いじわるな彼氏がやみつきになる - ココロ・ボタンの感想

正直で一生懸命すぎる新奈

高校の入学式。具合が悪くてうずくまっていた新奈を助けてくれたのが古閑くんだった。そんな彼と近づきたくて、思い切ってお試しでもいいから付き合ってみませんかと頼んだ新奈。そこから彼女の一喜一憂盛りだくさんな毎日が始まる。

新奈はとにかく一生懸命で、古閑くんと仲良くなりたい一心で行動。押してダメなら引いてみようとするも、それもできず。とにかく好きだという気持ちいっぱいに古閑くんを探して進んでいく、忠犬のような女の子である。確かに、マリーにそっくり。とてもよく表現できているなーと感心した。

そんな彼女をいじめ倒すSの男の子古閑くん。普通科の新奈と違い、特進科で勉強に励む彼は、何があろうとマイペース。そして、いじわるに対して真正面からがんばろうとする新奈にちょっとずつ惚れていく…これまたかわいらしい。絵も全体としてかわいい作風で、いつも平常心でニコニコしている彼が、たまに悲しそうな顔をしたり、照れてみたりするのが何とも胸をきゅーっとしめつけてくれる。頭がいいため物分かりもよくて、別に両親の離婚があろうとマイペースを崩さず、新奈を手放す気もないんだけど…いつもいじわるしているせいで、新奈がたまに本気で困ったり、傷ついたりすることもある。ちゃんと好きだけど、好きだと伝えてしまうのは自分が負けたような気持ちにもなるし、きっと悔しいんだと思うんだよね。自分のほうが優位に立っていると思っていたらいつの間にか虜にさせられているという事実。ドSな子がどういうふうに変わっていくかっていうのは、どの漫画でも非常に楽しみなところである。

横恋慕よりはイベント1つ1つを丁寧に

新奈をかっさらおうと考えたのは、とも兄ちゃんと速水くん。逆に古閑くんを渡さないようにと頑張っていたのは従妹ちゃんだった。長引いたのは速水くんだけで、他は割とあっさり。普段から、古閑くんが新奈を困らせるからね。学校内のイベント・季節のイベントにおける紆余曲折も、彼らのキャラクターをもってすればかなり面白くなる。古閑くんの、優しい笑顔の下でドSな性格・そしてちょっぴり意地っ張りで正直になれないところ・さらには大事なところではちゃんと新奈の心をぎゅっとつかんで離さないテクニック…新奈が自分にメロメロにさせてやる！って思っても、どうやっても古閑くんには敵わない。そういうところが毎回楽しいよね。

新奈が本気で悲しめば、優しい古閑くんはどうやったって敵わないってこと、新奈がわかってないからかわいいのであって、わかった上で新奈が古閑くんを手玉に取るような行動をとっていたのだとしたら、全然違った物語になる。どこかでそういう裏話もあったらおもしろかったかもね。やられっぱなしを演出しているのが私なのよ！というブラックストーリー。楽しそう。巻末のちょこっと漫画とかでさ。

オリエンテーション合宿、夏の花火大会、体育祭、文化祭、クリスマス、お正月、バレンタイン、進級に伴う後輩の登場…いろいろあったなー。どれも王道で、よくある話ではあったけど、オリジナル感があった。古閑くんって頭いいみたいだけど、新奈と何かしら怒られることが多くて、ちょっとダサさもあるよね。学校内での友だちもあんまりいないっぽいし。イケメンだけど、天然っぽくて近寄りがたい子なのかなって思う。

高校生ならではの進路問題

高校生と言えば、大人になる一歩手前でどんな未来を選択するかという第一段階。就職するのか、大学行くのか、短大いくのか、専門学校に入るのか…。どんな道を選ぼうとも間違いではないけれど、そこに確かな志がないとダメなんだよね。古閑くんにはちゃんと夢があって、海外で働くことをしっかりと見据えている。一方の新奈には何もなくて、どんな夢に向かってどれくらいがんばったらいいのかが全然見えていない。今までは古閑くんに好きになってもらいたいってだけで動けていたけれど、これからはオトナにもなっていかなくちゃならないから…自分の夢について考えて、行動を起こすところは健気だよね～結局忠犬として古閑くんのアメリカ行きにいずれついていくってことになり、女はかわいいだけで男の癒しになるというまさかの終わり方をしてくれたのは残念だった。もう少し踏み込んで、健気な女の子の本気ってやつを見せてもらいたかった。

女の子って求められるから一生懸命になれるところがあるから、いつまでもこの主従関係が変わらないのかなー。どうせなら、古閑くんを寂しくてたまらない気持ちにさせてしまうくらいのエピソードも欲しかったよ。いつもいつも新奈ばかりが泣いて、古閑くんにヨシヨシされてちゃ変わらない！

進路に関しては、高校生の段階で見つけられるものがそのまま生涯のゴールに結びつくことってないんだよなー…と大人からするとしみじみ悲しくなってしまうポイントだから、せめてこの子たちには…と願いを託したくなるのもまた事実。少女漫画の多くは、非リア充の夢が大量に詰まっているものだ。

速水くんの隠し味

速水くんの設定が、高校生ながらにして人気小説家となっているんだけれど、何となく雰囲気が、「椿町ロンリープラネット」のアカツキ先生の若いころ的な雰囲気を感じさせる…時期的には「椿町ロンリープラネット」のほうがあとから出てきた作品だから、なんとなくつながりがあるんじゃないかと想像しちゃうね。インスピレーションもらっているとか。初恋が手に入らなかった苦い思い出が、フミと出会って…とかさ。全然本編では違うエピソードなんだけど。すごく雰囲気がマッチするんだよねー。

速水くんはガツガツいけるタイプではないし、古閑くんを大事に想う友だちだから、それほど大きなことにならなくてよかった。新奈が古閑くんと離れるのが寂しくて速水くんの胸を借りて泣いてしまったことがあったが…それはちょっと隙がありすぎる…新奈って、古閑くん一直線で、ちゃんと線引きできる子だと思っていたから、やっぱり横恋慕とか出てくるとこういう展開になっちゃうんだなーって少し残念だったよ。

速水くんのおかげで古閑くんもいい感じに独占欲働かせてくれたから、読者としては満足できるんだけどね。彼の小説には、いつか新奈が登場するのかな…その時は、自分に見立てた存在とくっつけちゃったりして…と、余計なことまで想像できる、おいしいキャラだったよ。

古閑くんの絶妙なドSにハマる

古閑くんがいじわるなのはわかっていることなのに、ついつい本気になって一喜一憂してしまう新奈。いじめすぎたと思って古閑くんが少し控えると、なんだかそれも寂しい気がして、愛が少なくなったように感じられてしまう新奈がまた…ドM気質だったのだろう。古閑くんにいじめられたい…！という読者も多かった。

もちろん、速水くんの人気も高かったが、この物語は新奈と古閑くんでばっちり安定で、崩れようのない王道の少女漫画。大きな揺らぎもなくて、最後まで安定しているから、単純にニヤニヤして楽しみながら読み進めることができる。新奈のお友達に関してはそれほど掘り下げられてはいないので、全部新奈メイン。もしかしたら、物語に厚みがないことが不服な読者さんもいたかもしれない。対象年齢的には、小学校・中学校くらいかなー。ときめきだけでごはん食べれるようなお年頃には、ぴったりの作品だろう。

どうせなら、現実では古閑くんよりも速水くんを選びたいところだよね。将来性があろうと、いま現在の優しさの大きい方を選びたくなることだろう。