楽しさ最高のホラー・ミュージカル
唄って踊れる人食い植物
これは、1960年に「低予算映画の帝王」ロジャー・コーマンがほんの2~3日で製作してしまった伝説のホラーコメディのリメイクですが、正確にはその間に、元の映画をもとにしたミュージカルが1982年にオフ・ブロードウェイで初演されており、その映画化ということになります。こちらの映画は1984年の製作です。作詞(脚本)のハワード・アッシュマン、作曲のアラン・メンケン(唄の部分。他のBGMはマイルズ・グッドマンが担当)は、この映画のヒットが契機となって、ディズニーのミュージカル・アニメ映画を何本か手がけることになります。
どんな映画かといえば簡単で「唄って踊れる人食い植物を巡る珍騒動」、この一言ですべてOKです。
楽しいロックミュージカル
音楽的にはロックミュージカルです。ミュージカルにはオペレッタ起源の、メロディを重視し豪華なオーケストラや正統的な歌唱を押し出す作品の流れが今も残っており、そうした作品のみを愛する人はロックミュージカルというだけで食わず嫌いを決め込む人も多いようです。が、この作品は非常に親しみやすいメロディとリズムがあふれており、そうした人にも垣根が低いのではないでしょうか。
同じホラー志向のロックミュージカルとして「ロッキー・ホラー・ショー」というカルト的作品が先行しており、比較されることも多いようです。が、こちらの方がぐっと万人向けです。音楽もそうですし、何より話が単純明快です。幼児から老人まで、というか、少し残酷な描写はあるものの、小さな子供にも十分楽しめる映画といってもいいと思います。
歌われるのは12曲
ミュージカルは比較的定義が自由なジャンルで、1本の芝居、映画の中でどの程度唄や踊りが挿入されるのかについても特に定めはありません。少ない場合だと4曲程度という場合もありますが、ロンドンミュージカルのように、ずーっと歌いっぱなし、二十数曲という場合もあります。この映画は、断片的な短い唄をどう数えるかにもよりますが、全12曲。物語が単純なわりには少ないともいえますが、後述する理由で妥当な数だと思われます。
なお、今更ながらに確認しておきますが、ミュージカルにおける「唄」「踊り」とは、あくまで物語としての必然性とは全く離れて登場人物が歌い出すものを指します。歌手が歌手として歌ったり、登場人物が他の人物に乞われて、それでは歌います、と歌い出すものは含みません。そうした曲が多く使われるものは、ミュージカルではなく音楽映画、と呼びます。踊りも同じ。全編踊っている「ル・バル」などは、ダンスホールの話ですからミュージカルではありません。だから、その歌い出す神経がわからない、とか、人によっては虫唾が走る、とまでのたまうミュージカル嫌いが少なくないのです。全編を唄が覆うオペラの子孫であり、感覚でお約束を飲み込めない人には敷居はいつまでたっても高いのかも知れません。この「リトルショップ・オブ・ホラーズ」もその弊は特に免れているわけではありませんが、ドラマの方が結構ハチャメチャなので救いがあります。突然歌い出す人間も、突然人を食べ出す植物も、どっちもどっちで、まあええじゃないかという気分にさせられるのです。
ナレーション・コーラスそしてスティーブ・マーチン
この映画の大きな特徴は、黒人女性3人組のコーラスがナレーション役として、唄でドラマを進行させることです。それも声だけでなく画面に出てきます。ですが、ナレーターなのでドラマには一切絡まず、登場人物も彼女たちを見えないもの聞こえないものとしてふるまいます。類例を遠くたどればギリシャ演劇の合唱隊「コロス」でしょうが、カメラ目線で歌いかけるわけですから脱ドラマ的な雰囲気もあり、とにかく楽しい趣向です。余談ですが、かんべむさしの小説「同姓同名逆人生」(1987年)はミュージカル小説と銘打ってそのまま合唱ナレーションを取り入れてます。思わず真似したくほどの魅力だともいえるでしょう。
開巻が短い前振り(この映画唯一の語りによるナレーション)を経て、この合唱隊による映画と同題の主題歌「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」ですが、いきなりビートの利いたピアノが耳を奪い、まず忘れられない印象を残します。この映画で一番有名な歌ですし、エンディングでも繰り返されることになります。
この曲に次いで印象深いのは、歯科医師に扮するスティーブ・マーチンが歌う登場歌でしょう。「小さなころから悪ガキで」「人を痛めつける天才だった」と続き、母親がそんなお前の天職は歯医者しかない!と続く抱腹絶倒の唄で、革ジャンで登場し一瞬で白衣に着替える演出も冴えています。今でも覚えていますが、封切り時の新聞広告に永六輔氏の「日本歯科医師会はこの映画に抗議すべきだと思います」とのユーモラスなコメントが載ったほどです。まあ、当時の歯医者はホント痛かったんですけどね、今はそのへん随分と進歩しました。
この視界を訪れるマゾヒストの患者がビル・マーレーで(1960年版ではジャック・ニコルソン。「pain」なんて題の雑誌を待合室で浮き浮きと読んでました)、乱暴な治療に大喜びなんですが、サディストの歯科医は相手が喜んだんでは面白くなく、不機嫌になって叩き出してしまう。残念なことのこのコントはストレートプレイです。できればここも唄にして欲しかった。
リーヴァイ・スタップスそして・・・
3曲目の押しは、人食い植物「オードリーⅡ」がクライマックスで恐怖の正体を全開にしてシャウトする「俺は宇宙から来たワル」でしょう。恐怖の正体、というのも何だか微妙で、とにかくパペットが愛嬌を帯びている上に、唄を担当するリーバイ・スタップスがこれを踏まえて凶暴なんだか能天気なんだか判らない美声を響かせるため、むしろノリノリに笑いが混ざったナンバーとなっています。誕生した幼生がすかさずコーラスを始めるあたりは爆笑でした。
さて、実は、私がこの映画で折につけ聞き返すのはこの3曲だけです。何だ、それだけがといわれるかも知れませんが、ミュージカルは大ヒットナンバーが複数生まれればそれだけで大変なものなのです。「マイフェアレディ」「サウンド・オブ・ミュージック」を例に出すまでもありません。私の好きな「チキ・チキ・バン・バン」も佳曲は多いのに主題歌のみが突出してしまっています。
率直にいって、主人公とヒロインには詠唱調の歌が多く与えられているのですが、圧倒的に耳の残るというほどではないのです。まあ、ディズニーに引っ張られたのはこのあたりが買われたんだろうな、と思わせるぐらいで、アップテンポな3曲と比べると少し聞き劣りがします。何より作品世界の奇矯さと溶け合っていない。曲がそんなに多くなくて妥当というのはそうした意味です。ただ、それは自由に飛ばし見ができるようになったビデオディスク時代だからいえる贅沢で、劇場で観たときにこれらの箇所をダレ場と感じていたわけではありません。
さて、ラストはホラー映画お約束のハッピーエンドと見せて実は?というドンデン返しですが、ここで再びピアノが鳴り響き主題曲が繰り返される呼吸の良さは電撃物のすばらしさです。エンディングの入り方としてはマイベストに近いかも知れません。続くタイトルがカーテンコール風になっているのも楽しい限りで、高揚した気分で映画を観終えることができます。人は死にますが皆悪人だしね。
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