本気で子どもと向き合う教師の日々 - ハガネの女の感想

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ハガネの女

4.504.50
画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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本気で子どもと向き合う教師の日々

4.54.5
画力
3.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
4.0

目次

全力で真実を解き明かす

芳賀稲子。通称ハガネ。あだ名の通り、ハガネのような精神の持ち主。でもそれは別に傷つかないってことじゃなくて、いつも自分よりも他人の喜びを優先させることができるという点で、鋼なんだと思う。子どもたち中心に動き、子どもたちの幸せのために行動するという信念の強さが素敵で、子どもの理由も、親の理由も、先生の理由も。すべてに誠実にあろうと努力しているのがカッコいい。自分が悪いと思ったら謝るし、引きずらないし、絶対に子どものせいだけにしない。理由がなければおかしな行動は起こらないという気持ちの強さ。大事だよね。

人間どうしても、自分は悪くない!って思いこむこともあれば、もういいよどうでも…ってあきらめてしまうこともある。そしてたいてい何かに思い悩んでいれば、どちらかに傾いていってしまう。こじれてしまうのは子どもに原因があるのか、親に原因があるのか、教師に問題があるのかと探っていくと、1つの理由がどんどん派生して大きくなって、あからさまに目に見える事象に顕在化していっている気がするんだよね。ハガネはそんなに抽象的な考え方をしているわけではなくて、とにかく熱血。腹を割って話そう・笑顔になれる道を選ぼうっていうそれだけで行動している。どれだけこじれた問題も、最終的にたどり着く解決方法って、ハガネの方法しかないんだと思える。みんなが何かしら守りたいものがあり、それが自分なのか子どもなのか友達なのかは本当のことを言ってくれなきゃ全然わからないんだよね。みんなが少しずつ嘘をつくから、真実はいつも埋もれてしまう。そこに果敢に飛び込むハガネは、そりゃー結婚できないよ、という活動量で子どもに挑む。

全力で謝罪する

ハガネのすごいことは、悪いと思ったら絶対に頭を下げて謝れるところ。24時間、苦しんでいる子どもがいたら、いつでも助けに行くと決めて行動できるところ…。そりゃー時には、見誤ってしまうことだってある。別に勘がいいわけじゃないんだよね、ハガネは。一生懸命、1つ1つの問題に向き合って、ある程度の見切りをつけて、まずぶつかってみる。そこからどう転んでいくか、今までの教師人生で培ったものが役立つこともあれば、役立たない新しいケースだってあって、その時を生きている子どもたちによって全然何通りでもパターンが生まれるんだなーって教えてくれる。自分が教えてやるんだ!っていうほど自分の価値を高くしていないことがハガネのいいところだ。

逆に子どもたちのほうが教えてくれることっていっぱいあって、人として悩み、苦しんでいる。子どもなりに葛藤しているのだ。果たして自分が幼いときにそうであったかどうかはわからないが、少なくともその時の友だちとの関係に悩み、それはいつの間にか解消されていたことを思うと、この漫画に登場するような子どもたちほど心を病んだ経験がなかったのだと思う。お受験するような小学校で、抑圧を受けている子どもたちにとっては、小さなことでもストレスの爆発するきっかけになってしまうのかもしれない。子どもも、大人も、行き過ぎてしまうことなんてたくさんあるし、誰かを傷つけたり、傷つけられたりする。そこで悩んで、どう行動するか。大人はある程度わかっていることもあるけれど、子どもはわからなくてどんどんひどくなることがある。そこを教師がどう導けるかが大事ってことなんだろう。子どもを育てる親だって、一緒に成長していくんだと思う。

年齢なんて関係ない

2巻あたりのあかりたちの話が一番ぐっとくるものがあった。彼女たちは、恋してただけなのに、いじめになるなんてね…。確かに、好きな子に好きだとバレたくなくて、ついいじめてしまう心理ってやつはわかる。憎まれ口をたたいたり、暴力女と言われようが叩いてみたり…言い返せる・茶化せるような相手ならまだしも、ただ言われっぱなしであきらめているんだったら、やはりそれはいじめに映ってしまう。実際、物を盗んでいたのは事実で、謝らなくてはならないのに、家庭でも問題を抱えていて…

こうなると、どこから切り込んでクリアにしていったほうが正しいのか、わからないよね。しかも1つの難問が解けても、まだまだ真実にはたどり着けなくて、どんどん掘り下げて、その人となりに迫らなくてはならない。どこまでが許されるのかわからないけれど、根本から理解してあげるためには、かなりプライベートな部分に踏み込まなくてはならないんだろう。密な関わりがなければ、子どもの問題は解決できないんだ。

そして、子どもは年齢が子どもだというだけで、大人よりできないとか、大人より優先される・されないというような存在ではない。きちんと自分の考えを持っていて、その時の自分の持っているものを一生懸命に発揮し、生きているのである。恋だって、大人も子どもも関係ない。あかりも言っていたように、5歳だろうが10歳だろうが恋は恋で、年齢なんて関係ない。そういうものの積み重ねが経験で、大人をつくるだけなんだ。

面食いだから失敗するんじゃないか

ハガネは37歳独身一人暮らし。結婚するからって寿退社したくせに、破談になって職もなかった女。そんな彼女の教師としての能力は買われるのに、やはり女としての能力は買われないらしい。女を放棄している部分ではなくて、男がいなくても完結してしまうところに、男は冷めてしまうんだろう。

それにしても、ハガネらしい生徒優先の行動パターンに合わせられる男だって、世の中にはいるはずなんだよね。だけど、男を探しに行く時間がハガネにはないくらい、どこまでも子ども優先で仕事をしてしまうから、自分から手に入れる恋を知らなさすぎるね。また、絶対面食い。塩田先生なんてさ、浮気よ?年下だと思ってたら浮気だよ?いくら家族で新しい事業を起こそうとか、介護だって嫌わずできるとか、いいところがあろうとも、浮気だよ…?自分のところに帰ってきてくれるなら…とか、まじで受け身すぎる。そんなんだから失敗すんだよ。たまには頼ってほしいとか言ってくる塩田先生も、お前浮気の前科ありでキス写真流出もあるくせに何を言っちゃってんの?って思うし、優しく返さず子どもに対して向き合うみたいに彼氏とも向き合えよ!って思っちゃった。ハガネはとことん、自分のことが抜け落ちた人間だ。だからこそ、親身になれる人間なのかもしれないけど、子どもを見るみたいに、塩田のことだって見ればいいじゃんね…。

みんなを幸せにしてくれたのに

ハガネがいるから、この学校にいたいんだ。そんなこと言われたら、嬉しくてもうそこから動けないよね。そしてそう思われるくらいの仕事をしたってことの証明だ。彼女はずっと独身でいくのかな…定年したらいい感じの叔父様捕まえて、穏やかに生きていく…って道もある気がする。だけど、なんだかんだ、定年しても細々どこかの学童か何かで子どもに関わってバリバリ生きていく気がしてならない。みんなを幸せにすることが、彼女の生きがいなんだろう。

ハガネがこれだけいい人間なのに、どこか自分自身の幸せは訪れなくて、それが悔しいね。子どもが幸せになることが彼女の幸せ!というふうに考えることもできるけれど、なんでこうタイミングや言葉が1つ違うだけでこれだけうまくいかなくなっちゃうんだろうね…ハガネには幸せになってもらいたい。小学生の教え子たちが、いつか大人になってハガネを迎えに来てくれるなんてことは望まないし、旦那のいない人生が不幸だとも言わない。ただ、どことなく不幸が付きまとっている気がして、すごーくもったいない。ただそれだけだ。

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