恋にアイスダンスにミステリー
みちるの時間を止めてしまったモノ
日本人の血が流れているがアメリカで暮らしている子どもたち。彼らはフィギュアスケートを通してどんどん仲良くなっていきました。しかし、みんな大人になっていく。自分の正直な気持ちも伝えられないまま、家庭の事情で離れ離れになっていくみんな。みちるも玲音も、両想いっぽかったけど、ある事件をきっかけとしてみちるが心を閉ざしてしまい、想いを伝え合うことができないまま、離れ離れになってしまった…そして数年後、みちるやレナはフィギュアスケートで、玲音はバレエで、友弥は新聞記者で、日本またはアメリカでそれぞれの道を歩んでいました。そんなとき再開した玲音とみちる。心を閉ざしたままのみちるの時間が少しずつ動き始めます…
パッと読んで、まず大切なコーチの殺害事件があるのでえ?シリアス系?と驚き、かたやヘタレだと思っていた玲音がヘタレなりにけっこう積極的(アメリカでいうところでは消極的なほうかもしれないけど…)で意外とすぐ結ばれるのか?と焦り。でも全然みちるの心の闇・過去の傷は癒えていなくて、それがどうにも歯がゆくて…という物語でした。父親による虐待+買春クラブの餌食って相当エグイと思います。「自分は汚れている…」と思い、自分を追い詰めてどんどん体を壊しているのに、心では綺麗なものに憧れ続けているみちる。だからスケートだけがよりどころになっていました。しかも、玲音と一緒にいたいのに、キレイだから触れないと思っている…しかも自分が汚れているという記憶ばかりで、肝心の殺害現場を目撃した記憶は消えていて…複雑極まりない設定でした。全部忘れてるんじゃなくて、断片的な記憶が苦しめ続けるというのは、なんか本当にありそうですよね。完全に記憶喪失じゃなくて、インパクトだけががっつり自分を支配しているっていう感じ。
フィギュアスケートやアイスダンスの知識もたっぷり
1巻ごと、冒頭と最後の数ページで、いろいろスケートの世界のことを教えてくれています。好きな人ならがっつり好きかもしれません。テレビの中だと輝かしい完成型の演技しか見せられないですから、こんな苦労があるんだなーと思うとちょっと見方も変わってくる気がします。
引退するときまで、晶とコンビを組んで、フィギュアスケートではなくアイスダンスでいくのですが、アイスダンスってこう…色気がすごいですよね。そりゃー伴侶とともに演技したほうが確実に雰囲気が出ると思う。お互い割り切ってやっているとか、けっこう無理なスポーツのような気がしました。そこを、みちると晶は体の関係を持つことによってどうにか醸し出していましたね。晶はみちるにがっつりハマっていたけど、みちるは心で玲音を想いながら、自分をどんどん汚れさせてわざわざ自分を動けなくさせている。トラウマを持つ人の自傷行為の1つの形なのかもしれません。自分が誰からも愛されないような気がして求めてみるけど、自分から正直になることはできなくて…つらいね、お互い。そんなんでよく3年もの間コンビ組んでダンスやり続けたよ。後半は、ちゃんとみちるは玲音と、晶は真澄と向き合い、見つめなおして割り切って、世界大会の切符を勝ち取ったのですから、感動がありました。一瞬玲音が再びみちるとコンビを組んでアイスダンスやるのか…?っていう時もありましたが、そうはならないのがせつなくもあり、読者の胸をぐっとつかんでくれます。
キモい父親と何も知らぬ妻
本当に父親がキモい。メガネの奥の瞳がどうなっているんだこの野郎。犯罪に手を染め、自分も楽しみ…セルゲイに襲われたなら本当に死んでしまえばよかったのに…とすら思わせる悪役です。晶の兄・四方田駆を殺したのは父親の右腕である白井だったしね。逮捕されるよそりゃそうだよ!子どもなんだと思ってんだよ、気持ち悪いよ…誰が黒幕か、わかるときまで本当につらかった。みちるも晶も玲音も。しばらくバンビという言葉を聞きたくないですよ…
そして何よりつらいのはみちるの母親だと思うんです。大切な人との間に授かった娘。それを自分が再婚相手に選んだ男に汚されていた…!こんな衝撃あっていいんでしょうか。みちるは母親を愛していたし、母親の幸せを考えて隠したくもなるよね…どこがよかったのかってみちるが母親に聞いていたときがありますけど、まじそれな。理屈じゃないからめんどくさいねん。離婚して当然と思うし、一歩間違えばまた殺人ものだった気がする…それでもみちるの母親であり続けてくれたこと、みちるは感謝していると思うから、決して自分を責めすぎないで生きていってほしいなーと強く思いましたね。結果的に、娘はアイスダンスの道をしっかりと登っていってくれたし、いろんなことを間違えたかもしれないけど、これからもみちるの母親としてがんばれるんじゃないでしょうか。
子どもから大人へ
みちるは子どものときのまま、ずっと心は止まっていました。玲音に見せる表情はまさに無垢な女の子の顔。恋も成長も全部、止まったままのみちる。晶が嫉妬しても仕方ないよね。そこからいろんな事件が玲音やみちるを大切に想う周りのみんなの協力によって明らかにされていき、本当の笑顔を取り戻すところにたどり着いたときは、うれしいというか、やっとというか、安堵する気持ちでいっぱいにさせてくれました。ダンスのことだったり過去のことだったり、今の恋だったり、とにかくたくさんの要素が詰まった物語だったので、どう収拾つけてくれるんだろうと心配だったけど、いろんなことを乗り越えて、ラストの舞台につなげていくあたり、うまいですよね~…そして合田武志が何ともいい働きをしている。前作のファンからするとこれまた嬉しいというか。前作では、あまり専門的なダンスの知識にまで触れられていたわけではなかったし、その実力もすごいんだかどうだか…と思っていたところもあるので、そこもうまく回収していってくれたと感じます。モモの大人の姿もみれて嬉しいです。
みちるは時が止まったまま自分を苦しめていたけれど、それは玲音も同じ。あの時自分が手を離さなければ、みちるはこんな目に合わなかったかもしれない。だからこそ、これからの時間をより大切にできるはずですね。後悔のない人生はきっとないですし。
恋の行方
なんと10巻で歯切れ悪く終わりそうだったのが、11巻も出てくれたときは本当によかった!10巻で終わりだよーと言ったときに、相当ブーイングくらったんではないでしょうか。だって全然終わってないよ!っていう締めでしたもんね。みちると玲音がちゃんと大人になってくれたこと、本当にうれしく思います。晶に関しては、一番近くでみちるの砕けそうな心を支えてくれていただけに、残念な気持ちもあったけど、みちるとの関わりで自分にとって大切なものに気づくことができたようだし、巨乳ともよヨリを戻したし。(笑)彼らしいのかもしれません。
最後まで玲音はヘタレのままでした。でも、一生懸命考えることができるのが玲音のいいところで、みちるのことしか考えていないのがいいところで…ちょっとアンニュイな姿も似合うから、そのままフェードアウトしちゃうんじゃないかって恐れもありましたね。フラれたときもすんなりだったし。シリアス展開がなかったら、負けちゃってたかもしれない。なんかごちゃごちゃだなーと思わせておいて、総じてうまいこと二人を結ぶためにうまく役立ってたなーって感心させてくれました。
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