「え!?」「え!?!?」

と、ひっかかってしまい、

言葉は悪いが正直、

「なんか、薄っぺらいな~~~・・・」

という印象だったのだ。

ところが。。。

5話あたりから様子が変わり出す。

今までツッコんできた諸々の違和感や伏線が

少しずつ回収されていき始め、

薄っぺらくて残念・・・

と思っていた内容の背後にあるものが、

ひとつひとつ明らかになっていき、

どんどんと深みが増してゆく。

重みも増してゆく。

な・なんだ、この重厚感は!!と。

そして、観ている最中はその、

回を重ねるごとに変容していくそのエネルギーに

不思議なとまどいを感じていたのだが、

終盤に向かい、全容が観えてくればくるほど、

この作品自体が、ひとつの生命体に思えてきて、

やがて、

「ああ、これは「衛(まもる)」そのものだ」

と、思うに至るのだった。

主人公「衛(まもる)」の成長と共に作品も成長

冒頭の「薄っぺらい」という印象はまさに

主人公「衛(まもる)」そのものを表現していると

いえるのではなかろうか。

幼い頃、家に泥棒が入った時の体験ゆえに、

常に危険を回避し、

常に防衛的に生きることを

自分の信条として成長し、

「安全を売る」警備保障会社に勤務する。

でもそれは、

「人を信用しない」

という在り方の上に成り立っているので

「生身の人間」というものが

見えているようで見えていない。

決して杓子定規では測れない

リアルな人の心、想い、

物事の背景にある人との関わり、

そういったものが見えていない。

「衛(まもる)」自身が、

自分自身のそういった「生身の心」を直視することなく

防衛的かつ盲目的に生きているから、

「1+1=2」

といわんばかりの

機械的・平面的な視野で

世界を体験している。

その、「衛(まもる)」自身の視野で

このドラマは展開されているのではないか。

だから、序盤の世界観が

平面的で薄っぺらい、と感じたのも

「美佐」と出逢う前の「衛(まもる)」の世界観そのもの 

といえるのでは、と思う。

でも、宿命の相手ともいうべき

「美沙」に出逢い、

彼女の数々の復讐を味わわされていくことで

「衛(まもる)」はどんどんと

自分の無自覚な部分に気がついてゆく。

それまでの在り方ゆえに

気持ちが行き届かなかったこと、

見ようとしてこなかったこと、

眼をそらしてきたこと・・・

それらを直視せざるを得ない

数々の試練が「衛(まもる)」を襲う。

でも、そのおかげで

どんどんと彼は人間的に深みを増してゆく。

人の傷みをリアルに感じてゆく。

自分の弱さをゆるし

相手をゆるしてゆく。

「衛(まもる)」がどんどんと自分自身を

見出していけばいくほど

彼が体験することもどんどんと変容していく。

誰も信用せず防衛的に生きていた序盤では

誰も彼の言うことを信用してくれない。

でも、誰からも見放されたどん底の中、

彼を心から愛する母の

「自分自身と向き合うことで

 相手の心も見えてくるかもしれないわよ」

という言葉が彼の心に響き、

少しずつ心のカギを開いていくにつれ

それまで聞く耳もたなかった刑事が

興味を示してくれるようになっていったり

徐々に周りの誤解も融け始めてゆく。

やがて、自分自身の過去と完全に向き合い

自分自身の弱さを認めると

本来の「衛(まもる)」自身の

一番の本質が自然にあふれ出し

本当の意味での

「安全」「大切なものを守る」という

彼ならではの人間性が

生きる理由を見失っていた

一人の女性を救うまでに至るのだ。

そして、「衛(まもる)」が

本来の自分の視野を取り戻した頃には

このドラマの深みとボリュームは

序盤とは比較にならないほどにまで

変容を遂げている。

ここまで世界観の変化率が高いドラマも

なかなかにめずらしいのでは。

ストーリーの展開が

派手になっていく、とか

劇的になって盛り上がっていく、とか

そういうのは一般的かもしれないけど、

ドラマの世界観とエネルギー自体が 

主人公の成長と共に変容していく、

っていうのは、ね・・・

演出、脚本、ブラボーですね。

善悪を超えた人間普遍のありよう

この作品のテーマのひとつだと感じるのは

「誰もが加害者であり被害者である」

という、人間普遍のありよう、かな。

どんなにまっとうに生きていたとしても

人は「生きている」というだけで

「魂の因縁」というものを携えて生きている。

悪意がなかったとしても

ただただ、自分らしく生きていたとしても

どこかで誰かを無自覚に傷つけている。

そんな自分もまた

悪意のない誰かに、傷つけられても、いる。

この世界は

そんな相対の二元的世界だけど

「やった・やられた」

「加害者・被害者」

