開き直ってがんばれないときに読む
男子マネージャーと女子部
櫻井は高校2年生。一生懸命努力して、サッカー部で活躍してきた彼。誰よりも時間をかけて、たくさん練習し、技を磨いてきた。しかし、努力してきたからこそ、ヒザを壊し、再起不能となってしまった。今までサッカーしかなかったのに、これからはどう生きていったらいいのかもわからない。しかし学校は部活への所属が強制で、どこかの部には所属しなくてはならない。彼はどの部活に入ろうか、いろいろと回ってみることにする。
女の子と話すのも苦手で、奥手な櫻井。でもすっごいいい奴なんだよね。友だちたちは、楽しいかどうかで選べばいいと言うが、彼はとても真面目だから、その競技のことを学んで攻略して、勝つことを目指す。勝てるようになることが楽しいこと。勝負の世界って、結局そうなんだよ。がんばらない人たちの言い訳が、「勝つことよりも楽しめるかどうかが大事」という言葉。少なくとも、櫻井にとってはそう聞こえていただろう。そして、ケガをしてしまった自分は、楽しむだけの何かを覚えなくてはならないのかもしれない。そんな櫻井の心が本当に痛々しくて、苦しかった。
初心者たちの集まるラクロス部。みそらだって、本当は勝ちたいと思っていて、やってるだけで楽しいなんてこと、言いたくなかった。櫻井のように頭で考えて努力を効率的に重ねる術を考える人間と、みそらのように心からそれを求めて精一杯の本気で応える・心から楽しむことができる人間。本当だったら絶対に接点なんて生まれなかったかもしれないのにね。最初はみそらに引きずられてきてしまった場所だけれど、そこは櫻井が欲しかった、本気でがんばれる場所に違いなかった。
がんばるということ
スポーツもそうだし、将棋だってそうだ。勝つためにやり方を覚えて、戦略を練って、勝負する。その駆け引きと、最後にやってくる結果が楽しいから、勝負の世界があるのだ。また、料理部だって同じように、おいしい料理を作るためにがんばるのであって、まずい料理が食べたくて作るわけじゃないし、作っている自分がカッコいいから取り組むわけでもないはず。がんばって勝とうとすること、成功させようとすること。何かに取り組むとき、がんばった後の結果がなんであるかは、必然的に大事な要素だ。
もちろん過程も大事だけれど、最後に得られるもののために、どんな努力をしていたか、それが効果的なものだったのかを復習しなければ、何も得られない。時間の浪費にすぎない。みそらはラクロスが楽しくて、一度投げることのできたあの感動が忘れられなくて、練習をしてきた。でも、一人じゃたった一度の成功をどうやってひねり出したのかもわからず、どう努力すればその一球にたどり着けるのかもわからない。確かに心はそれを求めていて、がんばっていたらその境地にたどり着ける気がして…がんばり方を間違えるって、きっとこういうことなんだね。誰かに教わり、真似をし、努力をし、ほしい結果を手に入れる。そこからじゃないと、新たなものは生まれないんだよね。
でも確かに、みそらが本当に努力できる子で、心の底からラクロスを楽しいと思っている人じゃなかったら、櫻井の心は動かせなかったと思う。1つのきっかけさえあれば、いくらでも力を出すみそら。1つのきっかけだけじゃ踏ん切りがつけられなかった櫻井。櫻井がいたからみそらは成長したけれど、それは櫻井も同じだったんだよ。もう感動するわ。
関と若本が最高
櫻井の友だちである関と若本。もうね、こいつらが最高で、涙が出ちゃうんだわ。サッカーを失った櫻井に、何も言わずに、「他の部活を見てみようぜ」って言ってくれた二人。いろんな部活に回ってみて、楽しめるものがなかったか?って気にしてくれる。迷っている自分を急かすこともなく、置いてけぼりにすることもなく、ただそばにいてくれて、櫻井の考えを尊重してくれるから、もうすでに涙が…。
あの将棋部での一件は本当に忘れられないシーン。櫻井は、将棋もおもしろいんだなって思って、勉強して、勝つための方法を覚えていった。それはサッカーにも似ているし、どの方向を攻めてゴールを決めるかは、自分次第。そこもまた彼にとって楽しいものだったんだと思う。なのに、将棋もせずに女の子と将棋部の部室でたむろするイケメン先輩、将棋はただやってりゃーいいと思っている同級生鳥海。勝てば楽しい。なのに「楽しくやれよ」と言ってくる…これもまた辛くて、悔しくて、でも関と若本は何も言わなかった…。確かに、なんて声をかけたらいいのかわからないよね。苦しんでいる人の迷いに、道を示せる何かを持っているわけじゃないって、彼らはわかっていて、でも、友だちだから側にいた。
そしてあの鳥海の野郎の暴言ね。櫻井は、ラクロス部のマネージャーをお忍びでやることを決めて、毎日作戦考えたり、メニュー考えたり、ラクロスのことを勉強したり…できるだけのことを始めた。そして、関と若本にそれを隠さず話そうかってときに…あの鳥海の野郎がぶち壊すわけよ。恥ずかしくないのかって…
おめーがな!!もう涙が止まらなかったわ…。そのあと関と鳥海がものすごくケンカになって、あーやっぱ持つべきものは友だわって思わされた。櫻井が自分で決断できるまで、待ってくれてありがとう。
逃げたくないと決意すること
櫻井がマネージャーになり、楽しい部活にするため、勝つことを目標にする。最初は女子部に男子が入らなくてはならないなんて嫌だとごねられたが、櫻井の陰ながらのサポートや、真剣な姿に、少しずつ部員も彼を認めていく。
櫻井は逆風だらけだったけれど、ラクロス部ではがんばればがんばった分だけ信頼が返ってきてくれたし、最高の場所だったと思う。自分ができなかったことを託すとか、そんな気持ちじゃない。ただあいつらを、勝たせてやるために精一杯がんばりたい。その心意気がマジでイケメンで、最高にかっこよかった。誰かに見られて恥ずかしいなんて気持ちは、関や若本、みそらのおかげでなくなって、たった一つのやりたいことのために努力していれば、周りが何を言おうとも関係ないってことがわかったんだよ。
短いけれど納得できる
5巻で終了してしまったわけだが、物語としては、1~2巻のところでばっちり大事なところは語り切っていたと思う。葛藤する櫻井が、みんなのおかげで立ち直ること、そしてみそらのラクロス部が本当に心の底から勝ちたいと願い、努力できるようになること。そこが大事なポイントだったはず。
早いうちに強豪校と対戦させたことからも、あまり長く続ける気はなかったのかなーって思う。他作品との競争があって、打ち切られたとも言われたけれど、この物語は櫻井が前向きにがんばることと、みそらたちがそれに応えてがんばることがテーマだったし、これはこの終わりで納得できる。彼らの卒業まで描いたら、それこそラクロスの詳しい部分を語っていき、だんだん解説本みたいになっちゃったら、みそらやなっちたちに特殊能力でもつけなきゃいけないことになりそうだし。また、櫻井にはずっと鈍感なままでいてもらいたいというか…みそら、サッカー部マネージャー、強豪校の和峰、みんなが櫻井に片想いしているくらいでちょうどいいね。誰かとくっつくなら…みそらになっちゃいそうだから嫌。櫻井とみそらはそういう部分で繋がっているんじゃなくて、ラクロスを通して積み上げられた青い関係のままでいてもらいたい。
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