自分の意志はあるか
常守朱の意志
治安維持に当たるのは公安局という高い犯罪係数を持った実働部隊の執行官と執行官を監視、指揮する監視官からなるチーム。
シビュラシステムと呼ばれる完璧な公平性と先見性により日本は秩序と安寧を保っている。
そんな中で主人公の常守朱はシビュラの適性を受け公安局の刑事課に勤めることとなる。
配属初日から事件に関わるがそこで経験するのはシビュラシステムと自分の価値観の違い。
一定の犯罪係数を示した者は「潜在犯」と呼ばれ、さらに更生の余地なしと見られた者には死の鉄槌を下す。
シビュラシステムの言うことは絶対という世界の中で、不可視の存在のものに自分たちの意志が介入する余地のない事に朱は違和感を覚える。
実際、事件で被害にあった女性がひどく混乱している時、シビュラが下した判定は麻酔銃で眠らせよ、との判定。だが朱はそんな乱暴なことをせずとも話をして落ち着かせれば良いと判断する。
シビュラの判断が全てではなく、他にもやり方はあるのではないかという、自分の意志をここで見せます。
このシビュラシステムの監視下に置かれた日本ではもはや自分の意志で何かを決めることはなくシビュラの宣託によって生きている人が殆どです。
そんな中で自分の意志をはっきりと示す朱はこの完璧と謳われた世界に一石を投じる存在、という風に察せられます。
実際、朱はこの後の事件でしっかりと自分の意志で判断を下す場面が出てきます。
シビュラより、自分の正義を優先したのです。
しかしその裏では多くの時間、どちらが正しいのか苦悩していました。
しかし、それを投げ出さずしっかりと答えを出した朱はやはり人間として素晴らしいと思います。
たくさんの人が正しいと思っている事な対して自分はそうじゃないと思う。
それってたくさんの人の意見に反対しているという事です。
自分の意志を曲げて付和雷同するのが楽な生き方だと思うのですがしっかりと自分と社会の両方と向き合いそして答えを出した。
とても意志の強い女性です。
私たちの世界でも、皆が言ってるからこれは正しい、という考えに流されて自分の考えを放棄している事があると思うんです。
それに対してちゃんと向き合うことの大切さを朱から感じとれるのではないでしょうか。
完璧な世界
自分の職の適性や恋人との相性、犯罪予備軍まで様々な未来を見通し最適な方向へ導いてくれる、完璧と謳われたシビュラシステム。
実際、シビュラシステムによって犯罪による死傷者は激減しているのですがシビュラの存在が逆に完璧な世界などありはしないという証明になっているように思います。
実際、朱はシビュラの判定に疑問を持っていますし、人々の将来を導いてくれるのはすごくいい事なのですが同時に自分で考えて、自分の行動に責任を持つということを放棄するということです。
何かを得れば何かを失う、等価交換というやつですね。
シビュラシステムが存在する世界でも朱のように自分の意志をしっかりと示す姿を見ているとこの世界の新たな可能性のようなものが見えたような気がします。
シビュラと人の意志が上手く融合すれば本当に理想的な社会が出来るのではないか。
いつか私たちがそんな社会で暮らすことができるのか。
見てみたいです。
槙島聖護
槙島聖護の言葉が忘れられません。
「人は自らの意思に基づいて行動した時のみ価値を持つと思っている」
その通りだと思いました。
それぞれ人には夢とかこういう事をしたいとかこんな職に就きたいとか色々願望があると思います。
本当にそれを叶えたいなら努力するでしょう。
そうして失敗して成功して経験を積んで自分だけの人生を歩み、価値観を育む。
自分にしかない個性を作るのだと思います。
これは、ただ誰かの言われた通りにしか生きてない人には出せない個性です。
シビュラシステムの宣託によって人々は安寧と平和を手に入れ、それぞれ人に合った幸せを提示してくれます。
自分の未来をシビュラが導いてくれる、何のリスクもなく。それはすごく理想的ですが考える事をシビュラに任せた人々は、皆、同じ色をしているのではないでしょうか?
幸せだって、裏返せば大変な苦労があったからこそよりそう感じる。何の苦労も失敗もなく幸せを手にすることは本当に幸せなのか?
シビュラシステムや、槙島聖護の言葉で私はそんな事を考えさせられました。
まとめ
サイコパスという作品はSF的な未来世界ですがこんな世界ならこういう風な社会となり、人々はこういう風な考え方を持つなど、しっかり作り込まれた作品です。
土台がしっかりしているのでストーリーに集中して入れますしテーマも比較的わかりやすく主人公の常守朱もとても真っ直ぐで応援したくなるキャラクターです。
同時に自分の意志を貫くが故にこの世界では様々な壁にぶち当たり、難題の対処で何度も身の危険があって、それでも前に進む姿にはとても心配になってしまいます。
ですが彼女には彼女の信念があって、だからこそ正面から問題に立ち向かい解決へ向かおうと足を止めないのです。
こういう姿勢は見習わないとなぁ、と思います。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)