罪で繋がる恋と友
つかめない枇杷のキャラ
枇杷は23歳ニートで引きこもりのはずなのに、そういった暗さが全く感じられない。家族や昴との軽妙な会話がそうさせているのか、親友を失って自分を責めているのにまあ軽いと前半は進んでいく。ただそれは枇杷の強がりでもあり、朝野の死を考え沈み込んでしまうと立っていられない状態になるだろう、そんな自己防衛が働いたはずだ。会話の裏側にある枇杷の気持ちを考えると一つ一つの会話が一気湿り気を帯びて暗くなる。軽さと重さが絶妙なバランスで感情移入するには時間がかかるキャラクターだと感じた。
昴が得たもの
朝野に対する贖罪からの昴の行動は突飛であまり理解できない。ほかにもっとやり方があるだろうと思うけど、そこはライトノベル的な展開だと納得する。『あなたの罪を断じてあげる!』と朝野になり切り自分を責め、親友であった枇杷の世話を焼くようになる。朝野との思い出に入り込み自分を苦しめるようなやり方だと思うが、そうしないと自分の犯した過ちに向き合うことすらできないのだろう。結局自分が死んで罪を清算することはできなかったが、生を得て枇杷という同志を得ることができた。
なんで朝野は死んだのか
この小説で一番引っかかったのはなんで朝野はいなくなったのか。自殺か事故かもはっきりしない、ましてや破壊神に憑かれているなんて話もしていたが、結局破壊神が何だったのか明確な答えはない。才色兼備で就活の内定も出て親友もいる、それなのになぜ失恋ごときで死に向かってしまったのかと全く納得できない。何が朝野を連れて行ったのか、正直朝野が昴にそこまで思いを寄せるような理由がわからない。恋人同士、二人にしかわからない世界があるのだろうが、なんでそんなにもったいないことを!という思いでいっぱいだ。小説全体のテーマの一つが罪であり、昴は朝野を傷つけ、枇杷は親友の助けに応じなかったことが罪なのか。昴が朝野の死の引き金になったことは理解できるが、それに巻き込まれた枇杷はほんの一度の会話を間違えただけで、一年以上罪に囚われている。枇杷があまりに可哀そうで、朝野が自分の死に直面する枇杷のことを少しでも考えてれば、破壊神に連れて行かれるようなことはなかっただろう。この話から朝野が死んだ明確な理由は読み取れなかったが、想像するにプライドの高い朝野は自分のイメージを守るために誰にも見せない弱いところがたくさんあったのだろう。その弱い部分を昴に見とがめられ、責められ自分を全否定してしまったのではないか。そして自分の一番苦手な水辺へと吸い寄せられるように近づいてしまい、戻ってこられなくなったのだと考える。
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