ファンタジー要素満載のパイレーツシリーズ4作目
今回の冒険にからむ闘いが良すぎる
パイレーツオブカリビアンのシリーズは本当に面白い。キャラクターがどの人もハマっていて違和感がないし、ストーリーは夢もあり、残念感もあり、主人公のだらしないところとカッコいいところ全部を好きになれる。日本の邦画だと、たまに原作とのギャップを感じたり、演技の嘘っぽさを感じてしまうのだが、さすがハリウッドは違うなーといつも思う。
このシリーズ4作目は、「生命の泉」という不老不死を求めた海賊と、阻止しようとする政府が入り乱れる闘いである。注目すべきは、対立構造の多さであると思っている。イギリス政府とスペイン政府の対立もあり、そして政府と海賊たちの闘いでもある。さらには海賊同士での争いでもあり、人間と利用される人魚の闘いでもある。これだけ多くの要素がごちゃごちゃしているのに、話がよくまとまっていてわかりやすい。人間のずる賢くて醜い気持ちも、優しさも、ジャックという人間がまさに体現していて、道理が通っていないようで通っている、その曖昧さが醍醐味だ。
今作からは第3作のワールド・エンドまでのレギュラーだったエリザベスやウィルはいない。代わりのヒロインであるアンジェリカは、ジャックの元カノということもありかなりの期待度だった。しかし、なんと撮影期間中に妊婦さんだったらしく、顔のアップ以外のところは妹さんだそうで…妊婦さんであっても活躍の場を与えられるということに日本にはないフリーダムを感じるが、体型から顔までよく似ているからという理由で妹さんが出演するというのは驚き。ギャラはどうなっているんだろうか…。それでも、アンジェリカ役のペネロペクロスさんは実に美人で、深堀の目がジャックの元恋人役としてよくハマってたと思う。
第3作目までが良かっただけに花に欠けたかも
今作、確かにいい冒険が見れたなーと思うが、やはりシリーズ第1作の衝撃を考えると花は少ないかもしれない。アンジェリカとエリザベスを比べた時、エリザベスにはウィルという愛する人がいながら、ジャックにも惹かれて…いるようないないような。そんなドキドキがあった。最後にはウィルのためにジャックを裏切ったエリザベスだが、禁断のときめきの威力はすごいものだった。アンジェリカは父である黒ひげティーチのために生命の泉を目指すが、強さと清純さの輝きは、背徳感にはちょっと負けているように思う。
それに、バルボッサが続けてずーっと出るよりも、ウィルが出たほうがウキウキするし、イケメンの花がある(バルボッサ、ごめん)。ジャックを大好きなギブスが出てくれるのは嬉しいね。あの笑顔、名脇役!
あとは、黒ひげティーチのすごさがいまいち伝わり切ってないのが個人的には残念だった。漫画のONEPIECEでも、黒ひげは超重要人物。歴史的にも相当極悪な海賊船長で、死に際はイギリス軍艦との死闘を繰り広げて25回以上にわたって銃やら剣やらの攻撃を受け続けながらも暴れまわったっていう…すごい人。彼がいかなる人物だったかってことをもう少し言ってもらえると、歴史好きとしては相当盛り上がる。別に歴史に沿ってほしいわけじゃないが、つながりが感じられるエピソードが欲しかった…。老いぼれて娘の命を取ってでも生きようとする姿はドン引きだったなー…
人魚のお話
ジャックとアンジェリカの曖昧な恋よりも、実は人魚と人間の恋のほうがロマンチックだったことは明白だろう。宣教師である人間の男と、人魚。人魚の涙が生きながらえるために必要ということで、ジャックや黒ひげは人魚を捕らえるわけだが、もうね、宣教師と人魚さんが美しすぎるのなんのって…美男美女、輝いてた。主人公レベルだった…。そして、なんといってもあの告白シーンね。
許してくれ…
っかぁ~!「僕が船に乗らなければ君を傷つけることはなかったのに…僕を…許してくれ」っていう言葉がまさに愛の告白。傷ついて死ぬかっていうところで人魚さんの心配をする愛しさ。ときめいたわ~…そして人魚さんは男とキスを交わしながら、そのまま海へ引きずり込む。海の中で生きていく…素敵。映画の後にそのシーン数回動画で確認してしまったくらいだ。
心配なのは、どうやら女しかいない人魚の世界で繁殖するには、人間の男を海に引きずり込んでその肉を食わなきゃならんとかいろいろあるらしい。そもそも、魚の場合はまず卵を水の中に出して、そこにオスの精子を与えて繁殖させるから、おそらく人魚でもとりあえず男さえ手に入ればどうにか繁殖できるんだろう。果たしてこの愛し合う2人。いつまでも無事にいられるだろうか…凶暴な人魚の巣窟で、彼らが幸せな場所を見つけてくれることを願いたい。泡になって消えちゃうような悲しい人魚じゃなくて本当に良かった。人魚が陸に上がるのでなく、男が海へ行くというのもまた素敵である。
バルボッサとジャックの対比
バルボッサはとにかく自己中で、自分に利のあることしかやらないタイプ。奪って奪ってのし上がる海賊だ。ブラックパール号をめぐって常にジャックと対峙してきたバルボッサだが、まぁ魅力もある。黒ひげに復讐することだけのためにイギリス政府の提督になってまで立ちはだかった精神力の強さがいいところだろう。どこまで行っても彼は海賊。目的を果たしたらはいおしまい。海に颯爽と消えるバルボッサはなかなかカッコ良かった。そして、バルボッサはとても単純。思考が読めるから楽だ。
ジャックは一匹狼で、確かに海賊っぽく裏切りを重ねる奴なのだが、今作でも自分を犠牲にしてでも誰かを助ける、カッコいいジャックがいた。そして、本人が意図しないうちに激動の闘いに巻き込まれ、最終的には影の立役者として噂される人物となる。自分らしく生きていきたいだけっていうジャックの自由な生き方で、呪われる者もいれば恩を感じる者もいて…バルボッサみたいに単純じゃない。
いつも船のないジャック
結局、「生命の泉」は不老不死ではなく、相対する人間の寿命の分長生きできるというものだった。そうやって繰り返していけば、永遠に生きれるってことかもしれないけど、簡単には永遠に生きれる権利を与えられるわけじゃない。人魚の涙の入った水を飲めば、涙の入っていないほうの水を飲んだほうの寿命をもらえる。アンジェリカは死期の近い黒ひげティーチの命をもらったことになるため、たぶんほとんど寿命的には変わんないだろうね…そういう終わり方もまた素敵だったと自分としては感じる。永遠を求めて争って、結局は一人の女性の命が数年なのか何なのかわからないが延びただけ。諸行無常の響アリって気にならないだろうか。あれだけ戦争して、人が死んで、得たものはとても小さなものという、このむなしさが心地よい。
ラストはいつも通り船のないジャックで幕を閉じる。常に船を持たないのに海賊ってのも不思議だが、ジャックは常にそういう男。この作品においてジャックが固定の船を持つことはないんだろうと思うし、そのほうが彼らしい。アンジェリカは置き去りをくらうのだが、ジャック藁人形の意味っていったい何なのか…次回作以降で何かがつながるのかもしれないが、まだ先は読めず。ジャックの忘れ形見を持って生きていくこれからの彼女を意味しているのかもしれない。「ジャックが常にそばにいる」的な意味合いだけか、後で呪いにでも使えるのか…どこかで出てきてくれたら嬉しい。ジョニーデップのジャックのまま、スターウォーズなみに長続きしてほしいものだ。
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