佐々木倫子ワールドを見事に再現
大学生活の作品なのに実写が困難なのでは?という世界観
原作の漫画、動物のお医者さんの人気の秘密は、なんといっても著者佐々木倫子さんの独特の作風による部分が大きい。
とにかく几帳面さを思わせる丁寧で緻密な作画、真面目そうな漫画なのにずいじょ随所に散りばめられているギャグ要素、嫌味のないマニアックさ、丁寧な書き文字による効果音やモノローグの味である。
物語自体は、獣医学部の学生の日常を描いた作品だし、これと言って大掛かりなCGを駆使しなきゃならないとか、実写が困難という内容ではない。しかし、擬人化された動物の独特のセリフ回しや書き文字によるシュールな効果があるから面白いという、作品から流れ出る空気感をどう実写化するかというのが大変難しい作品だと思う。
また、主人公ハムテルは非常にイケメンで真面目、一般的な少女漫画だったらモテそうな大学生なのだが、彼が内包する真面目で育ちの良い品のよさと天然ボケのような魅力をどう実在の人間が演技するのか、キャラクター付けが非常に難しいのではないか。
菱沼さんといったキャラも、漫画の中ではあのぐにゃぐにゃした縁取りの吹き出しが特徴的なトロいキャラだが、あのトロさをどう表現するのか。
そういうファンの心配の中、このドラマは独特の世界観を崩そうとせず、原作に忠実であろうとした努力を感じ、好感が持てる。なるべく外見が原作の絵柄に似たキャストを起用するなどの配慮や、佐々木さん独特の書き文字をうまく引用している点も上手い。若干改変はあるが、許容範囲であり、原作の世界観を大事にしている。
キャラクターの実写化が見事
主人公のハムテルは吉沢悠さんが起用されている。吉沢さんはハムテル特有の短髪ヘアでなかったのが惜しかったものの、妙に落ち着いている点や品の良さ、それがゆえにちょっと天然ボケで世間ずれしている、ハムテルの雰囲気は非常に原作に忠実だったと思う。
特にちょっと何を考えているかわからぬようなぼんやりした目線が非常にハムテルっぽく、回を重ねるうちに顔つきまでハムテルっぽく見えてくるので不思議だった。
実写化が難しそうな女性キャラ菱沼さんは、和久井映見さんが「とろくささ」を「のんびりした優しさ」のような表現で演技されている。実際の菱沼さんはもっとしゃべり方がよろよろした人なのではないかと思うのだが、和久井さんのふわっとした雰囲気が、菱沼さん特有の呑気さを表現しており、じゃ間エキセントリックさが抑えられている印象だがイメージは崩していない。
実写化が最も見事なのが江守徹氏の漆原教授だろう。このドラマにおいては、漫画からそのまま抜け出してきた、と言っても良いレベルのキャスティングと言わざるを得ない。
二階堂や清原はややイケメン過ぎる気もするが、原作の二階堂は元々顔立ちは整っており、清原役の高杉瑞穂さんはよく見ると目元が清原にそっくりである。
チョビをはじめとする動物たちも、シベリアンハスキーやスナネズミの実物に会ったことがない人には、新鮮な驚きもあるし、実写でチョビやミケを見て、より原作をリアルに感じることができる、相乗効果もありそうだ。
ちびまる子ちゃん効果とユニークなセリフの改変
原作でも物語の進行の中でナレーションのようなセリフが入っているのが特徴であるが、初期のちびまる子ちゃんも同様で、そのツッコミが非常に面白いのが特徴である。
偶然にもちびまる子ちゃんのツッコミで有名なキートン山田氏がこのドラマのツッコミナレーションも行っており、ある意味国民的定番ツッコミナレーターを起用することで冷静に突っ込む面白さが際立っている。
ちびまる子ちゃんでは最近キートン氏のツッコミがめっきり少なくなってしまったが、それは原作という紙媒体を離れてアニメが作成されだしたからであり、紙媒体の原作を基に世界観を大事にするなら、やはりこのドラマ同様、ナレーションを起用した方が面白さが忠実になるかもしれない。
また、動物の医者さんはドラマ化にあたり、おそらくあえて原作の中に息づく「生真面目出繊細な絵柄が産む面白さ」を表現するために、変えられたセリフが散見される。
ハムテルが原作では祖母を「おばあさん」と呼んでいるのに対し、ドラマでは「タカさん」と呼び、祖母も原作では「キミテル」と呼び捨てているのに対し、ドラマでは「キミテルさん」と相互に他人行儀な呼び方をしている。祖母を下の名前で敬称付きで呼ぶのは一般的でないので違和感を感じる人もありそうだが、奇妙な真面目さを醸し出す良い効果にはなっている。
こういった改変は、改悪というより実写では表現しきれない部分をフォローするための表現の工夫と言えそうだ。
小林が出ないのが残念
細かく完結型のエピソードを一時間のドラマの尺で二話放送という、サザエさんのような構成の珍しいドラマであり、原作にもほぼ忠実である。沢山のエピソードの中でおそらく放映期間の問題上泣く泣く切られたのだと思うが、親に逆らってミュージシャンになろうとしたが、結果的に獣医を目指すことになる後輩小林のエピソードがなかったのはやや寂しかった。病院は世襲の所も多く、小林のように嫌々親の敷いたレールに乗ってしまった学生もいるだろう。小林はハムテルやチョビと関わる中で自分の動物好きの側面を引き出してもらえて結果獣医を目指すことになるが、やや短い尺では表現しきれなかったのかもしれない。進路の選択に悩みがちな若者に見てもらいたいエピソードだったことや、小林の容姿が実写映えしそうだっただけに、その点は悔やまれる。
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