良いような悪いようなよくわからない展開が残念
題材としてはよかった気がする
立花港高校に赴任してきた現役高校生スポーツドクター塩谷。中学のころからアメリカへ留学し、スポーツドクターとしての技術を高めてきた彼は、立花港高校の生徒会長よりスカウトを受け、学校内にあるすべての部活動を全国優勝へ導いてほしいとのお願いを受ける。塩谷のスポーツドクターとしての腕が今試される…!
ということで、保健医が主人公になる物語が無数にある中、スポーツドクターというところに着眼点を起き、その能力を発揮させていこうとする物語は新鮮でした。スポーツやそれなりの医学の知識があると、書いてあることがほとんど理解できるので、またさらにおもしろさを感じたかもしれません。いや、これはおかしいんですけど…というワードもちらほらありましたが、漫画ということで許されたんですかね?序盤は理にかなっていることも言ってたように思うんですけど、徐々に精神論的精神論へ傾き、ズレが生じたように思います。
もちろん、「医龍」のような本格的外科医の物語ではなく、悩めるスポーツ選手の特性を見抜き、ベストパフォーマンスを引き出すことを生業とするドクターの物語。まだ現役高校生の年齢で果たしてどういう設定?と怪しく思う場面もありますが…。生徒たちとのコミカルなやり取りも楽しみつつ、スポーツを本気でがんばる子たちを応援するような物語にもなっていることは、けっこう少年たちにいい影響を与えたのではないでしょうか。
オペがオペじゃない
残念ポイントはいくつかあるんですが、筆頭は「オペ」ってなんだよ、ってこと。いや、オペというのは手術のことだからね?体にメスを入れるイメージのほうが強いので、なんかこの言葉がしっくりこない。「オペを開始する」を決め台詞にせずに、あの「一瞬見ただけで選手特性を見破る」みたいな能力に名前とか付けたらよかったんじゃないですかね。スネークスコープとかタイガーアイとかホークスアイとかそんな感じの。それだけで強そうな能力に早変わりする気がする。
そして、オペにおいて最も納得がいかないのが、介入内容が目を真ん丸にするほど、くだらない施行内容ばかりだからです。はじめはすごくよかったんですよ?肩甲骨の間の筋肉の緊張を緩和し動きやすくさせることで、恐怖やプレッシャーで押分されそうだった本人の心までも軽くし、ベストタイムを引き出させることに成功した。(ここで出会った小学生たちが、いつかどこかの話で再登場してくれるんだろうと思っていたので、3巻打ち切りとなってしまってもう本当に残念でしたよ…塩谷が活躍する学校に入学してきてくれるんじゃないかなと期待していただけに、落胆がより大きくなるよね。)
一方、塩谷の立花港高校に実際に所属しているメンツに対しての処置が…いっきにスポーツドクター本来の路線からはずれてしまい、読む気が失せてしまいました。あれだけ筋肉がどう、血液の流れがどうとか言ってたのにね。処置が雑巾がけとただの愛情たっぷり塩むすび…シンスプリントに対しての考え方や処置の理由付けはそうかそうかと思ったけれど、純白筋でできた体なら持久力でどうにか、なんてありえないし、それ以外はメンタルケアだけですか?って感じすらします。
学校がクソすぎる
学校のコンセプトが謎ですよね。スポーツ推薦を積極的に受け入れる、スポーツの名門校が立花港高校であり、そこの部活動をすべて全国大会優勝へ導いてほしいというのが塩谷への依頼のはず。ところが、立花港高校でがんばる生徒たちはみんなケガやら問題やら起こしまくりで…むしろスポーツやってないじゃないですか!卑怯者も腐るほどおり、なぜか女子剣道部員が強くなりたいと男子部員に勝負を申し込もうとしてみたり、夢なかばで不良へ身を落としてみたり…生徒会長の一存で何もかも決めることができてしまう謎の学校で、教師たちの姿は一切見えず、ひたすら自由行動…いったい何がしたいんだろう。
そうこうしているうちに、いきなり「立選」なる学校の中でのスポーツ最強集団とやらが登場し、最強と言われながらもスランプや問題を抱えているということでそれを塩谷が治療に当たっていきます。個人がとにかくピックアップされ、チームプレーに全然目がいかないのも嫌なところ。スポーツは仲間がいてこそできるもの。それを才能の塊でありながら部に所属しない内柴くんを登場させることで際立たせたかったのかもしれませんが、なんで帰宅部状態でこのスポーツ学校に存在できているのかも謎すぎだし、仲間をつくる気もさらさらないみたいで…いったい何だったんだろう。立選メンバーもすべて登場するのかと思いきや、3位とか7位とか9位とか…なんで微妙なところをわざわざついてくるのだろう。1位はドクターいらないでしょってこと?いったい何をしたいのか、迷走状態へと突入します。
登場人物は愛らしいがすごさが伝わらない
確かに、登場人物のイラストはかわいいんですけどね。序盤もストーリーや専門性が高くておもしろさがあったし、人気もあったはずなんですけど…ストーリー展開がなぜこうもだめになってしまったのか、わかりません。これだけキャラに個性をつけたのなら、もっとその背景に迫ってみることもできただろうし、塩谷がまだまだ完璧ではないということを見せてくれた上で、この学校でだからこそできた経験が彼を成長させてくれるとか…変化や成長、挫折からの復活、葛藤、希望といった、少年誌らしい爽快さと純粋さがほしかったです。
普通に部活動を次々と登場させ、塩谷の能力を次々お披露目させていくのだけでももう少し話は続いた気がするんですけど…保健室がただにぎやかになり、なぜか生徒会との結束も強まり、スポーツドクターという立ち位置からズレが大きくなってしまったことが、おもしろくなくなった原因かなと思います。男キャラが少ないのも面白くないんですよ。内柴はいったい何の才能があるのか、親がいったい何なのかがわからないからすごさが伝わらないし、主人公である塩谷のすごさは比較がないのでわからない。そんなんトレーナーならわかるじゃん!ということも多かったですし、塩谷には特殊能力がもっと必要でした。わかりやすくしようとしすぎないで、塩谷の専門性際立つような言動や治療シーンがもっとほしかったなーと思います。もったいないなー変態コンビやでこぼこコンビはいい組み合わせだと思うのに。
敵がいたら全然違った
その学校でベストパフォーマンスを発揮できるよう選手たちを支えていく。それならそれで、敵を用意すればよかったでしょうね。「これは厄介だ…!」という症状や、スポーツドクターとしての能力を自分と匹敵するくらいの人物(ライバルのような存在)と競い合うようなシーン、進化していく技術など…ダラダラと進まずに常にケガを相手に闘っているような印象があると、メリハリがついてよかったかもしれません。
ついでに言えば、すでにそこそこスポーツの強い学校だからこそ、求めるレベルや悩むポイントも難しくなるはずなんですよね~…そのあたりを流されてしまうと、本当にスポーツに関わっている人からすれば、なんだこのつじつまの合わない治療は!ってなってしまうと思う。十分なリサーチのもと、疾患や治療手段を選んでいくべきだったんじゃないかなーと感じます。敢えてスポーツドクターというところに絞っていったのですから。塩谷のキャラクターは好きだっただけに、不完全燃焼です。
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