タイトルはパッとしないが、面白い - 鈍獣の感想

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鈍獣

4.004.00
映像
4.50
脚本
4.50
キャスト
4.50
音楽
4.00
演出
4.33
感想数
3
観た人
3

タイトルはパッとしないが、面白い

4.04.0
映像
4.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

「鈍獣」を視聴した感想です。


まず冒頭は、観ている側には分からない、謎の多いシーンの連続からスタートします。
何かにぶつかって止まる列車、エレベーターに怯えるホストクラブの店員、そして存在をひた隠しにされる作家、「凸川」。
その奇妙な一つ一つの事象が、気味が悪いのに不思議と目を離せない気持ちにさせてくれます。
そして、町全体を覆う不穏な空気や、異世界に迷い込んだような違和感が、画面いっぱいに映し出され、「鈍獣」の世界観にすぐに観客は取り込まれてしまいます。

スリリングなサスペンス、といった雰囲気は全くないのですが、冒頭から続く謎めいた雰囲気から、物語が展開するにつれ謎が謎を呼ぶ展開に、最後まで目が離せませんでした。

そうしたミステリー要素、そして脚本の宮藤官九郎さんの持ち味であるコメディ要素が合わさって、視聴した満足度は大変高かったです。

また、凸川を演じた浅野忠信さんを初め、北村一輝さん、ユースケ・サンタマリアさんといった俳優陣も、「鈍獣」の世界観を大きく盛り上げていたと思います。


「鈍獣」は凸川という作家の書いた小説のタイトルで、「人間は鈍い獣なのだ」という凸川の言葉に裏付けされた造語です。

その通りに色々な痛みに「鈍く」なっている人間、そして人間が獣になる瞬間を、俳優の方々はうまく演じていたと思います。

浅野忠信さん演じた凸川は、一見してただのニコニコした半バカのようですが、正体を掴ませないような気味の悪さが醸し出されていました。また、ストーリーが進むにつれて、凸川は何度殺しても生き返ってくるのですが、この度に増す凄味や化け物感が伝わってきました。
「鈍獣」という未知の生き物を見るようで、「周りのキャラクターとは別格の何か」を見事に表現していたと思います。

また、江田を演じた北村一輝さんも、頭のおかしくなった演技が、説明無しにちゃんと伝わってきました。
元々は、ただの田舎のうだつの上がらないホストだった江田でしたが、過去と現在を比較すると、現在では常軌を逸してしまっているのが、はっきりと分かります。
目の焦点の定まらない感じや、薄汚れた格好で、「こういうヤバい人いるよね」と分かるのがすごいと思いました。

また、冒頭から気まずい友人である凸川に対して江田が構えている様子や、不躾な発言に一瞬怒りながらも矛を収める表情、あまりの気まずさに相撲をとってしまうようなシーンも、ちょっとした仕草が自然で上手いと思いました。

あとあまり関係ないですけど、北村さんだけテーマソングがありましたね。
「猫侍」でも北村さんはテーマソングがあるのですが、歌わせるのが似合う俳優さんなんでしょうか。

また、岡本を演じたユースケ・サンタマリアさんも、小物感やバカな感じが出ていて良かったと思います。
狂暴な江田の金魚のふんのような岡本ですが、最後に凸川に手を下すのは岡本だったり、二人の凸川の見分け方を、最後まで周囲に内緒にしていたりと、「こいつはこいつで相当悪い」という感じがしました。


「鈍く」やり過ごすことで見ないようにしていた痛み。それをことごとく刺激し、掘り返していく存在が凸川です。


江田が「鈍く」なっている痛みとは、過去に起こしたもう一人の凸川の事件、そして東京で失敗して田舎でくすぶっている日常だと思います。
岡本が「鈍く」なっていることは、警官でありながら悪事に手を貸し、家庭は破綻し、という所でしょうか。

順子ママは16歳の時から江田の愛人ですが、ついに本妻にはなれず、何人もの愛人の中でプレゼントも貰えない立場に「鈍く」なっており、ノラは多額の借金の苦しみを、バカのふりをしながら「鈍く」やり過ごしている。

誰もがくすぶっているような日常を、「鈍く」やり過ごしていたのに、凸川が現れたことから、それらが浮き彫りになっていきます。

そしてそれは葬っても葬っても、笑顔でまたやって来て、終わることはありません。
殺しても殺しても、笑顔でまとわりついてくる「痛み」。
それが彼らにとっての、凸川なのかもしれません。
ラストシーンで、またやって来た凸川に、笑顔で向かい合う江田と岡本。
それは狂気なのか友情なのか?は計り知れない所です。


なぜ凸川は小説を書いたのでしょう。

凸川は普段は何をするにもゆっくりで、思考も遅く、言葉が出るのもゆっくりです。正に愚鈍という感じですね。
しかし、小説「鈍獣」の語り口はとても滑らかで、同じ人物の書いたものとは思えないほど知己にとんでいます。
また、江田や岡本といった実在の人物を勝手に登場させ、実話を暴露してしまいます。
そして最後には過去の罪を暴露し、二人の最期まで書いてしまいます。

周囲から見れば、「鈍獣」を凸川が書いていることは明白でしたが、凸川は最後まで否定していました。なぜ頑なに否定していたのか?
また、本の印税の受取人に、勝手に江田を指名していましたが、それはなぜなのか。

私の考察としては、凸川もまた悪意を持った存在だったからなのかな、と思いました。
表面上は江田や岡本との友情をうたい、心底信用しているかのような発言を凸川はしていますが、本の中では彼らを獣呼ばわりしています。

列車に自分を轢かせ、更にそれを忘れてしまっていた彼らを、ずっと許しはしないのでしょう。
凸川は一見して悪意の無い人物に見えますが、映画の一つ一つの事象を見ると、存在が悪意そのものに見えてきます。

金が目的ではないので、江田にやってしまったのでしょうか。
過去から迫ってくる、終わりの無い悪意が凸川の正体なのかもしれません。

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他のレビュアーの感想・評価

笑いもあります

個人的に好きな映画ですかね。過去のふたりのいじめを克明に描いた作品は、週刊誌掲載もあって、大人気になる。それを疎んだ江田と岡本は、場末のホストクラブの順子ママや、ホステスのノラと共に、故郷へ戻った凸やんを殺害しようと「猛毒飲ませ」「車で轢く」「列車飛びこませ」など何度も実行するのだが、凸やんは死なない(笑)。最後は何かバカバカしくなり、皆仲良くなって終わり、というのが大筋だが、とにかく観てもらわないと、この魅力は伝えきれない。キャストは豪華で、北村一輝の狂気とユースケの錯乱、真木よう子、南野陽子の巻き込まれ方と佐津川愛美のブッ飛び演技まで、さすがクドカンという仕上がりだ。特典ディスクもメイキングから舞台挨拶まで、いつものユースケ節爆裂もあって、とても面白い。凸やんは「不死身」なのか「皆を呪い殺す男」なのか、その判断は観た人に任されている。自分は「怨霊」と思うが、どうだろうか。観る人を選...この感想を読む

3.53.5
  • clownclown
  • 165view
  • 418文字

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