心に刻まれる珠玉の刑事ドラマ
猟奇的な事件
姫川玲子率いる捜査チームが次々と猟奇的な事件の真相、そして、警察内部の人間模様、刑事それぞれの内面にも同時に迫り、あぶり出す。そして事件そのものにも深く迫り且つその映像も真に近い再現性の高さを求める目のこえた、刑事ドラマ好きにはたまらない作品である。
事件1つ1つも猟奇的ななものが多く、映像もグロテスクな描写も多いが、「真に迫る本格さ」を求める者にとってはとてつもなく引き込まれる映像の鮮明さですぐさまその世界観に引き込まれる。真っ二つの死体、腹部を何度も包丁で刺した跡、半分だけ温度の違う死体など、通常の事件とは異なるスタートなのも、視聴者の想像を掻き立てさせる。
猟奇的なだけではなく、その事件はどれも複雑に人が絡み合い、容易に推理させない、その鮮やかな展開も映像美と相まって観るものを魅了する。
そして、何より面白いのは、犯人そしてその周りの人たちの心情や内面に姫川を始めとする捜査班がじりじりと近づき、時には同調したり、反発したり、何かを学んだりと新たな化学反応も見られる。
1つ1つの事件が複雑で重厚なものとなっていることが多く、ドラマ1話分(45分)で収めきれず、次話に繋がるものも度々あり、それを長いと思うか、「あっという間」と思うか…。観る人を選ぶどっしりとした作品である。
予測不能な展開
姫川玲子の圧倒的な天性の勘で事件がこちらの予測をはるかに超えた展開を迎えることが多い。このドラマの楽しみ方として、視聴者自身が「傍観者」となり見守る姿勢だと言える。余程の天才でない限り、1つ1つの事件の犯人をドラマ開始10分〜15分で導き出すのはほぼ不可能に近いからだ。
他の刑事ドラマの場合だと、「誰が犯人かな」と推測し、当たるか楽しむものだと思うが、このドラマの場合はそうではない。その「過程」をじっくりと見ているだけでも充分に面白いからだ。また、最初から犯人が分かっているという最初にネタバラシのパターンもあり、その際にはひたすらその「動機」を姫川班と共にじっくり考えながら観るのがなんとも言えず楽しい。そして、もう1つ、他のドラマとは違った楽しみ方がある。
それは…、ドラマのタイトルと毎話の関連性を探ることである。例えば「右手では殴らない」、「感染遊戯」、「悪しき実」など、オープニングで曲が始まった数分後に毎話のタイトルが出てくるのだが、見ててすぐになるほど!と分かるものが少ない。最後までドラマを観ないと、タイトルの意味がわからないものが多く、その遊び心のある仕掛けがこのドラマならではのユーモアだと思える。事件に直接関わるものもあれば、これが姫川玲子個人が学んだ「痛手」だったのかなど、思いを馳せつつ観るのが楽しい。
原作ファンも楽しめる
これは元々誉田哲也さんが書いた「姫川玲子シリーズ」の刑事作品である。「シンメトリー」「ストロベリーナイト」など、大掛かり且つ、登場人物それぞれの内面にも迫った世界観が人気である。私は本を読んだ後にドラマを見始めたタイプだが、竹内結子さん始め、西島秀俊さんなどキャスト陣と見事に原作の登場人物像がきれいに重なっており、今となっては読むたびにドラマ出演者達の表情や演技がセットで出てくる程である。それほどに原作ファンの期待も裏切らない内容となっている。
人間模様
この作品の醍醐味とも言えるのが登場人物それぞれの人間の内面や闇にスポットを当てて描き出されているというところだ。姫川玲子自身もレイプ魔に襲われた経験と盾となりナイフを刺された女性刑事に守られたというショッキングな経験を持ち合わせており、その他姫川班の部下の1人である葉山則之(演:小出恵介)も、家庭教師の殺害現場を目撃するというトラウマを持っている。そして、そのトラウマのシーンは作中でも度々登場する。また、警察内部の人間関係も興味深く描き出されている。時に姫川とぶつかり、姫川自身に対し鋭い指摘をぶつけるガンテツ(演:武田鉄矢)という特捜の刑事も度々登場し、カネにものを言わせる捜査方法で異なる視点から事件の真相に近づいていく。ある時は、敵対し、またある時は情報を交換し、その関係性が度々捜査をあらゆる展開へと持っていくトリガーとなるため、目が離せない。また、トラウマを持ち、殺人犯を許せないはずの姫川に対し、ガンテツは唯一「殺人犯にシンパシーを抱いているのではないか」という微かな疑念を持ち続けている、鋭さもある。この深層にある心理は姫川自身も気づくことのなかった「第三者の視点」であり、それはバカにならないこともある。
また、ガンテツとも異なり、完全無欠な筋立てた捜査を行う日下守(演:遠藤憲一)とも姫川はぶつかることがある。姫川班は長である姫川の「天性の勘」を元に捜査を進めるが、日下守チームは異なる。完璧な証拠と論理を元に事件の謎を紐解くのだ。捜査会議では度々ぶつかり、大体同じタイミング(ただし方法や過程は異なる)で真相に気づくから姫川はライバル視している節がある。日下守はその姫川の勘に頼った捜査方法に対して度々警鐘を鳴らしている。
全ての登場人物に焦点を当てるのは困難に思えるかもしれないが、そうせざるを得ない程に、それぞれの登場人物が何かを抱えており、その個性がぶつかりあっている。1度観た後、また見返すと新たな発見が出てきそうで、繰り返し観たくなる作品構成である。
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