愛すべきおバカさんたち
ポール・オースターの作品は絶望から始まる。
ディストピアもの好きににはたまらない作家である。
主人公は退職・離婚・病気と三拍子そろったおじさま。
そして大学院を中退した元・アカデミーエリート、今は肥満の古書店店員の甥っ子。
人生経験豊富すぎるブルックリンの古書店店主のゲイ。
みんなボロボロになってブルックリンに集まってくるが、他の作品と異なるところは、全体にユーモラスな空気が流れているところだろう。「幻影の書」や「ムーン・パレス」のようなこちらの神経が磨り減るようなものものしさはなく、「ああ、人生終わった」というようなからっとした絶望。人生の展望がなく、行きつけの店のウエイトレスにちょっかいを出してトラブルに巻き込まれたりとおバカなことばかりしているが、この主人公たちはどんなに自分が情けなくなっても孤独にひきこもったりしない。「ムーン・パレス」で全ての社会的関係を捨て、ホームレスになった主人公とは正反対である。
どんなに情けなくても、生きている。そして一人にならず友達と話をする。そうすればいつか、人生の終わりにさしかかって急に、ひょんな事から誰かの役にたてる時が来るかもしれない。そんな幸せの希望を感じさせる。
それでもポール・オースター、最後の描写で幸せの儚さという釘を差すのを忘れない。
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