少年たちの活躍の裏で戦っていた少女たちの物語 - 聖闘士星矢 セインティア翔の感想

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聖闘士星矢 セインティア翔

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キャラクター
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1

少年たちの活躍の裏で戦っていた少女たちの物語

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.5

目次

『聖闘士星矢』のサイドストーリー。ファンは必見。

戦いの女神・アテナを守る戦士は常に男性。女性の戦士たちは仮面をつけて女であることを捨てなくてはならない。これが『聖闘士星矢』における聖闘士のルールであった。

だが、女性であるアテナの身辺を警護するのは、同じく女性であるほうが都合が良い。

そこで登場するのが、聖闘少女ーーセインティアたる今作の主人公たちである。アテナの戦いを、人知れず影で支援していたというセインティアたちの物語を、『聖闘士星矢』の時系列ごとに追うというストーリーだ。

昨今、昔の名作アニメの漫画の主人公たちを、女体化して再構成するパロディ作品が多い(例えば『キン肉マンレディー』など)が、『セインティア翔』はこれらとは違う。『聖闘士星矢』のストーリーをなぞらえながら、あくまでオリジナルの主人公・翔子を主役とした話作りになっているのだ。

つまり、『聖闘士星矢』のストーリーを再び追いながら、また新たな視点・解釈で物語を楽しむことが出来るという訳である。

ゆえに、『セインティア翔』は、当時『聖闘士星矢』に夢中になっていた世代も楽しく読める作品になっている。

圧巻の作画! 構図まで『聖闘士星矢』を意識する久織ちまきのファンサービス

『セインティア翔』の見どころは多い。

まず、主人公の翔子を始めとして、セインティアたちがいずれも美しく、可憐であること。みずみずしい魅力を湛えた純潔の乙女たちが、自らの身を顧みず戦う姿はとても美しく、戦乙女アテナに仕える女戦士たがわぬ高潔さを持っている。

にも関わらず『聖闘士星矢』のお約束はちゃんと継承されていて、例えば主人公の姉妹の絆が主軸となる点であったり、顔面から落ちる通称”車田落ち”やここぞというときの”車田吹き出し”だったり、必殺技の構図だったりと、いたるところで『聖闘士星矢』へのオマージュがちりばめられていることも見どころの一つだ。

作者・久織ちまきが『聖闘士星矢』を丹念に考察し、作品に積極的に活かしていることが伝わってきて、ファンとしては感謝したい気持ちでいっぱいになる。

そして何より、星矢や黄金聖闘士など、『聖闘士星矢』のキャラたちの造形が完璧であることだ。

これは正直、言葉ではうまく言い表すことができない。久織ちまきの絵は、車田正美の画風を損なわず、各キャラの特徴を掴み、なおかつ線が繊細で美しいのだ。つまり、車田正美の絵を更にグレードアップさせるとこうなる、というのが久織ちまきの作画なのである(車田御大をdisってる訳ではない。念のため)。

しかも驚くべきことに、『聖闘士星矢』と『セインティア翔』に共通する”ある場面”の構図とセリフが、まるで同じように意図されているのも素晴らしいところだ。その”ある場面”とは十二宮編最後のサガが自害するシーンで、アテナに詫びる箇所の構図やセリフが全く一緒なのである。

普通、後発作品がそういったことをすると、「手抜き」だとか「劣化コピー」だとか茶々を入れる輩が現れるものだが、久織ちまきの仕掛けた演出にはどういう訳か全く違和感がなく、『セインティア翔』に完璧に馴染んでいるところも驚くべき点だ。

また、キャラクターの内面的な部分についても、久織ちまきはしっかりとフォローしている。

例えば、蟹座のデスマスクや魚座のアフロディーテ。『聖闘士星矢』十二宮編では悪役の立ち位置にあった彼らが、どういった思いで簒奪者たるサガに味方していたのかをしっかりと描かれているのもファンは嬉しいところだ。

アフロディーテは、「アテナは正しいのかもしれないが、実際この世の中は強い者が支配する世界。ゆえに、神であるアテナといえども強くなければ、誰も守ることはできない」という自論を告げ、長年の『聖闘士星矢』の読者を納得させている。

また、デスマスクは合理的思考で残虐行為に走ったことが明らかになっている。『聖闘士星矢』では、紫龍に外道の誹りを受けて死にながら、ハーデス編では死してなおアテナの元に駆け付けたデスマスクの行動原理は『聖闘士星矢』ファンが常に解釈を欲しがっていただけに、『セインティア翔』で答えが出るのは嬉しい限りだ。

また、星矢の不屈の精神や、戦士たちを送り出すアテナの苦悩、敵地に突入するやいなや壁をぶち破って敵陣に切り込んでいくアイオリアの性格まで、『セインティア翔』は『聖闘士星矢』本編そのものをしっかりと踏襲している(だが、個人的にアイオリアのすぐ思考をストップするクセまで本編と同じだと、家庭でちゃんとしつけたつもりの子供がまた同じ間違いを学校でやらかしたようで、ちょっぴり悲しい気持ちになってくる)。

星矢派生作品の中でも群を抜く完成度。アニメ化を期待したいところ

『聖闘士星矢』の派生作品は数多く、いずれも秋田書店の各雑誌・あるいは電子媒体で好評連載中である。秋田書店は星矢関係の付録やメディアミックスを盛んに行っており、『セインティア翔』も一度ドラマCD化している。ファンの声を聞くかぎり、評判も上々のようだ。

また、長年『聖闘士星矢』の派生作品を引っ張ってきた『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話外伝』がクライマックスになっていることもあり、『聖闘士星矢』コンテンツの拡充のためにも、ここで一つ『セインティア翔』の更なる躍進を期待したいところだ。

いっそ『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』のようにOVA化してほしいものだが、『チャンピオンRED』でアニメ化した作品はそう多くないだけに、一ファンとしては憂慮してしまう。お願いします、秋田書店さん。

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