私たちの頭の中はダダ洩れている。
本作を語るにおいて、「内田春菊という人」に触れざるを得ない。
「出産・育児エッセイマンガ」というジャンルにおいて、草分けとも言えるであろう本作。
今でこそ育児マンガというのはコミックエッセイとして一大カテゴリがあるけれど、その昔、特に女性マンガ家がプライベートをさらすことも少なかった時代(少女マンガ家が実は男だった・・・とかよくありますよね)に、よくぞここまで手の内を、というか身内を丸出しにしたものだと感心する。
自身のセックスについてはもとより、子どもたちの実名や夫、夫の家族についても克明に。
そして特に不仲の人間については多分に悪辣に描かれている。それはもう、名誉棄損で訴える!とか法律的な生臭い話が頭をかすめるくらい書きなぐってくる。はっきりと言ってしまおう、育児マンガを求めている人間には不快だ。
出産・育児マンガであるはずなのに、容赦なく織り込まれてくる「超攻撃姿勢」のおかげで、他のいらんことがフィーチャーされてしまう。1巻発刊時にすでに元夫だった男性のこととか、ホント聞きたくない。舅がどーしたこーしたって話も蛇足中の蛇足。ねえ、その悪口やめれば幸せになれるかもしれないよ・・・?子どもの話しようよ・・・?
マンガだし、お得意の「これはフィクションです」という注意書きもある。
それでもエッセイである以上、一抹の真実は含まれているはずだ。
私は内田春菊という人が、心の嗜癖を持っているであろうことを憂慮する。
虐待による境界の侵略。による、だだもれの世界。
本作から離れるが、内田春菊の小説でドゥマゴ文学賞を受賞した「ファザーファッカー」を読んだ。
もちろん小説である以上脚色はあろうが、そこに描かれていたのは主人公の「静子(当然内田春菊がモデル)」が受けた壮絶な虐待だ。詳しくは読んでもらいたいが、養父から性的虐待を受ける日常だったようだ。
そんな思いをしたひとが、無傷で済むわけがない。
心的外傷による心の嗜癖の一つに、「他者との境界線があやふやになる」というものがあるそうだ。
普通の大人であれば「この人にはここまで頼っていいんだな」「この人にはここまでしゃべって大丈夫だな」という、他人と自分の線というものが「雰囲気で」分かる。
それが、幼いころから侵略され続けると(いやだ、と思っているのに性的虐待を受け続ける・・・なんてのは自分の境界線を侵略されることそのものだ)、大人になってもその境界線が見えてこない。
例えば、元夫に言われるがままにお金を渡して、車だの家だのを買わされ続けたなんていうのは正にそうだろう。本来だったら「こんなにお金を渡しちゃだめ!」と自分でストップをかけられるところがかけられない。元夫が喜ぶことが、まるで自分が喜んでいるように感じてしまう。自分の感情ではなく、相手の感情に感化されてしまう。
それは正に境界線が決壊した牧場のようだ。相手の黒い羊たちが内田春菊の牧場になだれこんでいく。
そして、逆も言えるのだ。内田春菊は「自虐」の境界線を侵してしまう。そのため、作家ですらない一般人の親族のことも自分のことのようにこき下ろすことをする。
本来は出産・子育てエッセイマンガであるはずの本作でも、境目なく親族の不満をぶちまける。
私たちは繁殖している。そして、内田春菊の頭の中身はダダ洩れていく。
包み隠さぬ育児・・・は、面白い!
しかし・・・
とても大切なことなのだが、頭の中がダダ洩れてしまっている本作は間違いなく面白いのだ!
だって、「育児」にフォーカスしたら、こんなに知りたいことを書いてくれている子育てエッセイっていまだかつて見ないですよ?
この育児エッセイマンガ戦国時代でも、妊娠中のセックスに触れている人は数少ないと思う。それが、こんな昔の作品には堂々描かれているのだから恐れ入る。ただ、陣痛中のセックスは・・・ホント!?ホントにそんなことできんの!?本当なら黒船ば来航ですよ(混乱のあまり取り乱す)。
下着がダサいからTバック履いてるとか、オムツもうんち汚れをちょっと落としたら洗濯機でまわしちゃうとか。痛快お母さんとしては見ていてスッキリする。
その割にマタニティ服を手作りしたり、離乳食も手をかけていたり。ママらしさもあるのだ。
それにしたって、どんどこたくさん子どもを産んで、男と別れる理由も「妊娠できないから」で、付いていけないくらい原始的!子育てという、生物という意味ではMAXの最重要課題を、楽しく豪快にやっているということはビシビシ伝わってくる。
参考になるお母さんぶりではまったく無いけど、こんなお母さんに育てられたらいろいろおおらかで個性的な子どもたちに仕上がるだろうなあと、ちょっと楽しみではある。
と、言いつつ・・・巻を追うごとに、絵は荒れ、悪口雑言は倍加し、構成も極限まで甘くなるという悲しい作品でもある。あーあ、1巻2巻あたりのクオリティで進めてくれたらうれしかったのになあ。
真摯な作品の復活を願っています。
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