ミニ歌謡映画オムニバス - 歌謡曲だよ、人生はの感想

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歌謡曲だよ、人生は

5.005.00
映像
4.50
脚本
4.50
キャスト
5.00
音楽
5.00
演出
4.50
感想数
1
観た人
1

ミニ歌謡映画オムニバス

5.05.0
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
4.5

目次

カラオケビデオ劇場版?

カラオケで流れる映像は会社によっては結構予算をかけている場合もあります。使いまわしの風景だけでなく、歌詞に合わせたミニドラマを撮りおろしたり、思いもかけない有名俳優が無名時代に出演してるのを発見したりするケースも少なくありません。

そこで、この映画が発表された際は、結構辛らつな反響が多かったことも事実です。歌謡曲の名作12曲を題材にしたショートムービーオムニバス。それってカラオケビデオ劇場版? それでお金取る気?とまで。

ただ、1本あたり平均10分余りが割り当てられていることからお判りのように、丸ごと歌謡曲を流してバックにドラマを展開したのでは尺不足ですから、使い方は完全に監督・脚本(全話、監督が単独脚本を兼ねています)に委ねられています。前半ドラマで、クライマックスにドーンとフルコーラス流してもいいし、分断した使い方でも構いません。それだって結局カラオケビデオ変形版だろ、とまで突き放す人には、そのどこがいけないのですか。とお答えしておきましょう。監督陣は気鋭の中堅若手から新人が揃い、実に挑戦的な映像で腕を競っています

駄作なしの高水準

さて、結論を言いますと、ごく短いオープニングは別として、第1~10話と、1曲ちょうどの長さでまとめられたエンディングを含め全11本が評価対象になると思いますが、箸にも棒にもかからない駄作は1本もありませんでした。これは結構驚くべきことで、私がこの映画を観た時点で、11人の監督のうち監督作品に接したことがあるのは矢口史靖と磯村一路だけだったのですから。しかも実績の高い矢口、磯村が必ずしも最高傑作というわけではなく、全体に新人を含めて高い水準なのです。

その新人勢で突出した目立ち方をしたのが、第4話「ラブユー東京」を担当した片岡英子です。テーマ以外の曲を少し混ぜた作品はほかにもありますが、ここでは何とマーラーの交響曲第5番第4楽章をサブテーマ(?)に使う掟破り。ヴィスコンティの「ヴェニスに死す」でも知られるこの曲ですが、そういえば市川崑も「おはん」でこれと五木ひろしを併用したのを連想させます。特撮は使うわ、正名僕蔵は怪演するわで、何とも妖しさ満開なのですが、ラストの石像が少し悲しくて不思議な余韻を残しています。

もうひとつの掟破りをおかしたのが、第6話「女のみち」で、唯一、歌の本人(宮史郎)が主演しています。本人役ではありません。奈良の銭湯サウナで、唸っていた歌の続きをどうしても思い出せなくなったヤクザが、たまたま一緒に入っていた学生に、思い出すために協力するよう強要するというベタベタのコントで、「ラブユー東京」とは対照的にあっけらかんと親しみやすい作品にまとめています。なにゆえに奈良?というのは謎ですが(学生のほうは標準語です。ちなみに奈良市は関西では標準語教育に熱心な都市です)、ほぼ室内劇一本やりが終わって外に出る場面の清涼感はいい味で、たぶんここは奈良ロケなんでしょう。ほんの僅かな時間。凄い贅沢してますね。監督脚本は中堅・三原光尋。

