運命に最も翻弄された男の秘話『トキ伝』
愛に満ちた名作
北斗の拳外伝では、各作品で愛を描いたエピソードがありますが、このトキ伝が最も愛に満ちた作品だと個人的には思っています。
異性愛、敬愛、慈愛など、様々な愛の形が描かれていて、北斗の拳の新たな世界観を感じることができる作品だと思います。
その中で私が好きな愛のエピソードは、トキを想うサラの気持ちの外伝ならではの描写です。
医師としての献身的な想いから始まり、最も大切な存在へと変化していく様子は強い感動を覚えました。
そしてトキの意志を受け継ぎ、トキの技を学んでいくサラの姿にもう一つの伝承を見ました。
トキの病状の深刻さを知る医師だからこそ、サラの複雑な感情や意志が深く伝わってきます。
暴力が支配する無秩序な世界だからこそ、純粋な愛の物語はより際立って美しく感じることができるのだと思いました。
旅立つトキの気持ち
この物語を見終わった時に感じたことは、トキの他者への心情でした。
自分を犠牲にしてまでも他者を守る強い意志を感じましたし、責任感の強さも感じました。
それは旅立ちを決意したシーンでも描かれています。
弟の罪悪感を和らげる為と兄の犯した罪を償う為にトキは旅立ったんだと私は思いました。
弟を守るために犠牲になり、後継者の道を邪魔しないようにと旅立つ弟想いの兄の姿。
兄が傷付けた民を救うため、そして暴走を止めるために旅立つ兄想いの姿。
どちらも兄弟を想っての行動で、どの兄弟よりも大きな宿命を背負って旅立ったんだと思います。
自己犠牲にも思えるトキの行動には人として尊敬に思います。
兄弟の為に旅をするトキの姿を見ていると、トキのファンが多くいるのも納得できます。
トキの本質
この物語を通してトキの意外な本質が見れた気がしました。
トキは兄弟の中では冷静で理論派だと思っていたのですが、この作品を観て少し印象が変わりました。
トキが大人に飛びかかる幼少時代のシーンだったり、ラオウとの決戦の為に使う技だったり、後先を考えない無鉄砲な性格なんだと思いました。
ラオウとの決戦の時は自身の死期や衰えを考えての行動だと思いますので仕方がないとは思いますが、自身の危険は二の次に考える大胆な性格をしてると思いました。
この何者にも恐れない性格はラオウと共通する似た者兄弟なのかもしれません。
この作品を通してトキの新たな一面を見れたことで、より人間味を感じるキャラクターに変化して更に好きになりました。
認め合う兄弟
トキ伝の中で最も印象に残るシーンは、やはりラオウとトキの死闘を描いたシーンです。
この物語の最大の見せ場ですし、兄弟二人の想いが色濃く感じられる場面です。
兄弟の約束、自身の誇り、相手への敬愛と様々な感情が集約されています。
死闘そのものの迫力も凄いですが、気持ちのぶつかり合いを思いながら観ることで一層深みのあるシーンになると思います。
特に、この死闘のシーンで考え深いと思った所はラオウの悔しさを感じる心情です。
自分が暴走した時に止める役目を託した弟との約束、そして本当は止められる力がありながら病が原因で果たせなくなった現実。
この運命に対してのラオウの無念な気持ちが映像からすごく伝わってきました。
トキの強さを認めていたからこその悔しさがあったんだと思います。
もしかすると、ラオウが兄弟の中で誰よりも悲劇な宿命を背負っていたのかもと感じされるシーンでした。
トキが敗北した理由が自分ではない事を伝えるラオウの姿も格好良かったです。
個人的には北斗の拳の中で一番の名シーンだと思っています。
選曲の素晴らしさ
この作品のエンディングソングにもなっている曲が物語をより素晴らしくしていると思います。
穏やかな曲調がトキの優しさとピッタリ合っていますし、物語で描かれている悲しさや切なさ、それに希望なども感じさせてくれる名曲だと思います。
この曲がトキとサラが旅立つ時に流れて一瞬で物語の虜になりました。
元々はトキ伝というストーリーに興味があって見始めたのですが、それ以上にこの曲には強いインパクトを感じました。
物語やキャラクターにマッチしたこの歌が物語を深く感じ取るための大きな要素の一つだと思いますので注目してほしいポイントです。
少し残念に思ったこと
この作品を観て少し残念に思ったことは、物語を省略化した場面転換の早さです。
テレビアニメとは違い時間的に限られた作品なのは分かっていますが、せっかくトキが主役で期待感が大きい作品で、内容的にも深みのある物語なだけにもっと詳細に描いて欲しかったと正直思いました。
個人的にはトキ伝だけで二部作で構成しても良かったのではないかと思うところです。
現状のままでも面白い作品だとは思いますが、なんとなく素早く駆け抜けてしまったように感じてしまった所が唯一残念に思ってしまったことです。
細かい解釈は視聴者に託されたことだと思ってますし、物語を観る醍醐味だと理解していますので、残念なのはほんの僅かな気持ちだけです。
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