「フロイト1/2」作者の妄想爆発!でもいいのです。 - フロイト1/2の感想

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フロイト1/2

3.003.00
画力
3.50
ストーリー
3.50
キャラクター
3.50
設定
3.50
演出
3.50
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「フロイト1/2」作者の妄想爆発!でもいいのです。

3.03.0
画力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
3.5
演出
3.5

目次

訳の分からぬ専門用語

川原泉の漫画は読んでいて勉強になる。この作品でもフロイトや小田原談義の話が出てきて、なるほど、そういうことがあったのかとおおよそ少女漫画らしからぬ豆知識を増やすことができる。小田原談義の話はこのストーリーには一切関係のない話で、ただ単に作者が興味を持ったことを書いたに過ぎないが、作者の知的好奇心が旺盛であることをうかがい知ることができるし、そんじょそこらの教科書やテレビのドキュメンタリーを見るよりもよっぽど分かりやすく面白いから、つい読んでしまう。

フロイトのセリフは、専門用語の羅列で分からない箇所も多いが、ここはスル―してもかまわないと思う。他の作品でもこれと同じように知識を必要とする単語が多数使用されているケースがあるが、ストーリーを楽しむのにそれを完全に理解することは必要とされない。むしろ、そこだけに注意をはらっていてはいけない。大事なことは時々このフロイトのように、訳の分からぬ専門用語を(多分早口でブツブツと)言うやつがいるんだよね、という視点で解釈することが楽しく読む秘訣だろう。

何故なら概ねそういう人は人に理解されなくてもいいと思っているし、発する言葉も端的で意味不明。ただ相当に頭の切れる人で変人だから放っておけばいい、という雰囲気で描かれているのが、偉人をコメディ的存在として描いている作者独自の持ち味なのである。

小田原提灯

フロイトと提灯というのは妙な取り合わせだが、小田原は提灯が名物ということから作者はこのミスマッチな組み合わせを思いついたのだと考えられる(飯沼商店という店が有名だそうだ)。ここでまた一つこの作品から豆知識を得られた。

しかしおかしいのが、梨緒が提灯を買う時、フロイトはおそらくそれまで値段を決めていなかったのに、2個セットで10円という破格の値段をつけ、梨緒が5円しか持っていないといっても断固として10円という価格を押し通したという点である。どう考えても10円では丈夫な提灯の材料費にもならないので、その価格自体に意味は無い。意味がないなら5円にしてあげてもよかったのではないか。なんてケチなおじさんなんだ。

それに、その様子を見ていた弓彦も、10円出すという提案をするよりも、値切り交渉をすればよかったのにと思わずにはいられない。育ちが特別良かったとも思えないのに、何故なのか?4大の理数系にいながらにして、頭が悪かったのかと謎だ。

この状況だと、2人でお金を出し合って分けてしまうという結果になっても仕方のないことなのに、それでも尚10円という価格を曲げず売ろうとするフロイトは、10円がどうしても欲しかったのか。10円で買いたいものでもあったのか。5円にまければ問題など何も生じなかったのに・・・もしかしたらと無理やり推測すると、研究者だけに提灯を1個ずつ分けてみたらどうなるのか?と興味がわいてしまったのかもしれない。そうでもなければただの10円玉マニアのおっさんだ。

手抜きなのか狙っているのかという絵

作者の知識のバラエティの豊かさもさることながら、作画の点も気になった。

この作品は平成元年に花とゆめに掲載されたもので、デビューから少し経ったものなので絵は綺麗なのだが、川原泉がよく使うシンプルな(略された)顔が多用されすぎている。シリアスな顔は全体の5割にも満たず、殆どが誰にでも書けそうな目が点の丸顔である。弓彦の青年期、梨緒の幼少期だけが目が点なのかと思ったらそうではなく、大人の二人もその顔だし、平和なシーンだけがそうなのかと思ったらシリアスな場面でも使われていて一貫性がないことから、ただの手抜きなのかと疑ってしまう。

