みんな頑張って生きている
一見、ほのぼの系ギャグ漫画か?
表紙のねんど人形の可愛らしさから、女性漫画家のほのぼの系ギャグと衣食住を題材にしたエッセー的な漫画と思いきや、女目線の、ブラックでどろどろとした人間関係が溢れている現実世界だ。最近の非現実的で以上な状況に陥った人間達がおかしくなっていくパラレルワールドや、精神異常者がわんさか出てくるわけではない。えげつない嫁姑やレディースコミックのようなエロ下品な人間関係が描かれているのでもない。ただの生活の、リアルの厳しさや切なさ、やるせなさに溢れている。ちょっとエッチ系ギャグ漫画が有名な伊藤理佐さんの作品にしては、ストーリーが進むにつれて、カレシが〜カノジョが〜的な恋愛の要素より、結婚後に浮気されたとか不倫とか、育児に疲労した主婦がよく出てくるので、疲れている感が多く、所帯染みてくる。「あ〜作者も大変のかな」という印象を抱かせる。連載中に再婚、妊娠出産育児をご経験されているので仕方ないか。でも稼いでてすごい。仕事、家事育児に追われ、ストレスも溜まっている事だろう。若い時は自由気ままだったのに、毎日毎日面倒くさくても何か作って食べなくては生きて行けない上、子どもがいるなら食わせなきゃいけない。衣食住ににじみ出る人生の変化をひしひしと感じる。食べる物はその人の体だけでなく、生活や周りの人間模様も作っているのだ。潔いほど女目線の作品なので、子どもから大人になって恋愛〜結婚出産育児の道を歩む女性の精神状態や考え方がどう変化して行くかが分かりやすく、妻や彼女の気持ちが理解できない男性にはバイブルになるかもしれない。
登場人物基本、全員こじらせている
「好きな人とご飯を食べたり作ったり、幸せ♪」みたいな描写は表面だけ。食べるものに自分の人生を重ね、皆アンニュイである。暗いのである。メインカップルの大森さんと渡邊さんを始め、みんなどこかこじらせ女子、男子ばかりだ。大森さんも結構良い会社で管理職なのにすごい貧乏臭いアパートに住んで太っている(ストレス?)し酒ばっかり飲んでる。彼女の渡邊さんはいい年して実家暮らし、ほのぼのしているようで彼氏の捨てたゴミをチェックするなど以外と粘着質で神経質だ。しかも指輪までもらっていつまでも結婚しない。うやむやか?その他、大森さんの元カノは偶然を装って未練タップリ、デブブス男の見た目を理由に自分から振ったくせに新しい彼女との行きつけの店に堂々と現れる嫌な女である。しかも「偶然あって気まずい」感を出す。嫌なら行くな。さらに実家依存のマユちゃん、子離れできないヘリコプターペアレンツの両親に何も出来ないと決めつけられ縛られているのに自覚無し。やっと彼氏が出来て、一緒に暮らす家を探そう!というのに彼氏の方は金を理由に結婚も同棲もはぐらかしている。なのに漫画上では幸せそうに餃子作ったりしてあげてる。しかも前の彼女の話とかされても我慢してる。私が友達なら、彼氏をはたきたい。なのにみんな楽しそう、幸せそう。他に出てくる人も皆、闇は深いが最後に何かをおいしく食べたり飲んだりして救われているのかも?リアルに描いたらつらいだけになってしまうか。
頑張るオトナの格闘コミック
私たちは自分より不幸な人間を見て幸せになれるし、頑張ろうと励まされる。この漫画に出てくる人たちは自分のようで自分じゃない。これ、実際自分に起こったらかなり鬱だよな…的な話も最後はハッピーエンドで終わってくれる。慌ただしくて情報過多な現代、私たちは見えない敵と戦っている。現実、人間、仕事は思い通りには行かないし、この歳になった自分はこんなはずじゃなかったという思いもある。例えば独身貴族な男、気づいたら中年居場所無しだったり、結婚に焦ってても自由なお金稼いでるから勝ち組だとか、フリーターを10年以上続けてやりたい事が無くても私には彼氏がいるから、いつか結婚するから安心とか、結婚して子ども産めば幸せかよ偉いのかよ、とか。どこか人と比べてまだ大丈夫、と安心したいし、私は幸せなのよと周囲にマウンティングしたくなったりする。いつも不安で人の目が気になる、うしろめたい過去もある。そんな大人達がおいピータン!!の中では必死でわちゃわちゃ生きている。だから現実からはちょっと目をそらして、目の前にいる人と笑顔を作ってご飯を食べる。誰かに作ってあげているし、作ってあげる私はエライ!可愛い!と思いたい。まして優しく可愛くイラつかず〜なんて出来る訳ないじゃん、バーカ!という気持ちで読んでほしい。女性にとって食は幸福度のかなり重要なポジションにあり、食べる事は戦うエネルギーになる。食は人を作り、その人間の生活感やオーラは作られる。おいピータン!!は現実の悲壮感を食というオブラードに包んで上手く納得させていくしかない、頑張る大人の格闘コミックだ。戦う現代女性にエールを送りたい(男性にも、そうじゃない人にも)。
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