その能力は、奇跡か残酷か。
診える眼
うだつの上がらない町医者の為頼英介(西島秀俊)は病気の兆候が”診える”特別な能力を持った男。そして”犯因症”という犯罪を起こす前触れ、人間のエネルギーが現れる兆候までも診えてしまう。ある時犯因症が診えた男を街で見かけ事件が起こる前に警察に通報。通り魔となった男を駆けつけた刑事が発砲したことで通り魔事件は終わった。その発砲した刑事・早瀬順一郎(伊藤淳史)に犯罪を起こす兆候が診えることがバレてしまいその能力を使い捜査協力を依頼され渋々引き受ける。そして早瀬刑事と一緒に行動していくうちに彼にも犯因症が診えてしまった。
2015年秋ドラマとして放送したこのドラマは一話完結型の医療刑事サスペンスという医療と刑事ものを合わせた異色ドラマ。その他裏がありそうな人の良い大病院の医院長・白神陽児(伊藤英明)と謎の無毛症の男(中村蒼)同じくある惨殺事件の犯人の疑いがかけられている女の子・南サトミ(浜辺美波)等の出演者の他、津嘉山正種と浅田美代子の実力派役者も脇を固める。近年では主演を務めることが多くなった西島秀俊が今回も主役だけれど彼は数字を持っていないと過去の出演作からも言われてしまう通り、今回も平均視聴率は7.8%。これは西島秀俊さん主演のドラマではワースト作品らしい…。
ですが個人的にはとても面白かったドラマなだけに数字はどうでもいい。このドラマでは公式ツイッターも存在し演者たちの仲の良い撮影風景などの写真もアップされ西島さんとその他の演者は毎週リアルタイムで視聴していることもツイッターで分かりファンとしては嬉しいものだった。どうやらこの撮影中に子どもが生まれたようで伊藤淳史さんはドラマも終盤の頃に視聴会に参加。ここ最近ではドラマの公式ツイッターやインスタが多々生まれカメラの回っていないところでの演者さんたちの様子が写真で見られたりする宣伝の仕方も多くなったのは楽しみに見ているファンとしては毎週より楽しみになる。そんな宣伝の先駆けだったかもしれない。
それぞれが抱える"痛み"
タイトルは「無痛」と言うだけにテーマは『痛み』次第と見えて来る主要人物達の抱えるその痛み。病からの痛みではないが故に取り除くのはとても難しい。それが分かってしまうだけにとても切なさを感じた。
為頼先生は妻が病気になった時その兆候が診えた頃にはもう手遅れで手の施しようもなく、病気の兆候が診えているにもかかわらず何も出来ない自分の無力さを嘆く、救えない苦しさの痛み。白神先生は子どもの頃は精神は強くとも心臓が弱かった、対して弟の玲児は健康体でも心は弱かった。そんな弟の心臓が欲しいとどこかでずっと望んていたのかそれが弟の自殺により実現してしまってから無痛治療にのめり込むようになる。心臓が欲しいの望んでいた自分が殺したのではないかと思いその呵責から逃げるように治療の研究に没頭、悲しさの痛み。早瀬刑事は刑事でありながらあまりの正義感の強さに犯罪者を殺したいほど憎んでいた、いつか本当に犯罪者を殺してしまうかもしれないと自分を追い込みその自分さえも殺したいほどに憎む痛み。イバラは無毛症で無痛症、普通の人とは違うが故に家族からも愛されない孤独の痛み。
登場人物は皆、それぞれに"痛み"を抱えていた。その痛みを感じないように生きていけたらどれほど楽になれるのか、でもそれが最後に癒されることはなく痛みを抱えて生きて行く。人は誰しもが何かしらの傷を持って生きていてそれを隠しながら生きているが、その痛みを癒してくれる何かをいつも探している。でも為頼先生も早瀬刑事もその痛みを消すのではなく辛くとも抱えて生きて行く決意する。出来ることならこの二人に痛みが消えて欲しいと願わずにはいられない。ラストシーン、ゆっくり眼を閉じる為頼先生は一体どこへ行くのか…また戻って来てほしい。
原作との違い、10話完結では終われない
原作は2006年に出版された久坂部羊氏の小説「無痛」となっている。久坂部さんは現役の医者でもある方でその他にも医療系のミステリー小説を出版されている、現代版「白い巨塔」とまで称される方。
今回のドラマ化によって大幅と言ってもいいほど原作とドラマでは内容が異なっている。為頼先生がイバラに拘束されその際早瀬刑事が救出に向かったところイバラに手首を切り落とされてしまう、そんなことをされても早瀬刑事は最後にはイバラを許す。そのシーンはドラマではない。高島菜見子にストーカーをしていた元カレの佐田要造と菜見子は結婚後離婚をしているけれどドラマではただ付き合っていただけ。「一家惨殺事件」も南サトミの自供した内容が違っていたり最も大きく違うのはやはり白神先生とイバラ。ドラマでは最後白神先生とイバラは一緒に心中し南サトミは高島菜見子と一緒にやり直していくようなラスト。原作では白神先生は最後南サトミと一緒に海外へと逃亡、イバラは精神鑑定中に脱走。そうして物語は六年後を描いた「第五番 無痛」へと続く。その他原作とドラマとの違いはあるけれど省略。唯一変わっていないのは白神先生の弟・玲児が恋人を他の男に寝取られたことくらい。これだけ見てもドラマと原作の違いは結構ありたった10話で終わらせるには無理があった気がする。折角キャストも演技派の役者達が揃っているというのに大幅に変えてしまった所為で最後は物語の筋を繋げる説明大会ふうになってしまったように見えた。それならばシーズン2まで作るつもりで原作に忠実に作ってほしかったと最終回まで見終わった後は思わざるを得ない。でもドラマのラストからして続編は期待出来なさそう…。個人的には是非にと願っています。
唯一ここはとても良かったと思えたのは主演の西島秀俊さんと伊藤淳史は同じ医療ドラマ「チームバチスタ2」と映画と共演があり、そのドラマで伊藤淳史は仲村トオルさんとコンビを組み事件を解決していく。今回は西島さんと伊藤さんが協力して事件を解いていく様子は「チームバチスタシリーズ」のファンとしては嬉しいものだった。そしていつも人の良いちょっと気弱な人を演じることが多い伊藤淳史さんは今回は正義感が異常に強い熱血刑事、犯因症に苦しみ破滅の道へと進んでいく刑事を演じている。今回の影のある役もさすが子役から現在まで俳優を続けているだけに見事に演じていてまた新しいキャラが観れたことも満足、視聴率や評価は微妙でも少し異色の医療ドラマは大満足だった。
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