ありふれた祟りではない。 - のぞきめの感想

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のぞきめ

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ありふれた祟りではない。

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文章力
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ストーリー
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演出
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目次

昨今の怪談傾向

私はそもそも怪談話が好きです。それも、あまり子供っぽいファンタジーの入っていない、できれば「祟り」や「差別」などが含まれている本が好きなのです。

昨今、ユーチューブの怪談朗読や、2チャンネルの投稿など、本当に多くの怪談話が世に出回っています。ですが、みんな同じところから物語を取ってくるのか、その怪談話のほとんどは、似通っていると感じます。本当に基本になっているお話はそれこそ20もないのでないかな、と思うほど、登場人物の名前を変えたり、起こっている場所が廃校から廃病院になったりという変化を付けるだけで、根幹となっている物語は、実はあまり多くないのではないかと、常々感じています。

本との出会い

そんなもの足りない怪談生活_をしていた私ですが、読書感想文を書くというライティングのお仕事を検索していた時に、この「のぞきめ」に出会いました。興味を持ったのは、まず表紙のイラストです。こう言ってはイラストを描いた方が何と思うかわかりませんが、私がこの表紙から得た最初の印象は「かわいい女の子」でした。もちろん全体のトーンなどは怪談話を意識した暗いものでしたが、どこか色鉛筆で描かれているタッチなどは、幻想的で、ちょっとおとぎ話を思わせるイメージがありました。

それに、数々のホラー、怪談話の表紙によく登場する、どこかのもの悲しい田舎風景や、禍々しいタッチのイラスト、写真等とは違い、しっかり作家さんに頼んで「のぞきめ」の少女を描いてもらったんだろうという作者の意図もしっかり見られ、「これはちょっとその辺から抜粋してきたような話ではないなという期待が持てました。「のぞきめ」の作者さんは怪談話では有名な方だと、あとがきなどから知れたのですが、私は初めて読みました。

テーマは祟りか復讐か

この物語は、ある田舎の村にある一家が昔起こした罪から出た「祟り」を題材に、一見関係なさそうな登場人物たち、またはその周辺の人たちを巻き込んで展開していきます。

関係のない「祟り」や「呪詛」を被ったり、またはそれを身近に目の前で目撃したりしながら、その筋の専門の研究をしている学生の手記など、二つの文献から最終的に実際に起こったことの謎、つながりを解いていく、というような物語です。

よく怪談話にあるような、結局「祟り」として、理由がわからないまま人が死んで行ったり、除霊士や住職さんと、怨霊が苛烈な死闘を繰り広げてクライマックスとする、というようなお話ではなく、しっかりと「実(身)」のある人間が「祟り」の本性として登場し、それが物語内で散らばりながら出てくる数々の伏線(大学ノートの記述や文献など)と最終的に一つのつながりあるものになっていきます。

「のぞきめ」を読んで今後の怪談文化に期待したいこと。

私がこの本を読んでいて、再確認したことは、やはりタブーであるようなものは否が応なく、私を(たくさんの読者を)引き付けるのだなという事です。

このお話では「昔々にある家族が犯したある犯罪的な行為」の報いを代々に渡って受け続けるという題材と、もう怪談話では、ある意味常連になってしまっている「忌嫌われる者たち」、「差別され者たち」、引いては昔の怪談話でよく登場する「六部いじめ(六部殺し)」などの話が何の不自然もなく織り交ざっています。そしてそれに加えて、物語りの端々でちりばめている出来事、事実を最終的にすべて結び付けているのです。とても鮮やかだと思いました。もう一つ、私の感じた事ですが、いつも私が怪談話を読むときに、読み進むうちに、つい、主人公の行動などをイラっと感じてしまうことがあります。読み終わって、私は今回この「のぞきめ」を読み進んでいた時に、それが全くないのに気が付きました。それは、この物語の構成がしっかり練られているからなのでしょうが、読後の満足感もとても良いものでした。一つ一つの物語(物語内に出てくる独立した文献や大学ノートへの記述)と、それを全く別の人間が後に読んでそれを自分なりに解釈した、という構図が見事だと思います。

