今宵、頂戴ニ参上スル 我ハ怪人二十面相 - K-20(TWENTY) 怪人二十面相・伝の感想

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K-20(TWENTY) 怪人二十面相・伝

4.504.50
映像
3.00
脚本
3.50
キャスト
4.00
音楽
3.50
演出
3.00
感想数
1
観た人
1

今宵、頂戴ニ参上スル 我ハ怪人二十面相

4.54.5
映像
3.0
脚本
3.5
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
3.0

目次

自由のない世界、それでも自由を我欲す

時代は第二次世界大戦が回避された架空の昭和24年。日本は19世紀から続く華族制度によって格差社会が生まれていた。職業の変更は禁じられ、恋愛の自由もなく、結婚は同じ身分の者同士でのみ許される自由のない世界。そんな世間の帝都・東京では怪人二十面相が富裕層を狙う犯罪を繰り返していた。サーカス団で育った遠藤平吉(金城武)はある時カストリ雑誌の記者に化けた怪人二十面相に騙され怪人二十面相に仕立てられてしまう…。
圧倒的な格差のある第二次世界大戦が回避されたというパラレルワールドで1949年となっている。その為舞台は日本帝国陸海軍とアメリカ・イギリス軍との平和条約が締結された後の「帝都」と呼ばれる世界で戦争にならなかった為比較的平和な日本。でも極端な貧富の差が生じているという大胆な設定。大正浪漫とスチームパンクと主人公・平吉が住むあばら家も昭和の日本の風景を取り入れた世界観、一見少しごちゃ混ぜ感はあるものの見事に調和が取れていて個人的にはこの世界観はとても好み。華族制度とは明治2年(1869年)から昭和22年(1947年)まで実際に存在した貴族階級のこと。同映画でも華族たちが暮らす地域と貧困層が住む地域の天と地ほどの差が忠実に描かれていて当時はきっとこんなだっただろうとリアルに感じられる。生まれた時から運命を定められている華族制度、だからこそ生まれる平吉と羽柴財閥のお嬢様・羽柴葉子(松たか子)の身分違いの恋愛もありがちな設定でもやっぱり胸キュンしてしまう。

颯爽と月夜に現れる紳士怪盗、我ハ怪人二十面相也

「怪人二十面相」とは江戸川乱歩の生み出した架空の大怪盗。1936年(昭和11年)に登場。本名は「遠藤平吉」富豪にも乞食にも学者にも女にもどんな人間だろうと化けることが出来る変装の達人。怪人二十面相自身も自分の顔を忘れてしまうほどらしい。声を変えることも自由自在、年齢は三十前後。そして怪人二十面相は人を傷つけず殺さず残酷な振る舞いもしない、何故なら血が嫌いだから。そして小説でも自ら「僕は人殺しはしませんよ」と言っている紳士的な怪盗。後に怪人二十面相となる遠藤平吉はサーカス団に所属する曲芸師。その後どうして怪人二十面相になったのかは触れられていないので謎。そして怪人二十面相はたった一人でお宝を盗むのではなく複数の手下がいて大胆な盗みの手口であるトリックの手伝いをしている。これらの特徴が「怪人二十面相」という人物像。この映画でもその特徴を取り入れて「怪人二十面相」が出来上がっている。
そして怪人二十面相を長年追い続けているのは名探偵「明智小五郎」このキャラクターの風貌は金田一耕助に似ている風に書かれている。現代ならまだしも1924年(大正13年)にこんなオチの殺人事件を書いたことに個人的に驚愕した「D坂殺人事件」で初登場した。当初は明智小五郎の登場は「D坂殺人事件」のみだったが評判が良かった為にその後も「屋根裏の散歩者」「心理試験」などで登場、その後江戸川乱歩の生み出したキャラクターで代表的なキャラクターとなる。

遠藤平吉が怪人二十面相、明智小五郎はずば抜けた推理力を持った名探偵。その設定を知った上でこの映画を観ると面白いのはこの映画オリジナルの設定。遠藤平吉はサーカス団で育った曲芸師。明智小五郎(仲村トオル)は華族であり名探偵として世間にその名を馳せる端整な男。でも実は明智小五郎が怪人二十面相だった。怪人二十面相から予告状が届き、狙われた美術品を守ってほしいと明智小五郎に依頼が来る。一人二役を演じるこの方法なら盗みは簡単。遠藤平吉は怪人二十面相を引退したい明智の罠に嵌められて怪人二十面相の替え玉として逮捕。のちに本物をも超える身体能力を身につけ対峙。ちょっとぶっ飛んだ設定かもしれないけれど大胆で面白い。江戸川乱歩でさえも「明智小五郎=怪人二十面相」の設定は思いつかなかったかもしれない。

怪人二十面相ヨ、永遠ニ

同映画はアクションも見所ということでパルクールを駆使し街中を飛ぶように駆けていくシーンが印象的。バットマン、スーパーマン、マスクオブゾロなどのアメコミを意識しているようで怪人二十面相が纏う革張りのマントにスーツ、帽子とマスクも全体的にちょっとアメコミっぽい。そしてアクションシーンはワイヤーアクションと邦画では初めて「パルクール」という動作を採用。平吉と怪人二十面相の戦いのシーンではロシア人スタントマンがそのパルクールを使い鮮やかかつ迫力のある戦闘シーンを演じている。その中でもロケ地の北九州市門司区の旧サッポロビール醸造棟で平吉が壁をよじ登るシーンは金城武さんのノースタントだったとか。金城武さんは日本人の父と台湾人の母を持つモデル・俳優。日本での活動は少なく「レッドクリフ」の諸葛孔明が一番有名かもしれません。宿敵・明智小五郎を演じる仲村トオルさんの明智と怪人二十面相との人格の違い、紳士的で優しい明智と冷ややかで結婚も今の地位を守る為としか考えていない冷淡な怪人二十面相の人格。勿論怪人二十面相の人格の方が本心でしょうが演じ分けが素晴らしい。そしてどちらかと言うと悪人役の方が多い本郷奏多さん演じる小林少年。この小林少年も小説「怪人二十面相シリーズ」では明智小五郎の助手。小林少年のイメージが本郷君に合っている。浪越警部も勿論登場し原作を守りながらも新しい「怪人二十面相」を作り上げている。江戸川乱歩ファンとしてはこの映画の怪人二十面相もあり。何より仲村トオル演じる明智と怪人二十面相が素敵で何度も見返してしまうほど。特に平吉が明智に変装するシーンのトオルさんのコミカルな演技がとても良い。生まれ育った環境も境遇も実は同じだった明智と平吉が分かり合えたらならよき相棒になれたのに、もっとお互い早く出会っていたら怪人二十面相は生まれなかったかもしれない。

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