という、どちらか一方の平面的な視野だけでいたら

永遠に悲しみや憎しみのループから抜け出せない。

でも人はたとえば、

加害者・被害者という、

相反する両方の立場を経験することで

実は誰も本当は悪くないこと、

更にはその経験をとおして

この世界全体のありようと

そこに生きる本来の自分の在り方というものを

学ぶのだろう。

善・悪などの

相対の世界を超えた世界観を描く作品は

数々あるが

この作品は言うならば、

「原罪」と「慈悲」

という相対を超えて融合した先に 

体験する境地 

と、いったところだろうか。

俳優「佐々木蔵之介」の怪演

この作品を観たいと思った大きな理由のひとつが

「佐々木蔵之介」さんの

後半で豹変すると噂の怪演だったのだけど・・・

文句なしに、ブラボーーーーーー!!!!

個人的に大好きな俳優さんのひとりだけど

後半の、彼演じる「明(あきら)」の本性が

一気に弾けたシーンは鳥肌もの!!

狂気に見開く眼球、

歪んで叫び開く口元、

全身の毛孔から立ち昇る憤怒と恨みのオーラ・・・

細胞に食い込むような体感、ハンパなし!!

こういう、体感的に悪役を演じられる俳優さんは

ホントーーーに、好きだ。

愛さずにはいられない・・・(よだれ)

そして最後、

「明(あきら)」の心を壊してしまった

傷の原因となった哀しい記憶の体験に

当事者である「衛(まもる)」の母親から

心からの詫びの言葉を聞いたとき・・・

その傷が初めて癒され、融け、

号泣するシーンは・・・

涙なしでは見られないね。

蔵之介さん、圧巻だよ・・・

数秒のわずかなシーンだったんだけど

あまりの体感にふるえた。

身体の髄まで届く演技だと思う。

彼の洗練された演技力が

この作品を作品たらしめているのではないか、と思う。

そういう意味でも、

是非、最後まで観てほしい作品、だね。

キャスティングに思う

キャスティング、という観点で

個人的に感じたのは・・・

作品の全体をとおした世界観を

フルで違和感なく感じるには、

主役の二人、 

稲垣さんと長谷川さんは・・・

少々ライトかなあ・・・という印象。

二人とも演技そのものは悪くないと思うし

役柄の要素もあるとは思うんだけどね、

このテイストの世界観を演じるには、

もう少しボリュームが欲しかった、かな。

で、実は観てから知ったんだけど、

原作が「夏樹静子」作品で

この放映以前に既に2作品、

放映されていたのよね。。

ああ、この重厚感、ナットク・・・。

昔の2作品は観たことなかった。

・1988年放映(名取裕子さん主演)

・1992年放映(十朱幸代さん主演)

役者陣が違うとどう印象が変わるのか、

すごく観てみたいわあ。

ちなみに現在の役者さんで

キャスティングするなら・・・

と、

「たまこ勝手にキャスティング」のコーナー!笑(ぱふぱふ)

この作品の世界観の特徴として、

「ふり幅が大きい」から

それを演じられるだけの

ふり幅がある人が必要だよね。

それに加えて

「衛(まもる)」役は

ピュアで人が良いゆえに

どこかデリカシーなくて

一方通行感のあるマイペースさ、

みたいなものも演じられる人、

「明」役に関しては、

ただ怪演がウマイだけじゃなくて

準主役的な控えめさと

人の良い友人役がハマる雰囲気が

欠かせない・・・

「衛(まもる)」役は・・・

三浦春馬クン、とか。

岡田将生クン、とか。

「美沙」役は・・・

ミムラさん、とか。。

宮沢りえさん、とか。。

仲間由紀恵さんも、アリかな。

「明(あきら)」役は・・・

蔵之介さんが完璧、だったけど

しいて違う役者さんをキャスティングするなら・・・

小出恵介さん、とか。

岡田義徳さん、とか。

意外と上地雄輔クンとかも、イケそう。

はあ・・・・

キャスティングって、たのしい(笑)

こういう名作は、

いろんな役者さんバージョンで

観てみたくなるね。

最後にひとこと・・・

序盤、ツッコミどころ満載でスタートしたけど

徐々にそれも回収されていき、

辻褄も合い、

終盤ではほぼ、納得の仕上がりだったけど

ただひとつ、最後に言わせてほしいのは・・・

登場人物ほとんど全員が

因縁でつながってる、って、

さすがにそいつは、ありえなくね?(笑)

しかも

何かといわくありげに

「美沙」に無駄に親切だった

借金の取り立て屋までもが

実は「美沙」と養護施設で一緒で、

ひそかに「美沙」のこと想ってた、

とくると、さすがに

なにそれ、ギャグ???

と、全身全霊でツッコミたくなるのは・・・

私だけですかね(笑)

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