男子校に女子一人と言えばこれ
数々ある逆ハーレムの代表
なんといっても、逆ハーレム・イケメンパラダイスと言えば「花ざかりの君たちへ」。男子校に突如として飛び込む芦屋瑞稀。理由は綺麗な高跳びを飛んでいた日本人の男の子に会いたかったからというだけの理由。何とも理由が謎だけれど、確かな行動力・一生懸命さには心打たれるものがあり、かわいさも非常に魅力だ。作者の中条さんの絵がこれまたうまいのなんのって…たいていの男装した男の子の場合、男の子に寄ってしまって全然風貌が変わってしまうか、見た目がまんま女の子っぽくてもろバレな仕上がりになってしまうかなのに、芦屋瑞稀は見事にちょうどいい感じなんだよね。
ただ少し古い漫画なので、瑞稀が女の子っぽい恰好をしたときの服装が何ともダサい感じ…そりゃーひと昔前なのだから仕方ない…。男の子の格好のときはすっごく似合っているんだけどね。愛蔵版のまとまった「花ざかりの君たちへ」では、巻頭にカラーで何枚も扉絵などが入っているのだが、それらは本当に綺麗!瑞稀がかわいいのもそうだけど、佐野と中津がとにかくイケメン。オーラ満載である。
1巻からすでに、お互いへの信頼関係はできあがっていて、それができたタイミングがわかりにくいのが難点。特にこれ!という出来事があるというよりも、いつの間にか佐野が瑞稀を必要としている感じ。瑞稀は、彼の高跳びをもう一度見たいんだという理由だけではないってことを、2話目にはすでに自覚。だけど、まだ好きなだけでいいやって感じで、恋の独占ではなくて。彼にもう一度高跳びを飛んでほしいという気持ちに、そばにいたいという気持ちが加わって、やきもちも加わって…少しずつ女になっていくのがまたかわいいんだよね。それを素直に梅田先生に相談しちゃうのもかわいいし、それにちゃんとまっとうに応えてくれる梅田先生もまた…素敵。
佐野の感情はわかりやすい
佐野は瑞稀が女であることに校内で2番目に気づいてしまったわけだが、どう接したらいいのかわからないなりに、芦屋瑞稀をそのまんまで見てくれて、暴露してやろうとか、いじめてやろうとか考えないのが仏様だよね。そして、わりとすぐ打ち解けてしまった。それは瑞稀が佐野を心から応援してくれているのが伝わったからだし、佐野が壁を作ってても、ぶっ壊して中に入ってきてくれる。そして閉ざそうとして閉じさせてはくれないところを気に入ってしまったんだよね。さらには、女なのに男の世界にいる瑞稀を、俺が守らなきゃ!って思っているのもまたヒシヒシと伝わるね。すでに恋なのに、なかなか自覚できない佐野にはやきもき…でも気づいてからのほうがもっと大変なんだなー邪魔ばかりが多くて。
ドラマの第1弾で、小栗旬が佐野泉を演じていたときは、とにかくキャラクターがわかりにくくて、ぶっきらぼうで、好意も全然伝わらなかったから、漫画版を後から読んだ人は驚いたんじゃないだろうか。佐野ってすごい感情豊かだし、おもしろいなーって思えばちゃんと笑っているんだよね、意外と。イケパラはたしか2回ドラマになったと記憶しているんだけど、堀北真希のときのイケパラがやっぱり一番!なんて言っても、小栗旬!そして中津役の生田斗真がイケメンすぎて!これぞイケパラと言える出来だった。
一番は、自分が瑞稀を必要としていると自覚した、あの体育祭のときよね~。
高跳びに関しては詳しくない
