廃刀令への問いよりイケメンズとその心意気を楽しむ漫画 - サムライドライブの感想

刀を持つことを許された場合のワールド

廃刀令が行われなかった日本。刀を腰に下げ歩く者が当たり前のように存在し、「刀は人を守り、仁義を通すために存在する武器」だと語る。ところが中にはもちろんそうではない輩もいるわけで…剣士ではない一般人を切りつけることは禁忌とされる中、ある名高い剣士がその大罪を犯し、自らも刺されて死去するという事件を起こす。その名高い剣士を師として仰ぎ、慕っていた九重は、真実を明らかにし汚名をはらすため、夜な夜な白夜叉となって剣士を襲っていく。これは孤独な戦いであり、仲間なんてできるはずもなく、いつか自分も剣にのまれて死ぬかもしれなかった…。

どこを見てもイケメンだらけ。数少ない女の子は妹かメイドくらい。あとはひたすら男の子同士の友情と、誰かのために戦うという武士道を現代風にアレンジして展開していきます。BL好きにはたまらない主人公・九重。頑なに周囲を拒絶するその姿、打ち崩してみたくなる男が多いはず。伊吹と九重が知り合うことにより、九重は“仲間”というものの居心地の良さと喜び、力強さを知っていきます。果たして仇を取ることができるのか、そして真実は何なのか。1つずつピースをあてはめながら、確実に謎解きを進めていってくれるので、モヤモヤが少なめの安心展開ですね。人がわりとあっさり死んでしまうので、仁さんのことといい、残念なシナリオもちらほらあります。そこは逝ってはだめだ～！！せめて病院で寝ててくださいよ。そこから華麗に復活して、その後の世界を眺めてくださいよ！

人を殺す道具なのに日本刀はなぜか気高い気がする

日本刀って、なんか神聖な雰囲気すらありますよね。日本人が袴を着て剣舞なんてやってたら、それはそれで1つの芸術だなーと感じてしまう。そして日本刀で誰かを殺めようなんていう気が起こるとしたら、もはやその人は倒すべき危険人物なのではないかと思えてくる。日本刀で1対1で挑む戦いは、誰にも横やりを入れられてはならない、男と男の決闘ってやつだぜ…！とカッコよく誰かが言いそうですが、結局はケンカに刀を持ち出した状態と言えるでしょう。結局傷つけあう行為には変わりないのでね。廃刀推進派がいるのもまた仕方ないことです。そして逆に過激派ができてしまうのもしかり。

日本人にとっての刀がそうであるように、海外では拳銃にそういう神聖視するような気持ちを持つ人もいるのかもしれません。西部劇では、ガンマンが銃口を向けて、相手から逃げずに打つというシーンがあるかと思いますが、まさに日本人が日本刀構えているときと同じですよね。日本刀を剣道みたいな状態で持って構え、相手に背を向けることなく剣をふるう。正々堂々勝負しよう、と言っていると、なんか逃げてはいけない気がしてくるし、正々堂々としていれば許されることなのかな・正義のために闘っているのだから正しいのだろうなと思えてくる。

でも本当はどちらとも言えない。武器を持つということの曖昧さ、複雑さをもっと掘り下げて語ってほしかったですね～。

九重は主人公？

どちらかというと、九重は主人公向きではないですよね。伊吹が主人公で、新たな学校で出会った九重と友達になり、お互いの信頼関係ができていく…みたいな展開が正規ルートのように思えます。それを敢えて逆ポジションの視点から眺めているような感覚ですね。

九重は孤独で、言葉足らずで、自分の心に誰かが入り込むことを嫌い、自分だけでなんでも解決してしまおうとする人物。それでいて少し鈍感なだけで、十分人に優しい一面も持ち合わせています。こういう寡黙タイプは、主人公よりも主人公の親友や要所で活躍する不思議ちゃん系ポジションによくいますね。そこを敢えて主人公に持ってきたのは、何しろ男主人公・イケパラ状態の中で、ツンデレキャラをトップに置いておきたいからかなーと考えています。攻めがいがある…という妄想をする人が絶対いると思うんですよ。九重のような見た目と性格のキャラ。攻略したくなりますよね。

九重の孤独や、尊敬する師への気持ち、周囲のクラスメイトたちが嫌いなわけではないという気持ちなど、複雑な感情に気づいていってあげるのは伊吹なんですけど、伊吹はフレンドリーで熱血漢、さむーいセリフも平気で吐けるヒーロータイプ。特にこの剣士の学校に因果があったわけではなくて、単純に九重の師の無実を同じく信じているというだけで転校してきた男の子です。正直者で友だちを大事にする男！こりゃーモテる。九重と伊吹の組み合わせも萌でしたが、やはり九重と仁の組み合わせがドンピシャだなー…と勝手に妄想を膨らませていました。仁が逝ってしまったのは本当に無駄死にだよ…

刀をめぐる問題はぬるさがある

廃刀令をめぐって、いろいろな派閥が登場し、戦いを繰り広げていきます。剣士の心を大事に正義の名のもとに行動しよう…と掲げるのは学校の生徒たちくらいのもの。彼らはまぶしいくらいに純粋です。その他廃刀令推進派や、特別な人物にのみ剣を持つことを許そうとする派、剣を悪意をもって広めようとする過激派などなど…学校の生徒たち以外、いい人そうな人がいないんですけど…武器をめぐる人の争いってやつはそんなに単純じゃないので、語るならグレーゾーンをたくさんみせていかなければならないと思います。そこを置いといて、九重や伊吹たちの方ばかりを良く見せようとしてしまうのはいかがなものかと…「正義は勝つ！」なんて単純に言えない世の中ってやつがあるのよ。そのため、大人が読むと物足りなさがあるかもしれませんね。

もちろん、妄想のお供にするには十分すぎるイケメンズがそろっています。友情なのか禁断なのかと思いハラハラしながら読むには楽しいでしょう。双子もいるし、俺様もいるし、ヒーロータイプや、陰湿なタイプ、爽やか系から地味系までより取り見取り。がんばれ九重。

廃刀特権派を倒す

結局、こいつらが黒幕か！ということで、そこに乗り込み、チャンバラを繰り広げていきます。そしてそれぞれが因縁の深い相手と1対1になっていく。よくあるね。九重、キミを最深部で待つ大将のもとまで送り届ける。その一心でクラスメイトのみんなは散り散りになっていきます。相容れなかった奴らが、伊吹を通して、九重を通して、これだけまとまれたこと、これは単純に嬉しい。

ここの戦いにおいては、いまいちバトルシーンにシリアス感が少ないですよね。爽やかさが勝ってしまって、敵の強大さとか恐ろしさがあまり伝わってこない。青臭いセリフが次々吐かれてかゆいなーと思ってしまう。もう少し闇っぽさがほしかったかなーと思いますね。お互いに。ボロボロになりながら到達する最後の砦。鬼気迫るものがぶつかり合う感じが欲しかったなー。

物語のひねりは少々少ないと思いますが、九重のボケ具合とか、伊吹の心配性なところとか、その他のメンズの純粋すぎるセリフなどなど、序盤からBL臭漂う物語になっているので、イケメンを見て楽しむ漫画です。あーこういう楽しみ方もあるか、と新たな発見をした物語でもありました。

個人的には、やっぱり剣は芸術としてのみ残って正解だったんじゃないかなーって思いますけどね。武士は廃れたかもしれないけど、その精神は日本人に息づいている気がするし、こうやって何度でも漫画になって、受け継がれていく気がする。スポーツとしてで十分かなー。