ノンフィクション映画の強さ - 酔いがさめたら、うちに帰ろう。の感想

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酔いがさめたら、うちに帰ろう。

4.254.25
映像
4.00
脚本
4.75
キャスト
4.50
音楽
3.75
演出
4.75
感想数
2
観た人
2

ノンフィクション映画の強さ

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
3.5
演出
4.5

目次

アル中の旦那を支える家族の様子が生々しく見える

元戦場カメラマンでアルコール依存症の浅野忠信演じる塚原安行とその家族との闘病生活の様子が描かれているこの作品はポップに描かれている部分もありながら、かなり生々しく家族が感じる怖さや大変さがリアルに描かれていました。浅野忠信さんのお芝居もとてもリアリティ溢れる演技だったこともあり余計に恐怖心をかき立たされているのもあると思うのですが、浅野忠信さんはやはり映画で見ると余計にお芝居のうまさが引き立っている気がします。最近ではドラマで見る機会も増えてきていますが映画のような世界感の方が似合っていると思います。

この作品を見るまでアルコール依存症がどういった問題を引き起こしてしまうのかあまり分からなかったのですが、こんなに中毒性があって危険性の高い病気だったことに驚きました。幻聴や幻覚はもちろん、すぐにキレて暴力をふるっている様子には本当に観ている側でもとても胸が締め付けられる瞬間がたくさんありました。そしてその暴力を振るわれている永作博美さんのお芝居も本当に素晴らしくてもっともっと永作博美さんのお芝居を観ていたいと思いました。

永作博美さん演じる園田由紀は漫画家で安行とは既に離婚している設定なのですがやはり見捨てられないのか、なにか起こるたびに駆けつけてくれるのでそういった甘えられる存在がすぐそばにいるという意味でも依存症にかかっている安行はなかなか依存症から抜け出せないのかなと感じるのと同時に、同じように由紀も離婚しても情が残っているので駆けつけてしまうのだろうと作品を観ていて感じました。誰か一人がこんな病気にかかってしまうことでここまで家族が崩壊し、当人以外の仕事や生活にも支障が出てしまうことが現実に起こっていると思うと、自分がいつなってもおかしくないこの病気に本当に気を付けなければならないと改めて感じました。

そしてこういう病気はアルコールだけでなく人に対しても依存してしまう傾向がありとても怖い病気だと思います。

永作博美のセリフ周りがとても染み渡る

本当に何度も何度も暴力に耐えて病院への搬送を繰り返し施設に入る、という同じような繰り返しを続ける安行に立ち向かう由紀は本当に心がおかしくなっていく様子が繊細に描かれていました。そしてその由紀を演じる永作博美さんはとても一言一言に力強さと弱さが相まってとても人間らしい絶妙な表情をたくさんこの作品では観ることが出来ました。

シーンの中に「この頃、悲しいのと嬉しいのと区別がつかなくなってきた。」「悲しみがあんまり深くなるとなんだか体中が悲しみでいっぱいになるでしょ、身体を満たしているのがたとえ悲しみであってもとにかく体はいっぱい満たされているわけだからもう悲しいんだか嬉しいんだかわからなくなる。」というセリフがあるのですが、とても楽観的に話しているのにすごく悲しみのセリフに聞こえるんです。これって本当にお芝居のうまい人じゃないと出来ないことだと思うんです。物語の中のお話なのに確実に永作博美さんにこの役が入り込んでいて、それこそ永作博美さんなのか由紀さんなのかわからなくなる瞬間がたくさん見れました。

それくらいこの作品にかけている想いも強いんだということも分かりましたし、普段の可愛らしい一面とは一転しとても不幸役の似合う女優さんだなと思いました。

実在している人の話だと思ってみると寒気がする

この作品に原作は鴨志田穣さんの著書で本人は癌で2007年に亡くなっているそうです。奥さんの西原理恵子さんも漫画家で実在している方です。これが本当にあった話だと思って観ると本当にこんな男性とは絶対に続かないし自分が壊れてしまうと思います。しかしこの作品に出てくる由紀さんは別れていても嫌いになれないから支え続けていたのだと思います。

正直浅野忠信さん演じる安行はとてもクズで最低でどうしようもないやつでしたけど、タイトルの通り『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』という目標を持つことが治療していくうえで生きていく上での糧になっていたんでしょうね。

映画としてもとても面白く、カメラワークも少し荒いのですがこの題材にとても合った動きをしているように感じました。ただただ題材の意味を考えて観るだけでも二回くらいはしっかりと見たいと思う映画です。

作品のキャストもバイプレイヤー揃いでとても安心して見られる作品でしたし、お芝居を観ているとたまに“あ、気持ちのつながりが無くなっている”と感じる瞬間も度々見受けられるのですが、今回はそういったこともなくずっと作品の息が流れているように感じられるのも好印象です。

やはりほとんどがノンフィクションで実際にあったことを作品にしているのでとても信ぴょう性があり、観ていても入り込みやすい作品だったということもこの作品の強さだと思います。

最近では漫画実写なども多い日本映画界になってきていますが、今後もこういう映画がどんどん増えていけばいいなあと思いました。

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4.04.0
  • freemikefreemike
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