ヒュー・ジャックマンの思いがけないリアルな演技が印象的 - プリズナーズの感想

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ヒュー・ジャックマンの思いがけないリアルな演技が印象的

2.52.5
映像
3.0
脚本
3.0
キャスト
2.5
音楽
2.5
演出
2.0

目次

重々しく悲痛な冒頭部分

この映画はヒュー・ジャックマン演じるケラーの娘アンナが、隣人の娘ジョイとともに何者かによって誘拐されてしまうところから始まる。楽しげな感謝祭のパーティがたちまち地獄に変わるような親の心境は、子供を持つものなら誰しも痛いほど理解できるものだろう。
この事件を担当するのは、担当して未解決に終わった事件がないという敏腕刑事、デビッド・ロキだ。でも捜査はまったく進展しない。そんな煮えるような苛立ちを含んだまま、ストーリーは進んでいく。
このロキ刑事を、ジェイク・ギレンホールが演じている。ただこの刑事、どうもその“敏腕”というのが伝わらない。それはジェイク・ギレンホールのせいではなく監督の意図なのだろうけど、あまりにもどんくさいところが多かったので、敏腕という設定はいらないのではという気にさえなってしまった。
この映画の監督はドゥニ・ヴィルヌーヴだ。同年再びジェイク・ギレンホールを主役に据えて、「複製された男」を作っている。立て続けに同じ監督の元で演技するくらいなのだから相性は悪くないだろうに、この映画に関してはどうも首をひねるところが多くあった。

ロキ刑事の「迷」刑事ぶり

そもそもこのロキ刑事、どんくさいだけでなく、どうも動きが鈍い。考えながら動いているからゆえの鈍さでなく、ただボーッとしているような感じさえする。アンナとジョイの無事を祈るロウソクの近くで怪しい男を見つけた時もすんなりと逃げられ、しかもその後追いかけない。逃げられたら逃げられたで、捜そうという努力くらいはしてほしかった。また、ジョイが「あなたもそこにいた」という言葉をそのまま信じてケラーを疑うところなどは、刑事の明晰な頭脳や推理能力を全く感じさせない鈍さだ。
その上、ロキ刑事のなんだかちょっと小太りで、微妙にお腹の出たその体形がいかにも無能さを感じさせて、まったく敏腕という印象はなかった。
最後、閉じ込められたケラーが助けを呼ぼうと必死で吹くホイッスルの音も、もしかしたらロキは気づかないのではないかとかなり心配になったくらいだ。それまでの彼の無能ぶりを考えると、気づかずに終わるという最悪なバッドエンドもありえないことではないと思う。
敏腕という設定だからここまで違和感を感じるわけで、もしこれが定年間近の今まで事なかれ主義で生きてきた刑事とかなら自然だったのかもしれない。

ケラーの加速していく苛立ちと狂気

捜査が難航するにつれ、ケラーは家の近くに止まっていたRV車の運転手アレックスを犯人と思い込む。警察もアレックスを重要参考人として拘束するが、10歳程度の知能しかないアレックスにこの犯行は無理と断定し、警察は彼を釈放する。そこからケラーの狂気が始まった。アレックスを密室に閉じ込め、暴力で白状させようと図ったのだ。
このあたりのケラーの行動には賛否両論あると思う。現に同じように娘を誘拐された隣人のフランクリンは、警察に任せるべきだとの姿勢を崩さない。もちろんアレックスが真犯人と決まったわけではないゆえのためらいなのかもしれないが、悠長なことをしている間に娘は死んでしまうかもしれない、こうしている間にも飢えと乾きで苦しんでいるかもしれないと焦る親の気持ちが、ケラーからは痛いほど伝わってきた。
自分だったらと思わずにはいられない。この映画でも、行動に移したケラー、寝こんでしまったケラーの妻、警察に任せるべきだと言うフランクリン、ケラーにやらせておいて手伝うことはしないと言うフランクリンの妻など、その態度はいろいろだ。そしてそのどれもがリアルで、誰の態度も責めることはできないと思えるものだった。

