一度は憧れた秘密道具を存分に
ファミリー向けドタバタアクションコメディー
この映画は、「ミスターインクレディブル」を思い起こさせる、実写版映画であると言えるだろう。インクレディブル一家では、4人家族それぞれの持つ特殊能力でヒーローとして活躍していく物語になっていたが、この作品では「スパイ」がテーマ。世界最強と言われたスパイの男女が、お互いの命を狙う任務を与えられたものの、恋に落ちてしまった…という流れ…実にアメリカっぽい。そして男女は夫婦となり、娘1人・息子1人を設けて穏やかに暮らしていた。スパイって…響きがいいというか、素性を隠して暮らしている感じがカッコいいため、憧れた子どもたちがたくさんいたことだろう。
ごく普通な母親の服装・父親の服装をしているときには全然わからないのだが、いざスパイスーツに身を通すと、何なんだろうこの色気。グレゴリオとイングリッド、全然顔つきも違うんですけど。やっぱり服装と気合いって大事だわー。そして、スパイの仕事をするその仕事場が素敵。きれいに並べられたメイク用品が実はボタンになっているとか、マジで夢だ。からくり仕掛けで秘密の通路が開くその家の作りも好きだし、子どもならおおー!と言いたくなる輝きを放っている。両親のことを冴えないと思っていた子どもたちにとっては、いきなり両親がスパイだったと明らかにされることはびっくりだったことだろう。しかし心の準備なんておかまいなしに時間は経過していく。裏家業はスピード勝負。すぐに助けに動き出す彼らは本当にたのもしいスパイキッズであった。
実は鍛えられていたという憧れ
個人的に好きなのは、カルメンとジュニが家のアスレチック遊具のようなものを毎日やらされ体を鍛えられている、というところ。訳も分からずやっていたが、自然とスパイになるべく訓練されていたなんて…カッコ良すぎるだろう?子どものころ元気はつらつとしていた人なら、一度は必殺技を使ってみたいとか、高いところから飛び降りて巧く着地して自慢したりとか、やってみたことがあるのではないだろうか?そして、自分には特殊能力があって…とか言って割と本気で信じてみる。それをまさに映画で表現してくれていて、もちろんこの映画は子どもたちが楽しむものでもあるが、親の世代も懐かしく観ることができるようになっている。
映画は全体で88分くらいで、スピーディーに展開していく。そのため、ジュニとカルメンはすんなりフィリックスの話も理解できていたように思うし、感情の機微が…とか余計な部分まで考えないほうがいいだろう。そこを楽しむ映画ではない。何より、ドラえもんなみに秘密道具が登場するのがおもしろい。まずセーフルームに入るのに愛しの子どもの名前を使ってるし、部屋に揃えられた各国の紙幣や兵器もたっぷり。兵器はギャグに近いものが多数だが、確かにうまく使えば殺戮兵器だ。ランドセルで空を飛ぶのはもはやタケコプターに対抗しているのではと思いつつ、タケコプターよりも合理的でリアリティがあるため少し悔しい気持ちにもなる(謎)。日本負けてるなー的な話で。
クローンたちとの対決
物語はスパイの頭脳を埋め込まれたクローンとの対決へと発展。最初助ける気のなかったマチェッティがなぜかピンチの時に助けに来てくれるというびっくりイベントもありつつ、戦いはぬるい感じで進む。しょせん子ども同士の戦い。アンドロイドたちがいくら強くなろうと、サイズは子どもだし、派手なアクションはない。お互いの会話にはジョークをふんだんに織り交ぜ、そこを楽しむバトルでもある。
グレゴリオとイングリッドを発見して救出することに成功するカルメンとジュニ。最強のスパイも寄る年波には敵わないということなのか、ずいぶんとお茶目な展開になる。ここは子ども目線の映画として、最後までキッズたちに花を持たせる流れになっているのだろう。まさか悪の組織にいた科学者フループをジュニが手懐けてしまうとは思わなかった。そこからは形勢逆転だったからね。科学者っていうのは楽しいことがやりたいわけで、そして自分を認められたい欲が強いと思うんだよ。だから、ジュニは意図せずしてそれをやってのけたのだ。
クローンが人間の敵として扱われる題材にはいろいろあるが、コメディーで見ればなんとも微笑ましい。最終的にいい方向にはまとまらない、少し悲しい展開になることが多いものだが、今作は子ども向けのアクション映画ということもあって、クローンの出てくる話にしてはいい終わり方をしたと思う。いつかバグでも起こさなければいいなと思いつつ、シリーズが長くなってくると、この時に登場しているキャラクターにもまた会いたくなるので、いつでもカムバックしてほしいなと思う。
解決方法は子どもらしく
まず敵のブレーンを落とすところから。まさかそんな単純な方法で寝返るなんてね。そして、クローンのスパイキッズたちをどうするのかと言えば、善と悪の知識を逆転させるというからくり。開発者フループのおかげでこんな厄介なものは作られたが、最終的にはフループのおかげでいいクローンへと変化を遂げたのだ。なんてわかりやすい。
ラスボスだったリスプの末路もわかりやすく、しかも善悪の逆転したクローンたちは各地で人のための慈善事業を行うことに。これっぽっちも不穏分子を残さず取り去ってくれて、あーよかった!という終わり方になっている。目に優しく、心にも優しいのだ。500体のクローンVSたった5人の集団でどうやるかなーと思わせながら、あくまでスパイキッズたちを主軸に進んだ物語であった。
子ども向けのアクションコメディー系の映画は、こういう爽快感があるからいいよね。敵をぶっ飛ばす・そして平和になる。できれば敵とも仲良くなる。実に単純明快だ。とにかくご長寿な映画になると、終わり方もすっきりしなくて、物語もいったいどの時期のどの場面からの続きで、何が解決されたの?と思うような内容になっていることも多い。コメディー系のものであれば、とにかく笑えてとにかくすっきりする。わずらわしさが少ないから、子どもっぽい私にはちょうどいいようにも思える。
続編が気になりすぎるシリーズ
この「スパイ・キッズ」の第1作が登場してからもう16年も経っている…!それにしては、この映画のCGやクローンと対峙する人の映像などは違和感が少ない。まだ21世紀に突入したばかりの2001年の作品だからこそ、未来への期待も込めてCGとか未来的な発想を盛り込んだ内容になったんだと思っている。だからこそウケたのだろうと思うし、今でもウケているのは、登場人物の成長にも沿って作ってくれているからだろう。人気になったこのシリーズは、すでに第4作目まで登場している。「パイレーツオブカリビアン」や「バイオハザード」、「X-MEN」など、秀逸な映画たちと肩を並べる勢いだ。カルメン役のアレクサ・ヴェガがすっかり美女になってしまい、嬉しいような寂しいような気持ちにもなるが、どのスパイキッズたちもかわいらしく、時代を経ていてもこの第1作の面白さをそのままに、つないでいってくれているように思う。
大人とすれば少し小難しいような内容や全部をひっくり返すような出来事、振れ幅の大きいストーリー展開などを望むかもしれないが、この作品は子どもと一緒に、英語を学ぶような感覚で楽しめばいいのだと思う。スパイという響きがかっこよく光っているうちは、このシリーズには生き残っていてもらいたいなーと感じる。
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