戦争を主題としながらも、一体これは何というジャンルに置くべきか
人と龍と虎、そして戦争~魔法もあるよ!
どこかの国と、どこかの国の戦争を彷彿とさせる本作。
現実味がある部分と、竜が人(?)権を持っているという非常にファンタジーな世界観をない交ぜにするという不思議な世界観がある。
主人公・新城直衛は見目もそれほど良くなく、変わり者と言って間違いないが、その周囲には何故か人が集まる妙な魅力も持ち合わせている。
それは人間のみならず、虎、そして竜をもだ。
そして人も、虎も、竜をも戦争に利用する、という部分が本作の大きな特徴の一つであろう。
また導術という主に意思疎通に特化した魔法のようなものも存在する。
この点においてはファンタジーというジャンルに置いてしまいたいぐらいなのだが、作者である故・佐藤大輔の真骨頂とも言える戦争描写の緻密さにより戦記ものの体裁も備える。
故にこれは一体何というジャンルに分類してよいのかと、読むたび頭を捻る。
だが人も、虎も、竜も、この物語には全て必要なファクターであり、一つも欠けてはならないことを思うと、もうこれは「皇国の守護者」というジャンルにしてしまうしかない、という結論に私は落ち着いた。
そんな世界観に住む人々、そして虎や竜たちが、とてもとても個性的で魅力的であるためだ。
虎も龍も、敵国の姫も、両性具有も、何でもござれの交友関係
前述の通り、主人公・新城の周囲には、非常に様々な人や人外で満ちている。
幼少時から共に過ごしている虎・千早は戦いとなっては非常に勇猛果敢であるが、非常に献身的で、新城は猫と称する時もあるが、それは母のように新城を守り支えているように思える。
それがとても愛らしく思える場面も多く、虎は兵器としても用いられるが、この作品のマスコットキャラクターとしても非常に重要な位置を占めている。
続いて龍。
まず龍が「天龍」という尊い存在であり、人と外交を持つほどの近さと、だが大協約による大きな線引きもあるという設定が面白い。
そこで通常はそこまで相容れることがないように見えるものを、新城は容易く…というほどでもないが、本人(本龍?)の希望もあってか戦略に組み入れるという荒業をやってのける。
そしてその龍と前述の虎がまみえるとどうなるか……強力なマスコットタッグの誕生である。
パッと見どちらも恐ろしいのに、交流の様が非常に可愛らしいのである。
それもひとえに新城の行動に寄るどころではあるのだが、文章から姿を想像するだけで心が和んでしまう。
でもそこは戦場、というギャップがまた楽しい部分である。
人物としても、敵国の姫と関係を持ちつつも、両性具有の副官とも関係を持ち、だが姉と慕っていた人物を懸想するという女性関係もまた彼の魅力持ってしての構図だ。
彼を通しての姫と副官の関係性もまた面白く、相手の立場を重んじつつも己に正直に行動する様は非常に好ましい。
そして彼に惹かれるのは女性のみならず、というより友人や上司部下、そして皇族まで引き込んでしまうというスケールの大きさが新城の主人公たるところであろう。
だが本人は大事に巻き込まれるのを本音ではよしとしていないので、哀れに思うことも多々あるのである。
群像劇、だが戦争もしっかり主役である
ここまではどちらかというとファンタジーよりなほんわかとしたものばかり述べてきたが、広告の守護者前半はガッチガチの軍記もの、後半は政治色が強くなってくるものの、やはり戦争から逃れることはほとんどない。
本人の望む望まないに関わらず(というよりほぼ望んでいない)劇中の新城の居場所の大半は戦場であり、ほぼその最前線(またはしんがり)でその指揮をとる。
軍人たるもの当然のことだが、新城とユーリア、後にカミンスキィの戦略合戦も、文中に挿入されている布陣図とも相まって、どっちが勝っても負けても非常に楽しい構成となっている。
どの戦争も基本は物量がものを言うがそうではない…そういう小説は多々あるのでこの作品が取り分け珍しいわけではないのだが、そこに登場するのが虎と龍、そして敵方のワイバーンによる戦術である。
勿論主役は人間であるが、人外を用いることによって変わっていく戦略、そしてそれに対応を迫られ、更に…と目まぐるしく変わってい戦局は単なる戦争とは最早言い難いものであろう。
龍に迷彩色を塗りたくって隠す、などと普通の戦争ではまずないものだ。
そこは一息つく要素として置いておくとして、個人的に六芒郭城塞での戦が当小説一番の見どころとしている。
籠城戦が基本であったはずが、気づけば互いに大逆転劇に次ぐ大逆転劇。
最終的に敵の姫を連れて帰るという結末に落ち着いてしまうという、勝利は勝利だが何がどうしてそうなった、と頭を捻る結果に至り、新城という人物の評価を上げたり下げたりと一生懸命になる羽目になってしまう。
非常に余談ではあるが、私はこの戦中に童貞とはっきり称されながらも戦場を必死に駆け回った丸枝という人物が非常に好きなのである。
その情報、こんな切羽詰まった戦局の中で必要か?
だがそれもまた皇国の守護者という多くの人間を巻き込んだ群像劇の一幕であり、魅力でもあるのだ。
完結しないと分かっていたが、そんな結末誰も予想していない
皇国の守護者は9巻で迷走しつつも大きな節目を迎えてはいたが、完結?とは思えないまま続刊することはなかった。
そんな中、佐藤大輔氏がお亡くなりになられ、そして少しの時が流れた。
氏は作品が完結しない作家として非常に非常に有名ではあったが、まさかあの若さでお亡くなりになってしまうとは。
らしいといえばらしい、という気も少しするのが多少不謹慎ではあるが、そんな部分もひっくるめて「佐藤大輔の皇国の守護者」、この作品に私はそんなジャンルを個人的に与えつつ、今後も愛し続けていくのである。
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