死にまみれながら時を止めない少年たち
エティエンヌに率いられ結成された少年十字軍の子供たちには、希望と純真に満ちている。物語には、しかし冒頭から断片的に彼らを待ち受ける過酷な運命と無惨な結末が垣間見える。
盗賊と闘って命を落としたルークから凄惨な運命は始まる。テンプル騎士団の企み、ギヨームらの脱退、ミカエルの裏切りといった出来事が次々と起こる中で、イザベルやコレットなど、かれらを敬服し愛する者たちとの出会いも描かれる。
少年たちはただ同じ方向をみて旅をしていたわけではない。武勲をあげるためにエルサレムをひたすら目指した子供もいれば、周りの子に合わせるようにしてぼんやりと進路を決めた子供もいる。神の子エティエンヌはどうだっただろう。彼には、心優しく信仰心の強いという面があるが、自らが強く発起してエルサレムを目指したわけではないように思える。それゆえに、仲間の死や大人からの裏切りを受けて彼は大きく揺れる。気持ちにブレが生まれる。自分を信じてついてきた大勢の子供たちの悲鳴に、すがる声に、押し潰される。
けれどエティエンヌが十字軍の行く末を嘆いたときには、もう全てが遅い。
物語の中で際立つのは、やはり十字軍を形作る兵士が、全て子供で成り立っているという点だろう。少年らの中では賢いクリスチャンや、荒事に慣れているギーでも、大人たちに翻弄される愚かさや頼りなさから抜け出せていない。けれど、大人の企みを知らない彼らだからこそ、世界を知らない無垢な子供であるからこそ、自分の目指すものに正直であれる。進む先が地獄だと言われても、目指すエルサレムにただひたすらに向かい続ける。
私が物語を読んでいて恐ろしいと感じるのは、少年たちのこの純粋さだ。腕を落とされても、体を切り刻まれても、少年たちはただ前に進む。一心に脚を踏み出す。
エティエンヌは前に前に歩き続ける。奇跡を起こす。けれどそれは少年たちを安全な母のもとへ帰してはくれない。エティエンヌの愛した友達の誰も、彼の奇跡で助かるわけではない。この皮肉に満ちた結末に、それでも私は子供たちの成長を感じた。
成長し、前に進むということはつまり、死に向かっていくということでもあるからだ。
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