戻り川心の評価
戻り川心についての評価と各項目の評価分布を表示しています。実際に小説を読んだレビュアーによる評価が1件掲載中です。
各項目の評価分布
戻り川心の感想
叙情と技巧
昭和初期にかけてレトロな雰囲気としっとりした人間関係の中で、美しく、そして悲しい物語が展開していきます。ミステリ作品に分類されていますが、それぞれの作品はその叙情的な作風、繊細で華麗な文章、たおやかな作品世界と濃厚な人間関係など、それだけで一つの文学作品と言っていいぐらいです。これに加えて素晴らしいのが推理小説的な側面です。並の推理小説の小さなトリックや表面的なごまかし程度の仕掛けではなく、ある境をもって物語の世界そのものが一変するほどの衝撃があります。「トリックがある」と思っていても見抜けず、衝撃を受けるのが確実と言えます。片方の技量だけでも素晴らしいのに、その両方が一つの作品として結実した本作はまさに名作と言って過言ではありません。