子供が発見された時の感動のなさ

誘拐された2人の子供アンナとジョイだけど、最初にジョイが見つかる。その時、家族がそれほど喜びを感じていないように見えたところに激しい違和感を感じた。絶対安静を命じられているにせよ、まだ見つかっていないアンナの両親への配慮があったにせよ、隠し切れないうれしさがあるはずだ。だけどどうもフランクリン夫婦自体がそれほどの喜びと安堵を爆発させていないように感じたのだ。
そして最終的にアンナが見つかった時も、それほど母親は喜んでいない。なんでそんなにしんみりしているのか、もちろん夫がアレックスにしたショックや、行方不明になってしまっている不安もあるだろうけど、それ以前にアンナが戻ってきたことをもっと喜ぶべきだと思うのだ。
あれなら、ドラマ「24」で、ジャックの娘キムが友達と誘拐された時に、友達だけが先に発見されたシーンの方が臨場感があった。ジャックの妻が見せる、キムの友達だけ先に見つかってまだキムが見つかっていないことの焦り、でも友達が生きて保護されたなら娘も無事なはずといった安堵の気持ちがないまぜになったあの場面は、シーズン1の中でも印象的に心に残っている。
いなくなってあれほど絶望していたのだから、帰ってきたのならそれと同程度の喜びを見せないとおかしい。だからなにか気持ちの悪い違和感があった。違和感がありすぎて、この表情は何かしらのストーリー展開の伏線なのかと思ったほどだ。
結局は何もなく、それがまた消化不良を感じさせた。

途中から映画の印象が変わった

この映画の初めから真ん中あたりまでは、展開も早く、ストーリーにどんどんのめりこむことができた。また余計な音楽がなかったのもそれに拍車をかけ、ケラーの怒りが純粋だからこそ手段を選ばない怖さや、ロキ刑事が静かに犯人を捜している様子だとかが(結果静かと言うよりは、ぼんやりしていただけだったのだが)浮き彫りになり、いい映画を引き当てたとうれしく思っていた。
が、中盤過ぎどうも様子がおかしくなる。挿入音楽はもちろん、妙な効果音も増えてきて、監督が途中で変わった?と思うほどだった。
もちろんそのため怖さもあまりなくなり、ついでなんとなく素に戻ってしまいストーリーにも入り込めなくなってしまった。

ヒュー・ジャックマンの意外な深みのある演技

個人的に、ヒュー・ジャックマンはそれほど演技のうまい俳優だとは思っていなかった。「X・MEN」のイメージがあまりに強いのもあるし、「プレステージ」や「リアル・スティール」でも、映画はそれほど悪くないのだけどなにかいつも同じ顔、同じ演技のような感じがしていたからだ。だけど、今回の演技は、今まで私が見たヒュー・ジャックマンのどの演技よりも深みがあった。そこには子供を誘拐された親の苦悩、焦り、絶望などが手に取るように感じられ、子供を取り返すためには手段を選ばない悲痛さも感じられた。そして最悪のことが頭をよぎった自分を戒めるような複雑な表情も垣間見られ、このケラー役は思いがけないほどヒュー・ジャックマンのはまり役だったように思う。

消化不良感が残るラストへの展開

ストーリーは意外な展開を見せ、アレックスの養母が実は犯人だった。そして気まぐれに育てたのだろう、容疑者の嫌疑がかかったアレックスも誘拐してきた子供だったのだ。
ここでひっかかったことがある。この養母はロキに発見され銃で撃たれる直前(ここでもなぜ撃ち殺してしまったのかと思ったが)、アンナに何かの注射を打っていた。死に至る注射だったのか、ロキは養母に反撃されて撃たれながらも必死で車を病院に走らせ、アンナは助かる。
でもこの注射、本当は知能を遅らせる注射だったのではないだろうか。アレックスのように10歳前後で知能の成長を止める注射だとしたら、助け出されたあとのアンナの無表情さも理解ができる。
でもそこはなんの説明もないため、そうではないかなと思うだけで、実際はよくわからない。でもそうでなければ、あの時にあの注射が必要とも思われない。
実際はどうだったのだろう。ロキが犯人を不用意に撃ち殺してしまった後では、後で分かることなど何もない。とここでもロキの無能さを感じた。そもそもロキはもう1人の怪しい人間を拘束しておきながら、署内で銃を奪われ自殺されるという痛恨のミスもしている。
ここに至っても、ロキのどんくささが際立った場面だった。

プリズナーズという意味

この映画のタイトル「プリズナーズ」とあえて複数形になっている意味はラストでわかる。ケラーがアレックスの養母に地下に閉じ込められてしまったからだ。自身アレックスと同じように囚われの身となってしまった展開は、なかなか良かったと思う。
この映画はところどころに宗教的意味合いを強く持たせているらしいが、個人的にはあまりそういうことは感じなかった。もしかしたら宗教に造詣の深い人がこの映画を見れば私の気づかなかったことに気づき、もっと面白く見れるのかもしれない。
もしかしたらロキ刑事のどんくささもなにかしらの意味があるのかもしれない。
深い意味があるにせよ、ないにせよ、私的にはもう一度観たいとは思わない映画だった。

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