私たちの理想の世界と現実の世界
ストーリーの良さはもちろんだが、猫好きの人間なら誰だって一度は考えるだろう、猫と話せたらいいな、という夢を形にしてくれる作品でもある。安易なものだと思うが、だから私はこの作品が好きだ。
猫の国に突拍子もなく迷い混むのはごく普通の人間の少女だ。猫たちは不思議な世界で、人間のように社会生活を営み、徒党を組み、娯楽を欲して生きている。人間のように、とは言ってもそこはファンタジーで、猫の世界だ。猫たちは猫らしく、能天気で自分勝手で享楽主義に、ただただ生きている。画面の向こうからその風景を眺めている私には、それが羨ましくて仕方がない。大好きな猫に囲まれて、きらびやかな世界で退屈と自由と同居しながらのんびり生きる……。もしかしたらここは、仕事に追われ週末という名の小休止で自分の体にごまかしごまかし働いている私たちの夢見る、理想の世界なのではないか?なら、わざわざ人間の世界に帰る必要があるのだろうか……。
結局、主人公のハルは、猫の世界ではなく人間の世界に帰還することを選ぶ。けれど猫の世界での経験は、ハルに戸惑いだけではなく学びも与えてくれたのだろう。ハルとともに奮闘したムタやバロンの存在と、自らの気持ちに正直になれたルーン王子とユキに背中を押されて、ハルは人間の世界で生きていく。あの世界の突拍子もない設定も、不思議な体験も、全てハルの世界と地続きにあるもう一つの確かな世界の出来事だったのだろう。
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