スポコンと恋愛に推理ミステリーも加えて
時が止められた原因とは
アメリカによくありそうな、日本人だけどアメリカで暮らしているコミュニティ。子どもたちはフィギュアスケート仲間で、毎日練習に明け暮れていた。それでもみんないつかは成長し、それぞれの事情に沿って離れ離れになっていく。伝えたい気持ちもあっただろうに、かわいそうに…。しかも、みちるはある事件がきっかけとなって心が閉ざされてしまった。いったい何が彼女の身に起きたのか…分からぬまま時は経ち、それでもみんな子どものころの夢は継続中。フィギュアスケートに打ち込むみちる、レナ。バレエの中でフィギュアスケートの経験を生かす玲音。なんかいいよね。住んでいる場所がこれだけ離れていても、考えていることや、想いとか、繋がっている気がするし、一人じゃない気がする。そして、再会をきっかけに、それぞれの中で止まっていたものが動き出していく。
フィギュアスケート、アイスダンスについてもかなり細かく説明されているし、スポーツマンガとしても十分楽しいが、恋愛模様や殺人事件も絡めていくのがかなり巧い。殺人事件についてはかなり怖い雰囲気だが、他の要素のおかげでドロドロしすぎず、割とコミカル。玲音はヘタレだけど、一生懸命みちるにくらいついているのがいい感じ。くっついたーと思ってたのに全然みちるの中では何も変わってなくて、だけど玲音にだけは自分の綺麗な部分だけを見てもらいたいとか、進みたいのに進めないみちるが何とももどかしい。父親から虐待を受けていたとか、買春クラブの餌食になっていたとか、女の子が受けたくないものオンパレード。そりゃー自分は汚れていると思ってもしょうがないっつーか…。自分が傷つくため・役作りのために晶と関係を持っているのに、晶に傾いていく気持ちがあるのも確かで…罪な女だと思うよみちる。
かなり勉強にもなる
フィギュアスケートとアイスダンスの知識も満載で、世界事情なんかもおもしろい。テレビの中では、常に輝いている人しか映らないし、ジャンプに失敗するとなんだよ!ってかなり残念な気持ちになるけど、この漫画を読むと、なんか色気出すためにこれだけ努力してるのかーとか、表情を作ってジャンプするとか、どんだけ大変なんだろうって知ることができる。感情は複雑極まりないのだが、スポーツにおいてはそんなことは関係ない。全部封印して最高の演技をしなくちゃならない。精神的なものがとにかく大きな影響を与えてしまう競技だし、しかもアイスダンスなんてお互いのことを信頼しあって呼吸読みあってやらなきゃいけない。ワンマンプレーが絶対許されない。美しさの裏に努力が絶対あるってことをテレビでも伝えてはいるけど、いまいち綺麗なとこばっかり映してる気がするね。もっと痛々しい練習量がなくちゃ、美しく飛べないんだ。
晶と共に最後までパートナーとして育っていったみちる。アイスダンスなどは、呼吸を読みあっているうちに好きになって結婚するってパターンが多いけど、玲音とは敢えて離れながら、心を通わせていくってのが素敵な演出だった。ただの興味本位だったくせにみちるにハマってしまった晶は本当に不憫で、絶対振り向いてもらえることがないってわかっていながら、仕事・自分の夢としてアイスダンスを極めていく。当て馬とはいえ、その姿勢は素敵だったし、玲音が負けてもおかしくないくらいの相手だったので、かなりの高評価である。
最終的に、みちるはちゃんと玲音と向き合い、晶は真澄とまたよりを戻して、世界大会へと進んでいった。どんなスポーツでもそうだけど、厳しい練習に耐えるための、支えになってくれる場所がなければ、ずっとは続けられない。自分の中でゆるぎないものがあるから、がんばれるんだよね。
あいつだけは許せない
みちるの父親、あいつだけは絶対に許せない。キモすぎる。おっさんのメガネが本当に嫌いになりそう。犯罪に関わって、自分も楽しみまくり…マジでセルゲイにやられてしまえばよかったのにと思うやつ。晶の兄・四方田駆も、ほとんど父親のせい。これで逮捕されないとか、みちるに許されるとか、変なイベントがあったらもうこの作品を嫌いになるしかなかったと思う。変に生ぬるくしてこなくてよかった。
誰が黒幕か、終盤まで明らかにはならず、みちるに関しては気持ちが本当の意味で上を向くために相当時間がかかったと思う。そして、最も残念な人はみちるの母親だろう。大切な自分の娘を、再婚相手の男によって壊されていたなんて、知ったら発狂レベルだ。みちるは母親を本当に大切に思っていたし、お母さんには言えないって気持ち、よくわかる。他の作品とかでも、父親による犯罪が明るみに出ないパターンは大いにあるから、最終的にはよくあるストーリー展開だったんだろうとは思うが、そこに至るまでの過程は作者らしい、感情の機微がある。そんなどうしようもない男と再婚する女の気持ちってやつは、他人から見たらよくわからないもの。母親自身もうまく説明できないんだよね。理屈じゃないってめんどくさすぎる。
母親が発狂することなく、みちるの見方であり続けてくれたことは救いだった。これで母親までどうにかなっちゃったら、みちるはどうしたらいいかわからなくなってしまうし、ハッピーエンドはやってこなかったかもしれない。
大人になっていくみんな
子どものころのそんな苦い体験から、笑えなくなってしまったみちる。それをとかしてくれる玲音は愛しすぎる。死っとする晶もまたせつない。みちるは1人きりで八方ふさがりで生きてるつもりになっていたが、いろいろな人がみちるを愛してくれて、行動してくれて、助けてくれた。死にたいくらいに悩んでも、誰かにとっては自分自身が光になっていることだってあるってこと、忘れずにいたいなーと思う。そしてみちるは本当の意味で笑顔になれたし、事件と、恋愛と、自分の進みたいと願う夢と。すべてに道が見えたとき、最高の舞台で演技ができたみちるは、幸せ者だね。前作のモモ(合田武志)がちょいちょい出てきて、若き悩める者たちへ言葉をくれるのも、作者自身が成長しているような気もして感慨深い。漫画も変わっていくし、登場人物たちも成長していくもののようだ。そりゃー失敗しないで登れる階段はないってわかっているけれど、後悔することは多々あって、でも戻ることができなくて。それこそ、「終わりよければすべてよし」くらいの気持ちで、とにかく1歩踏み出してみないとね。話はそれから。
恋愛模様
10巻では全然終わってないのに、なぜ最終巻だとお触れが出たのか…11巻がないことには、すべてにおいて収拾がついていない。みちると玲音の行方がちゃんと見えて、晶だって何が大事なのかってことを一生懸命考えて真澄と向き合えて。よかったよかった。みちるとだって、泥沼ってわけではないしね。体は手に入っても心は絶対手に入らない。そのむなしさみたいなものを表現してくれた漫画だった。それと、晶にとって巨乳は大事なポイントだ。
玲音はヘタレのまんまだったけれど、それでもがんばるからこそ彼はカッコいいのであり、みちる以外が絶対ないからいい。みちるを想って、どっかにいなくなって、今度はみちるが玲音を探してくれるんだろうか。そんな展開もいいなーとは思ったが、やはり玲音はずっとみちる一筋。かわいくて癒し系な男子のぶれないハートって、だいぶかっこよくうつる。男が一生懸命って、萌だよね。
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