幸せになるはなし - ベンジャミンバニーのおはなしの感想

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ベンジャミンバニーのおはなし

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幸せになるはなし

5.05.0
文章力
4.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
4.5

目次

大人の私だからこそ心踊る

いわゆる「大人向け絵本」。

ピーターラビットシリーズについて私はそう思っている。子どもが読んでももちろん面白いけれど、大人が読んだらもっと面白い。もっと素敵なところにたくさん気づく、そんな絵本だ。

「ベンジャミンバニーのおはなし」もその例外ではない。彼らは洋服を取り返しに行く。そしてあっさり取り返す。相手はかかしだ。畑にはえている作物は玉ねぎやレタスといった子どもにとっては縁のない野菜(ハンバーグやオムライスではない)だけれど、それをかじりながら歩く様子はおいしそうで仕方ない。私はこれを、「サラダを食べるようになった大人の私」ならではだと、思っている。

さらにはマグレガーさんと貴婦人が出かける描写では、貴婦人はボンネットをかぶってよそゆきの格好で馬車に乗り、ピーターのお母さんの作るものはハーブやローズマリーティー、うさぎタバコ!

このどれもが、大人の私の感性をウキウキさせる。オシャレな海外の香りが本からしてくる。

絵だってそうだ。絵画のような綺麗な絵は、挿絵としてではなく、もう一つの作品のようで、ピーターラビットシリーズをモチーフにした食器だって売られているくらいだ。ベンジャミンバニーが大きなぼうしをかぶっている絵は、この作品の中でもかなり人気の高いワンシーンだろう。背景の細かさや、色づかい、どれもが「大人の私」が良い!と思うものばかりで、子どもの頃読んだときはこんなに感動しなかったなあ、と改めて思うのだ。

子どもの頃にはなかった感性で、感動ができる絵本。それがベンジャミンバニーのおはなし、もといピーターラビットシリーズだ。

どの世界でも最強な存在

たばこをふかしたベンジャミンバニー氏が登場するシーンはピンチからの脱出する光だ。

うさぎという立場でありながらあっといまに猫を追いやり、息子と甥っ子を助ける。そればかりか、危ないことをした彼らをしかりつけ、小枝のムチでたたいてしまう。私はここに大人の偉大さと、子どもの無力さを感じる。

いつの時代も、どの世界も、親にかなうものはないのだ、としみじみ思うのだ。親という無敵な存在に、子どものうちは知らずに守られている。ピンチの場面でベンジャミンバニー氏が登場しただけで、安心感がうまれ、その期待は裏切られない(教育までしっかりとする)。

私の住む人間界となんら変わらないじゃないか、と妙に納得してしまう。悪いことをして、叱られて、怖いけれど、何かあったら助けてくれる。親というものが、そんな存在だということを、なぜだか子どもは知っている。

ベンジャミンバニー氏がゆうゆうとたばこをふかして帰っていく姿は子どもの前では落ち着き払っている素敵な父親そのものだ。本当は焦っているかもしれないけれど、子どもにそんな姿は決して見せない。「それが父親というものだ」とベンジャミンバニー氏は言うのではないかな、と思う。

語り手か登場人物か

ベンジャミンバニーのおはなし、というタイトルにあるようにこれはおはなしだ。しかし、作者の立ち位置は実に曖昧な位置にある。

このおはなしを語っているようであり、この絵本の世界に住んでいるようでもある。ピーターラビットのお母さんのバザーで買い物をしたような描写もあり、もしかしたら同じ世界かもしれない、と思わせてくれる。そしてこの書き方こそがもっとも大切だと私は思っている。

ピーターラビットやベンジャミンバニーの住んでいる世界が、作者の住んでいる世界と同じだったなら!私たちが住んでいる世界にも、ベンジャミンたちが居て、マグレガーさんならぬ加藤さんの畑にも、彼らは訪れるかもしれない。

そういえば長崎だったか宮崎だったかの空港にはたぬきが出没するそうだ。たぬきたちもまた、名前があり、その世界を繰り広げているのだろうか。

こういった、世界がぐんぐん広がっていくことが、絵本を読む楽しさだ。想像が広がって、現実かもしれないという期待が心のどこかにしまってある。

大人も子どもも関係ない。

ベンジャミンたちに、いつか会えるかもしれないと思いながら過ごす毎日は、仕事に追われた私たちへの素敵なプレゼントではないだろうか。

ベンジャミンバニーのおはなしは小さなうさぎたちの日常の世界だけれど、それはもしかしたら、身近な世界かもしれない、と思わせてくれる作者の立ち位置が私はすごく好きだ。

日常の一瞬

最後にベンジャミンバニーのおはなしを読んで、何よりも思うのはこの小さなドラマはたった1日の出来事であるということだ。1日の中で起きたことであって、また他の日には別の何かが起きているのかもしれない。日常というものの一瞬を切り取ってわたしたちは覗いたにすぎないのである。

その一瞬がこんなにも素敵な作品を、ぜひお母さんも、お父さんも、おばあちゃんも、子どもも、みんなで楽しんでほしい。

そして、わたしたちの周りにも、きっと同じような素敵な日常が広がってることをそれぞれで感じとってほしい。

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