実際、高跳びに関する知識はそんなに多くない。佐野が飛べたかどうか、高さがどうか、ライバルがどうかってくらいしか出てこない。他のスポーツ&ラブロマンスの漫画だと、「君はペット」を描いた小川さんの作品である「キス&ネバークライ」が人気だよね。あれはもう競技のことも事細かに説明していて、よりスポーツのことを深く考えながら楽しめる作品になっていると思う。それと比べると、この漫画における佐野の高跳びというのは、そんなに詳しくないし、大きくもないかもしれない。佐野を好きになったきっかけは高跳びだったし、高跳びを通して佐野もまた瑞稀の存在の大切さを感じていったのだから、もちろん大事な競技ではあるけどね。スポ根ってほどじゃない。どっちかっていうと、「桜蘭高校ホスト部」的な雰囲気で、男装を強いられた自分の事に鈍感な女の子が、男子たちに囲まれてワチャワチャと学校行事を乗り越えていく物語だ。そして、校内でのイベントを通して深まった絆が、家族だったり、世間だったり、いろいろなしがらみにもまれても確かなものであり続けるのかどうかを試される。
高跳びで争うライバルに、神楽坂と佐野泉の弟のシンがいるが、瑞稀の取り合いになったのはシンだけで、神楽坂は良き相談相手といったところだった。正々堂々と戦い、佐野泉がいないから一番になれるなどと言われぬよう、結果を残したいのも確かだろう。神楽坂は誰より佐野泉の才能・美しいジャンプに対抗心があり、それは憧れでもあるからに違いない。
中津の気持ち
中津がね…とても不憫なんだよ。瑞稀のこと、本能で女であると感じ取れていたのは、梅田先生だけじゃない(萱島はオーラで読み取ったとして…)。「俺はホモなんかじゃない」と言い聞かせながらも、瑞稀とお近づきになりたくて一生懸命振り向かせようとする中津…健気であった。
絶対に佐野という存在には勝てないのが中津。彼ほど一生懸命なキャラクターだと、一発逆転でヒーローへと君臨するパターンもあるし、逆にどこまでいっても選んでもらえないからグレちゃうパターンもある。ストーリー的に、どこかで佐野と中津で勝負しなきゃいけない感じは醸し出されていたから、お互いがちゃんと友だちとして分かり合える結果になったことはベストだなーと思う。できれば、瑞稀が来る前の桜咲高校1年生の状況をちゃんと描いてほしかったなー…本編でしっかり登場してほしかったよ。中津と佐野、いつもの4人の仲良しがいつ生まれたのか。自分の中に閉じこもるタイプの佐野と、友だちだと言えるまでには打ち解けることができているのは、やっぱりそれなりのいい話があったんだろうなーって思う。だいたい想像はつくんだがね。どうせ中津が壁をぶち壊しに来てくれたんだと思う。瑞稀と同じものがあるもんね。
脇役たちのお話にも感動
もちろん、佐野と瑞稀のエピソードはいつも最高なんだけど、難波南と元カノ、梅田先生と意中の男性、萱島のオーラエピソード、それぞれの寮長の話…などなど、いろいろと充実しているのがいいところ。この辺は、「桜蘭高校ホスト部」と実によく似た雰囲気だ。メインキャラクターのエピソードはきっちりしっかり仕上げてくれている。花とゆめコミックスの共通点なのかね~このあたりの年代の流行りかもしれない。どのキャラクターも愛すべきところ満載の人たちなので、余すことなく語ってくれるのは大変嬉しい事だ。増やすだけ増やして全然まとめてくれない作者さんもいるからね。キャラクターを増やしまくるわけでもなく、横恋慕させまくるわけでもなく、それぞれが絆を深めていく割と淡白な関係。そこがめんどくさくなくて、気持ちのいい風が流れている物語だ。男子校といっても、みんな実に爽やかで、誠実で、規律ある雰囲気なので、きっと頭が良くて、スポーツもできて、しっかりした人しかこの高校には入らないんだろうな。
最終回の迎え方は、いったいどうしたもんか…ってところもある。少し悲しさがあったからね。それまで男だと思っていた相手が女だった・嘘をついていたってことに素直に傷ついてしまうあたり、この男子校の男子は本当にピュアだなーって感心する。彼らには、ピュアなまま汚れることなく、いつまでも佐野と瑞稀の友だちでいてほしなーと願いたい。
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