途中梨生の顔をどちらでも変わらないと言っている場面があるが、それは作画のせいなのにと突っ込まずにはいられない。ただ、この顔を多用することで、人物の設定やストーリーそのものが明るいものではないにも関わらず、なんとなくほんわかしたムードになっていることは間違いないので、作者が狙ってこの顔を使用している可能性はある。

どちらにしても、このおまんじゅう顔はどの顔も同じような顔の形で目が点。髪型位しか違いは無いのに、人が判別できるのが不思議としかいいようがない。

呑気というか諦めきった性格というか

作画と共に、主人公たちの性格にも着目したい。

梨生はまだちょうちんを買った時小学校1年生だったので、この状況を受け入れたというのは理解できるし、18歳の梨生がちょうちんの力を知った時は夢見る女子高生だったので、魔法だと感動したのもまあ分かる。問題は弓彦の方だ。

金に苦労し借金を返済する為に激務に暮れた弓彦は、かなりのリアリストになっていたことは想像にたやすく、ちょうちんを二人で出し合った後、第一に思ったことが借りることは嫌い、というのはちょっと変な回答だ。勿論貸し借りが嫌なのは分かるとしても、その前に考え付くことがあるのではないかと思う。

第一にちょうちんを売っていた風呂糸屋について。次にこのちょうちんによる弊害についてだ。風呂糸屋が八木沢に見えていないことは二人は知らないが、一応その場にいたので、二人の記憶にあいまいな点があったのなら聞いてみたら、もしくは新たな発見があったかもしれない。また、これから2人で夢を共有していくにあたり、梨生、弓彦ともに困った事態にはならないのかと冷静に考えるのが普通である。

弓彦からみて梨生は10歳下の女子高校生であるので、気に食わないことがあったとしても一応気遣うのが28歳の男性ではないだろうか。梨生はその点に関してかなりぼんやりしており、何も考えていないようだが、プライベート空間ともいえる夢に毎日おじさんがずかずか入り込んでくる状況に何も疑問をもたず、ただ喜んでいるのはあまりにも無防備すぎると私は言いたい。

このように二人とも見方によってはかなり理不尽ともとれる状況をあっさりと受け入れてしまうが、それは今まで二人共が自身に降りかかってきた悲惨な体験よりはずっと衝撃も少なく、また大した問題でもないと判断したか、もともと梨生は幼少から、弓彦は青年期から不条理なことは人生には起こるものだとあきらめ気味な性格が備わってしまっているからかもしれない。

メインテーマは何なのか

この作品は題名がフロイト1/2だが、メインテーマは夢でなく金である。

他作品でも金持ちをよく登場させる川原泉だが、全ての金持ちをよしと思っているわけではないということがこの作品によく現れている。

弓彦は某企業をもじったパニックスの社長でそれだけでもう十分金持ちだが、どんどん仕事を増やすことで欲が出てきているのが分かる。他作品で登場する金持ちは、もともと金持ち、職業のランクが高いというだけで、性格的には欲深なわけではない。弓彦の金の亡者を作中で否定的に表現されているのと同様に、滝杷も出世の為に選んだ道で失敗しており、結局は金の為に欲を出して生きると失敗するということを作者は強く表現している。

だからといって貧乏な人が好きというわけではなく、健全な精神で金持ちである人がいいというわけで、現実ではかなり難しいことだと思うが、作者はそのような男性をよしとする傾向にあることが如実に表れている作品と言える。

しかし上記したように、最初に出てきたフロイトがちょうちんを10円とこだわり、値引きを一切しない強欲な人間であることで、作者自身のかなりケチな性格がチラリと見えてしまうのである。

ケチな人間が、欲深でない金持ちな男を理想とするなんてなんて勝手なんだ・・・と思ってしまうが、これは作者の夢物語でもあり、妄想を爆発させても勿論問題ない。そこに私達は自分の勝手な思いも重ねて、楽しめばいいのである。

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