自然体を演出するのがカギなのか。

だからあくまでも主人公や、その時に例えば大学ノートに記述した本人に、読者自身が感情移入しやすいし、それは物語の中であってもしっかり独立した人間として描かれているのです。だから一度も不満を感じることなく、最後まで読み進められたのだと思います。あまり良い事ばかり書くと、ただの本の宣伝みたいになってしまうので、逆に、ちょっと不満に思ったことも感想として書こうと思います。それは小さい事なのですが、「登場人物の名前」です。実は、登場人物の名前は私の思う限りでは、あまり見かけない名前、もしくは、稀な名前でなくても字の当て方が特殊なように感じました。これは今の流行りもある(作者さんの世代を私は知らないのですが。)のかな、と思いますし、実は、物語を読み進むうちに、この何人かの登場人物の名前には(読みだけ)とても大切な調和があるという事がわかってくるのですが。でも敢えて言ってしまうと、私の不満はそこなのかもしれません。この名前の妙な一致はこれほど周到に構成された物語に置いて、ちょっと陳腐なものに思えてしまったのです。

まだ最後のフラグ回収(?)が足りないと判断したのかもしれませんが、この名前の読みの一致のところに来て登場人物の名前が「当て字っぽい、奇をてらったネーミングだな。」という私のわだかまりに一種の答えを見せてくれます。そして、その答えを見たからこそ、現実ではこんなネーミングはない、この昔の祟りとの関係を表すためのネーミングだったんだ、という事実を突きつけられ、この物語りは少々フィクションの様を呈してくるのです。怪談話を前何が「フィクションの様を・・」だ!と笑うかもしれませんが、怪談を語る上で、その物語をどこまで本物のように見せるか、という事はとても重要だと思うのです。読者全員が(一部怪奇現象を信じている人はいるにしても)怪談はフィクション、と思っての読んでいたとしても。リングなどの有名な怪談シリーズでは科学の方面からそのフィクションをノンフィクションのように描こうとしていますし。

私が読後考えた事

この「のぞきめ」を読んで、私が考えたことは、いくつかありますが、やはり一番大きいのは、前の文節でも述べたように、優れた怪談話(私にとって)はどれだけ、そのお話をノンフィクションのように見せられるかだな、という事です。やはり、「口裂け女は実は宇宙から地球の様子を見に来た宇宙人で、あまり人間のサンプルがなかったため、あのような出来栄えの顔になってしまい、地球に存在している間も、不完全な人間っぽくない見た目だったために、化け物扱いされ、お役目を果たせずに宇宙に帰っていきました。」というようなストーリーでは興ざめです。これは突飛な素人臭い例ですが、昨今世に出ているような、ユーチューブで読まれているような怪談話には、量産の匂いがしてなりません。結末が似ていたり、ストーリー自体が場所が違うだけで全く同じだったりするのです。怪談話作家は、信ぴょう性を持たせるためにか、本当なのかは判然としませんが、「怪談話は収集して、それを練り直している」とあとがきに書く人が多くいます。私は日本の山奥に伝わる伝承を読むのも好きですが、日本の地方の伝承には、特に「怪談話」というレッテルを貼っていなくても、もうそれなりにじめじめした質感の物が多いように思います。つまり、私は怪談収集家も、自分で作り上げる怪談も、日本の至る所にヒントは転がっていると思うのです。だからこそ、結末が似通ったりしているものは、手を抜いているように感じてしまいます。「のぞきめ」のようないくつかの物語が交差し、それが最後にしっかり収束していく物語はどのジャンルにあっても気持ちのいい読後感が得られます。

たくさんの怪談話が巷にあふれているからこそ、これからこの「のぞきめ」のような秀逸な練り上げられた作品が多くなっていくことを期待します。

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