蛭子能収大暴走

唯一の有名人枠みたいな扱いでメガホンを取ったのが第7話「いとしのマックス」の蛭子能収で、私は個人的にこれが一番好きです。タッチは完全に漫画家・蛭子能収のそれで、凄まじいバイオレンスが炸裂します。ヒロインに陰湿な苛めを続ける同僚たちへの怒りを溜め込んでいた武田真治がある日これを突然爆発させ、彼ら彼女らに怒りの鉄拳をふるった後(たぶん全員死んでます)、ヒロインに真っ赤なドレスを贈り(一瞬で装着されます)、二人で踊り出す(場所は公園)。それだけの話なのですが、テンポもタイミングも見事に決まっていて、何度観ても飽きません。武田真治のナスシスト演技も例によって楽しませますが、何と言っても目の前で大虐殺を見せられ、血まみれの武田に踊りを迫られるヒロインの恐怖リアクションがすばらしい。頬をヒクヒクさせながら後ずさりし、それが曲に乗ってしまって次に思わず前にステップしてしまう瞬間は快哉ものの名演出です。蛭子能収はこれ以外に映画を撮ってないようですが、間違いなく監督才能あります。長いものはどうなるかわかりませんが。

この映画の監督陣で一番のビッグネームはたぶん矢口史靖でしょう。第8話は「逢いたくて逢いたくて」は、さすがというか余裕綽々の仕上がりで、サラリと泣かせます。妻夫木聡は十八番の泣きの演技をやはり見せますがほんの一瞬。あまりキャラクターの立っていない主役ですが、これをベンガルと伊藤歩が達者に両側から支え、素直に曲の良さを歌いきった一篇となりました。江口のりこが全く目立たない役で出ているのも珍しくて面白い。

ピンク勢も健闘

ピンク映画で実績のある監督が二人参加。第1話「僕は、泣いちっち」の磯村一路、第6話「ざんげの値打ちもない」の水谷俊之で、それぞれ下元史郎、山路和弘というピンクの名男優(それだけじゃないですが)を起用しいます。さすがに両者甲乙つけがたい鮮やかな演出を見せますが、やはり曲の強烈さと余貴美子圧巻の演技で後者が一段と印象に残ります。第2話「これが青春だ」の大爆笑、第9話「乙女の祈り」のセンチメンタリズム(初めてこの曲の良さを知りました)など、それぞれに取り上げていけばキリがないのですが、トピック的な話題をひとつご紹介しておきます。

ただ一人二つのエピソードに出演している鈴木ヒロミツは、この映画が遺作となりました。「乙女の祈り」では、ヒロインの余命いくばくも無いことを告げる医師の役でしたし、第10話「みんな夢の中」では同窓会の幻想の中に往時を偲ぶ役でした。これだけ不思議な暗号を遺作で残した俳優さんも珍しいと思います。そして、その彼が率いるザ・モップスの「朝まで待てない」で、ともに本格的デビューを飾った作詞界の帝王・阿久悠は、この映画でただ一人2曲が取り上げられていますが、この映画の公開のわずか2ヵ月後に世を去りました。この映画ははからずも昭和歌謡曲の一大賛歌であると同時に、挽歌の役割を果たしたような気がします。なお、第3話「小指の思い出」での大杉蓮の演技も彼が亡くなった今となっては味わい深いものがあります。不気味がる人もいるでしょうが、ピンク映画や変質者・狂気俳優として鳴らした時期の彼と、後期の枯れた温厚な演技のブリッジともいえる演技だと思います。

ラストも秀逸

さて、エンディングの「東京ラプソディ」は、曲と同じ長さしかない超短編ですが、それでも私としては二番目のお気に入りです。まさにカラオケビデオと呼びたいところですが、セリフがありますし、しかもところどころ歌をスポイルしているので、その用途には使えません。とはいっても、セリフは主役のバスガイド説明のみで、それ以外の会話は歌音声が聞こえない演出になっています。瀬戸朝香が実に可憐なバスガイドっぷりで、声が聞こえない田口浩正運転手も好演してます。この曲のみオリジナルではなく渥美次郎のカバーが使われている(どうもミニライブっぽい)のですが、これも成功でした。短いながらもドラマがちゃんとあり、客をおろして二人っきりで夕暮れの東京を走るバスの姿に、ほのぼのと甘酸っぱい気分に浸らせてくれる佳作です。で、そのバスの天井に「歌謡曲だよ、人生は」とタイトルが大書されているのを俯瞰で捉えた絵がラスト。感傷をちょっと賑やかに拭うような終わり方です。

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