悪さが際立たない漫画
ネロの旅は道半ば
もっと描けただろうに…と思わざるを得ない。話は尻切れトンボである。せっかくのマフィアの世界が、生ぬるい善良さを残して終わっていったのではないだろうか。
マフィアのボス、ゴッド・ファーザーとして世界を支配していたドン・パゾリーニ。彼は突如暗殺され、それまで保たれていた世界の秩序・均衡は一気に崩れ去る。ギャング共があちらこちらで名をあげようと反乱を起こし、暴力に支配された混沌の世界へと変貌を遂げた。そんな世界で、ドンの代わりにトップに君臨するのはいったい誰なのか?疑心暗鬼にまみれた世に、実はドンに隠し子がいたという噂がささやかれ始める…ということで、ネロの登場である。赤ん坊のころからショーパブに預けられたネロにとっては、そんな相続争いなんて関係ない。「俺はこいつらを守って生きていくんだ!」ってダダこねたけど、家族代わりのみんなが俺のせいで危険な目に…って思ったらもう出ていくしかなかった。
女や弱き者を大切にすることを小さなときから叩き込まれてきたネロ。それはスケベ心ではなくて、純粋に大切にしている、というのが良心設計。実はパゾリーニも女・子ども・力の弱き者を大切にするボスだったということで、ちゃんと無意識レベルのところで遺伝子が継がれているらしい。彼の旅は始まったばかりなのだが、パゾリーニを暗殺したというトールマンが早々に登場してしまい、物語は一気に面白くない展開になってしまった。ネロはプッチなしでは弱すぎるうえ、見た目の成長も全然ないままに、旅はまだ続いていく…的に終了されることとなったのである。
イラストが良かっただけに残念
可愛い系でもあり、戦いの場面におけるシリアスさ、サブキャラ・サポートキャラの充実はなかなかよかった。呪具に意思がある、というのは、やはり自分一人で強くなっていくわけではない、という感じがして親しみが持てる要素だろう。他の少年漫画における特徴がいろいろと混ざっている作品である気もするが…うまい具合にパクリとまではいっていない。許せないところとすれば、プッチ憑依後のネロがかわいい路線を責めすぎていて、カッコよさが際立たないことである。目力変わっただけでは伝わらないだろうよ…。
ネロがマフィアのドンになるまで、のし上がっていく話なんだろうと思っていたが、マフィアって…いい奴なのか…?日本で言えばそれこそ「暴力団」のくくりに入る組織なのだろうが、これほど人を思いやり、自分の縄張り・国を大事にできる人間が、わざわざマフィアを選ぶのだろうか。威厳がありゃーマフィアで活躍できるようになると言うのだろうか。実際には人を殺すこともするし、それが正義のためだったとしてもなんか腑に落ちない気がする。パゾリーニが頂点へと上りつめた背景や、その他の勢力との争いの本当の意味について、深く語ってくれる展開とかがあれば、少しは理解を示せたかもしれない。
そりゃー普通の一般的な仕事だって完全に善い事しかしてないってことはないんだろうとは思うから、難しいところではある。実は影で暗躍している人間たちによってこそ、世の中は回っているのかもしれないし、それこそ「ウロボロス」みたいに協力し合ってどうしようもない悪を砕くために、手を汚している存在がどこかにあるのかもしれない。どうせ語るなら、パゾリーニがいかにいい奴だったかっていうよりも、どれほどの対価を背負い、どんな仕事をしていたのかを教えてくれたら、相当深い読み物になったんじゃないだろうか。
キーパーソンがあんまりいない
キャラクターで残念といえば、ヒーローに対するヒロインがいないというところではないだろうか。せっかくの少年漫画だというのに、華やかさに欠けたと思う。確かに、ネロとプッチが突き進んでいくことにより、味方はどんどん増えていった。どちらかというと、たいていの敵も、ドンを失ったことをすごく悲しんでいて、この先どうやって生きていったらいいのかがわからなくて、苦しくて…っていう心の弱き者が多い。そんな中で、女神的ポジションから救いの手を差し伸べてくれるような人がいなかったことが、実に寂しかった。男の友情だけじゃ救われない部分ってきっとあるし、男がいたら、女がいなきゃだめだろうって思うんだよね。
酒場のラビットたち、リリィ、バーバラ…みんなネロの保護者みたいな存在で、ヒロインって感じじゃない。小さなころから女たちに育てられたネロだからこそ培われた能力ってやつを存分に発揮して、男嫌いな女がネロ大好きになるような展開だっておもしろそうだったと思うのだが…残念である。
また、ネロにとっての指導者があまりにも足りないと感じる。プッチしかいないのは心もとないし、ネロ自身が強くなっていくための修業をする必要があったと思う。確かに酒場で鍛えられて、体は丈夫だっただろうし、馬鹿力も持っていたが、ドン・パゾリーニの息子であるという証明となるような特殊能力が1つくらいは欲しかった。特殊能力がなくても、その人柄だけでのし上がったと言われればすごいような気もするが、それだけでは解決できない部分が必ずあるわけで、そこを知りたかった。プッチなしにはほとんど戦えないヒーローでは弱すぎる。
全員味方なのか?
もはや世の中は悪い人間と善い人間の違いがわかりにくくなっているが、マフィアは割と悪い寄りの人間であるように思う。かなり美化しているようなので、読むときは注意が必要だ。自治組織として活動していると、やはり黒い仕事だってたくさんやらなければならない。こういうのを読んでいると、「電撃デイジー」をよく思い出す。
汚い仕事をしている人間が汚い人間だとは限らない。
うん、まさにそういうことである。
確かに、人間が唯一理解しあえるとすれば人柄なんだろう。そこに惹かれてあらゆる人間が動き、世界をまとめるための一助となっていったことは確かである。恐怖で支配するよりも、豊かさ・やさしさ・あたたかい何かでつながっているほうが、気持ちよく仕事ができるものだろうから。そんなパゾリーニの魅力について、3巻くらいじゃまだまだ足りなかったと思うし、値踏みされるネロの苦労だったり、苦しさと喜びをもっと見せてほしかった。
ネロの前に立ちはだかる人間は、みな“パゾリーニロス”を起こしており、結局はパゾリーニの面影を探している者ばかり。寂しくてたまらないのである。ネロがそれに値すると分かれば、それについていきたいと思うようだ。…ずいぶんと優しすぎる世界。そりゃーお母さん探してる余裕もあるわ。世の中みんな友だちになれたらいいのにね。
もっと主人公の魅力を
偉大な人物の子どもだろうが、すべてを受け継いでいるわけじゃない。ネロにはネロの、魅力的な能力があるとよかったのにと思う。優しさや、心の強さだけじゃなく、ネロだからこそできる何かを、成し遂げてくれたら嬉しい。「パゾリーニの息子だから」という理由でレッテルを貼ることよりも、ネロの培ったものでつくられる、新たな何かがもっと見てみたかった。ファンタズマを使うって時点で、人間自体は弱そうって思ってしまうしね。暗殺されてしまうって時点で、パゾリーニにはいろいろと弱みがあった。奥さんのこともそう。でもだからこそ心を強くすることもできていたはず。最後に大切なのは一体何か。それに気づかせてくれるような、複雑な心理描写が大事なのではないだろうか。
短い話ではあったが、ネロが頂点にたどり着いた時、どんなふうに成長しているのかを見たかったなー…という気持ちにはさせてくれたと思う。
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