怖い話の最悪の結末ばかりを集めた物語
ナレーターがお連れする死の世界
別に黄泉という女の子は主人公ではなくて、物語のナレーターを務める人物。彼女は死んでしまった人なんだけどね。本編の中でも、何回か、彼女がその世界の住人になってしまった理由となる事件が描かれているが、やはりヘビーな内容。恨みつらみの先には必ずしっぺ返しが来る。というか、来てほしいと願ってしまうくらいの時もある。
物語の中では、たいてい主人公である小学生の女の子(あるいは中高生)が悲しい結末になる。時には友達が欲しいだけだったのに、あの世へ道連れにされてしまったり、お母さんにもっと優しくしてほしかっただけなのに、別のママに誘拐されることになったり…これはリアルに幽霊ではなくて愉快犯っぽいけど、誰かの死の影には、何かの因果があるのかもしれないって考えてしまいそうになる。
たいてい、主人公の女の子は、自分が今一番欲している何かを簡単に手に入れることのできる魔法のようなモノを手に入れ、それを使うことでどんどんハマっていき、気づいたらもう後戻りできないところに来てしまっていた、というパターン。うまい話の先には何かがある。そうとは気づけない、経験値の低い子どもたち。誰かに止めてほしい、絶対そこには何かある!でも楽しいことほど逃れられないのが子ども。間違ってしまったら罰を。与えた分に相当する痛みを。イヤーな子もいるけど、いい子もいるから本当に胸が痛いね。お願い事を叶えてくれるものはないってことを、自分の子どもによく言い聞かせるために、読んだらいいんじゃないだろうか。
オムニバスでいくつものお話を綴る
だいたいが一話完結。黄泉の話は数話出てきたこともあるし、後から番外編的に補足が加わった作品もあるけれど、1つの話でしっかり終わらせてくれるので、読みやすさはある。子どもがちょっとわがままになって願ったことに対して、とんでもないしっぺ返しがやってくるパターンが多いかな。もしくは、完全に憑りつかれた感じで他のいい子ちゃんたちを殺しにかかる化け物に変わるか、どっちかになっている。
20巻も続いた漫画なので、それくらい、みんな怖い話って好きなんだろう。面白い展開を期待するというよりは、必ずやってくるしっぺ返しを見届ける気持ちで読み進める。女の子だったら、男の子に振り向いてほしいもの。ダイエットをがんばったり、お友達関係をがんばったり、料理に裁縫、テストだって、なんだってがんばれる。その欲望はいつ魔物に憑りつかれてしまうかわからなくて、いつも自分で努力し続けられればいいけれど、何かに頼りたいときもある…。どの女の子も、一人でがんばっているのに、認めてもらえなくて、どこかにはけ口を求めてしまう、悲しい子たちばかり。よく見ればそこにある幸せにも、満足できなくなってしまっている悲しさがある。
そして、間違いに気づかさせてくれるのに、最後に殺されちゃうパターン。悪い気持ちに包まれてしまった人は、たいてい戻ってこれない。70話以上もあって、どこかに助かる・助からない、どちらに傾くか線引きポイントがあるのかなと探ってみたけれど、いまいち判断できない。性格がよかった子も、ちょっとしたきっかけで悪い子に変貌するから、救いようがないのかな…。
裏切りと自己中の果て
すべては「欲望」なんだろう。いいものも、悪いものも、吸い寄せられてしまうんだろうね。死へと誘う交換日記も、プロフィール帳も、激やせできるドリンクも、思い通りになる人形も。どうにかしたいと悩む人の前にそっとやってくる。それに手を出すか出さないかは、その人の選択次第で、やらなければいい思いはしなかったかもしれないけど、死ぬことはなかったはず。何かを成し遂げたくて頑張って、成し遂げたら死ぬしかないなら、いま持っているものにどれだけ感謝して、未来に向かって歩いていることに感謝できるか。これを学ばなくてはならないんだろう。
この漫画は、もちろん子どもが読んでもいいだろうし、大人も一緒に考えながら読むといい。というか、すでにそうやってファンをつけているから、こうやって20巻も連載されて、新しいシリーズも出るくらいになっているんだよね。これだけ長く続くのを見ていると、人の欲望の種類がいかに多いかということを考えてしまうし、底なしの女の子たちの欲望に若干引き気味になる。黄泉がいじめによって命を落としてしまった人であることもあって、女の子に対する恨みがすごいんじゃないかな。一度、彼女にお土産を渡したことで救われた少女がいたけれど、あれはもう化け物にびっくりしすぎて願うこともできなくて、助けに来てくれた男子を助けたい!と行動できたからなんだろうな。お土産は渡すつもりはなかったけど、結果的に黄泉にわたっていた。黄泉がそうしてくれたのかもしれないね。
ラストは愛が勝つ可能性も
最後のほうには、数話続けて、愛とか希望が欲望に勝てるのか!?という物語があった。そりゃーせめて締めくくりは明るくしてもらいたいし、最終回らしく、少し大掛かりな感じに仕上がっていた。
まぁそれでも黄泉は哀れな人が朽ちていくのをこれからも見続ける。そしてそれを漫画を開いてくれた読者に語り続ける。…なんか、黄泉がちょっとずつかわいくなっていってる気がするんだけど、気のせいだろうか。つながりはないのだろうけど、絵が上達していっている気がしている。
あの世へいざなう狂気の怨念があるのなら、それを阻止するものもあるのかなって思うよね。正義のヒーロー的な。でも、怨念が正義じゃなかったとは絶対に言えなくて、連れられて行っても仕方がないよねって思えるくらいの悲しみがあるから、何とも言えない気持ちになる。それで善良な人を連れ去るなんてことはやめてほしいけどさ…こういうのってそうやって怨念が繋がっていって、どこで途切れさせたらいいのかわからない状況に陥ってしまうんだと思う。いつの時代にも、必ず何かがいて、いつでも誰かを狙っている。そういう感覚って間違っていないのかもしれない…。
いや、実際はいないでしょ。愛が勝つでしょ。自分を信じて、人を信じて、一生懸命やっている人に不幸を落とすような世界なら、とっくに人の世は終わっていると思うから、最後は愛が勝つってことで締めてほしい。そうでなければ嫌だなと思う。
人はなぜこれほど怖い話を求めるのか
怖い話ってなんでこんなに見たくなる人がいるんだろう。怖いものから遠ざかりたいって思う人もいれば、敢えて飛び込んで知りたくなる人もいる。ホラー漫画を読むっていうことは、肝試しに積極的に参加するのとはまた違う。肝試しはキャーキャー騒いで男女が入り乱れて恋が勃発するのを期待するほうが多い傾向にあるし。どっちかというと、ホラー漫画を好んで見る人は、とにかく怖すぎる、お化け屋敷の度を越えたところに突入してみたいと思う人・そして本当に出るからやめたほうがいいという究極の心霊スポットに挑む人だろう。
怖いものに触れて、ドキドキすることが楽しいって言っちゃう人もいるだろうし、怖いものに触れると現実と離れた感じがして、逆に落ち着いちゃう人もいる。人間って不思議なもので、苦行が快楽になることがあるからね。これはもうその人の感性によるんだろうなーと思っている。
個人的には、こういう漫画を読むなら、何か徳になるようなことを積み重ねられるようにしたいと思うけどね。日ごろの自分をふるい立たせる気持ちで、向かい合ったほうが建設的だろうって考えている。
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