一癖も二癖もある登場人物たち・・愛・アマチュアがかたりかけるもの
唐突な出会い
冒頭街角の横たわるる若い男 そして偶然ではなく何か知っているような若い女が男の傍まできて息をのみ駆け足で立ち去ってゆきます。場面変わってイザベル・ユベール演じる売れないポルノ作家のヒロインがコーヒーショップでコーヒー一杯でねばりながら原稿を書いています。店の人に文句をいわれても知らぬ顔で声を出してエロチックな文章を口に出したりするので他の客も呆れ顔です。
「いいかげんにしてよ」というウェうトレス。そこへさっき横たわっていた若い男がふらふらとはいってきます。男は死んでいなかったのです。ただ記憶は失っていたのでした。
これがこのラブサスペンスの出だしなんですが漆黒のタイトルロールから一見死体にしか見えなかったイケ面の男が店に現れるまで息もつかせません。
元尼さんのポルノ作家と記憶を失った犯罪組織の男の出会いは幸福か不幸か
ヒロインのイザベルはもともと修道女でマリア様にお前は色情狂だとお告げを受けたと思い込みポルノ作家になったという変り種です。信仰心がつよい見た目は青白い地味な女性だけど頭の中はエロい妄想で一杯というタイプです。男は街角で倒れていたことからわかるように何かがあって記憶を失っているのですが実は犯罪組織に属し妻をポルノに出演させて稼ぐ悪い奴なのでした。
何も知らず 一文なしで血を流している男を助けてしまうイザベルはお告げを信じたときと同じようにこの男に何かをみてしまったのかもしれません。
ほんもののエロく魅力的な女性はあまり幸福ではなさそうだ
映画のキーパーソンとして出てくるソフィア 彼女はその男トーマスのもと妻で12歳のときからトーマスにポルノ映画に出演させられていたという女性です。 イザベルと対照的にセクシュアルで洗練されているけれどそんなトーマスから逃れたくて夫を窓からつきおとして殺した(と思い込んだ)のです。体は清いままエロい妄想に生きる女とポルノで生活をたてながらそこからぬけだすために夫を殺す女。対照的だけどどちらも辛い女たちです。
記憶を失ったソフィアの夫トーマスは筋金入りの悪人のはずなのですがソフィアに窓から突き落とされてイザベルに拾われてからというものイザベルに依存した弱い存在になってしまいます。イザベルはそんなトーマスという男によってはじめて妄想ではない現実的な性の魅力を知り始めるだから本来は母性的な女性なのかもしれません。だから犯罪組織から逃げ出して殺されかけたイザベルを匿いイザベルからトーマスの正体を聞いた後もトーマスに対する態度は変えようとしません。
全ての謎がとけても・・・・
「愛 アマチュア」は基本的にはサスペンス映画なのですががでてくる人物たちはみな一癖 二癖ある人たちで重い過去をひきずっているためヒロインの精神的成長映画のようにもみえてきます。彼女はトーマスとつきあうことでトーマスをとりまく悪の世界を知り犯罪組織のルポ作品をものにすることに成功します。たぶんそれが本来の彼女のあるべき姿なのでしょう。
その代償はトーマスの死・・。 警察にこの男は誰か知っているかときかれ知っていますと答えるイザベルは性的妄想に生きる変な女ではなく現実をしっかり見つめることのできる女に成長しています。
そうするとこの映画の原題がアマチュアであることの意味が見えてきます。イザベルはポルノ作家を気取っていても処女でありアマチュアの域をでていませんでした。ですがこの奇妙な経験を通してやっとプロとして通用する書き手になることができました。一人生き延びた彼女はすべてを語る役割を担わされたときアマチュアでなくなったのです。
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