ミステリーの女王、アガサ・クリスティの謎の失踪事件を推理する 「アガサ/愛の失踪事件」 - アガサ/愛の失踪事件の感想

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ミステリーの女王、アガサ・クリスティの謎の失踪事件を推理する 「アガサ/愛の失踪事件」

3.53.5
映像
3.5
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
3.5

アガサとは、もちろんイギリスの女流推理作家で、ミステリーの女王と呼ばれているアガサ・クリスティ。このアガサには、有名な彼女自身の失踪事件があるのですが、それは1926年に「アクロイド殺人事件」を発表した年のことで、11日間に及ぶ失踪を遂げたのです------。

人気推理作家のアガサ・クリスティ(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)は、愛する夫(ティモシー・ダルトン)の心変わりを何となく感じ初めている。夫の秘書ナンシーとの関係が、気になっている。そしてついに、夫は離婚話を持ち出したのです。

そして、ナンシーが温泉地で休暇を過ごすと知ったアガサは、いたたまれない気持ちで車を温泉地へと走らせるのです。そして、その後、アガサは11日間、行方不明になってしまったのです------。

すでに人気作家だったから、マスコミは大騒ぎとなり、ロンドン・デイリー・ニュース紙などは、発見者に賞金を出すなどと書き立てたのです。

全てが順風満帆で、うまくいっていると思われたアガサが、どうして失踪などしたのかは、永遠の謎となっています。本人は、死ぬまで、その真相を語りませんでした。そうなると、探りたくなるライターが出てきても不思議ではありません。

イギリスの女性ジャーナリスト、キャサリン・タイナンは、あらゆる資料からひとつの仮設を導き出し、それをもとに小説を書いたのです。彼女はその作品を、ノンフィクションに限りなく近いフィクションだと、言っています。そして、この小説をもとに映画化されたのが「アガサ/愛の失踪事件」で、原作者のキャサリン・タイナン自身が、アーサー・ホプクラフトと共同で脚本も書いているのです。

さすがに女性らしい推理で、彼女はアガサの夫の心変わりが原因だと推理しています。名声を得た女性が、夫の愛を失うというのはよくある話で、いわば運命のようなものなのかも知れません。アガサのプライドが、失踪という行為に走らせたのだろうと、ある意味、女性らしいシニカルで残酷な視点で推理を展開しているのです。

夫の愛人が、療養地での休暇を取ったことを知って、その場所に車を走らせるアガサの心情には、痛々しいものを感じてしまいます。しかし、この失踪が初めから計画されたものなのか、偶然そうなってしまったものなのか、というところは、やっぱり謎のままなのです。しかし、この映画では、そこのところを、アガサの計略だと断定しているのが、実に面白いと思います。つまり、この映画は、まぎれもなく推理映画なのです。

へたをすると、下品になりかねない素材ですが、アガサを演じるヴァネッサ・レッドグレーヴの気品と、1930年代のイギリスのクラシックな道具立てで、しっとりとした"大人の恋愛サスペンス映画"に仕上がっていると思います。ただ、惜しむらくは、アガサを追う新聞記者役のダスティン・ホフマは、明らかにミス・キャストなのですが、こんな役もできますよというところがミソなのかも知れません。

沈んだ色調による、1930年代の豪華と頽廃のムード、風俗ファッションの時代色に、引き込まれてしまいます。長身のヴァネッサと小柄なホフマンの対照と競演も、この映画の大きな見どころの一つになっているのは間違いありません。

そして、クリスティ特有のトリックをなぞった、ラストの"殺人"どんでん返し。いや、だが何よりも、誇り高き才女アガサも、ああやっぱり女だった、という解明が、嬉しい共感の後味を残してくれるのです。

数多くのミステリーを書いてきたアガサ・クリスティですが、まさか自分が主役の推理小説が書かれるとは、夢にも思わなかったことでしょう。

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