1人目でもはや最終目標達成しちゃった話 - アンダードッグの感想

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アンダードッグ

3.503.50
画力
3.50
ストーリー
2.75
キャラクター
3.00
設定
3.75
演出
3.00
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1人目でもはや最終目標達成しちゃった話

3.53.5
画力
3.5
ストーリー
2.5
キャラクター
3.0
設定
3.5
演出
3.5

目次

生々しい欲望の嵐

国吉直人は、小学生の時「空気男」と呼ばれたことがトラウマとなって、大学生になった今でもそれを引きずり、交友関係を築けずにいた。そればかりか、ムカつく相手に対して陰湿な方法で仕返しをして、いい気味だと自己満足する最低な日々。一生懸命がんばったことに対して、世間が冷ややかであることを受け入れられずにいた。なんでこんなつまらない時代に生まれたんだろうと。そしてある時、爆乳のディーラーが突如現れ、彼に殺し合いゲームの招待状を届ける。世界を思うがままにする権力を手に入れることができるというこのゲーム。果たしてクズにそんなすごいことができるのだろうか…?

主人公が、クズです。閉じこもってるだけならまだしも、髪の毛にガムをくっつけてやるとか、ピッキング・盗撮とか、さらには小さな子どもの顔にやけどを…とんでもない野郎。これまたそのシーンも生々しく、エグイ。自分を否定されて立ち直れないのは、自己評価がすっごく高いってことなんですよね。自分がこれだけがんばっているのに、認められないのはおかしい。こんなに善い事をしたのに、認めてくれないのは相手の心のほうが腐っているからだ。そんなことばっかり思い続けて、これほどまでにクズになってしまったわけですね。気持ちはわからなくもないんですよ。迷惑をかける人っていうのは必ずどこかにいるし、相手の気持ちを考えられない人もたくさんいる。だけど、そうだと気づいたら、自分はそうならないと決めなければならない。「目には目を歯には歯を」では、大昔と何ら変わらない、知恵も道徳もない時代と同じになってしまうんですよね。

本来だったら、国吉はたぶんいい奴。だけど、それを無下に扱われることがたまたま多かったし、本当の友だちにも恵まれなかった。これが本当に残念なところです。もしかして、この殺し合いゲームを企画した人間は、そういうクズから成りあがったやつなのかな…?本来だったら平等にあるはずだった生き方の再興の機会を与えてくれているのかもしれない。だって、「死に追いやること」がテーマで、殺すことはルール違反なのだから。負けた奴を殺すってやつも、本当は違うんだよーって言ってほしい…

家族はみんなが同じ気持ちで支えていかなければならない

国吉の家族は、いい奴じゃないか。きっとお父さんだって、考えていること、思い通りにならないことがたくさんあるんだよ。そこを話し合わなければ、家族としては足りないよね。お母さんも妹の未来も、言いたいことあるなら行動しろよって感じ。見守ってることだけで解決するなら簡単すぎるんだってこと、早く気づいてほしかったです。確かに、心に傷を負った人をどう扱えばいいのかなんて、正しい方法はわからない。だけど、確かに味方なんだっていうことを伝えるべきだったと思いますね。

国吉は本当にクズ野郎になり下がった奴だ。でも、少なくとも、もう一度立ち直れないほどじゃない。弱くても妹を守ろうとしてくれたことがある、落としたハンカチを走って届けることができる、優しい心を持っているのだから。それを理解してもらえるように、自分から行動できるように、家族は行動を起こさなければならないんですよね。本当に心配なのだとしたら。3巻で終わりましたけど、未来の命を救ったこともあって、きっとこれからは違う関係性が待っているはず。どんなに怖い思いをしても守ろうとすることができる。それだけでまだ国吉には希望があるなーと思いました。みんなで協力して作戦考えたりとか…いや、ちょっとそれだとシリアス路線からはずれるか…とにかく、国吉には仲間が必要だと思います。

祐樹くんには裏が絶対あったと思う

個人的に、一番危ないなと思っているのが祐樹くんです。彼は国吉に優しすぎる。絶対裏がある設定だったと思うんですよね。あまりにポジティブ、あまりに国吉に寛容でした。本当に友達として接するなら、彼をある程度は叱ることも絶対必要だったはずなんです。優しいだけじゃ何も解決しないことだってある。祐樹くんは敢えて国吉をクズのままにしておきたかったと考えられると思います。

パターンとしては、実は祐樹くんには人には言えない趣味があり、その人間関係・恋愛面は破たんしていて、表面上の付き合いしかできない人間だった、という説です。だからこそ、国吉という、絶対的なクズの近くに出現することで、俺はこいつよりクズじゃない・こいつは俺がいなきゃダメなんだ・俺はこんなにいい奴だ…!って自己暗示かけてるパターン。ありそうじゃないでしょうか。

この殺し合いゲームが終盤に近付くにつれ、それが徐々に明らかとなり、せっかく前を向き始めた国吉をもう一度クズ寸前まで叩き落とす。俺はいったい何を信じて、何のために闘っていけばいいんだろう…?やっぱり死ぬしかないのか…?そしてそこから怒涛の復活劇が始まる…!!的なね。こういうビジョンが見えちゃっていたので、祐樹くんが3巻の最後まであまりゲスい輝きを見せてくれなかったことは拍子抜けをしました。絶対裏切ると思ってたんですけどね。もし続編を作っていただけるのだとしたら、祐樹くんの活躍に大いに期待しています。

名もなき青年との死闘

3巻通して死闘を繰り広げた相手は、名前も偽名の青年。少女殺害を繰り返している愉快犯。ただ、彼の背景もとても悲しいものでしたね…しかも、「お前みたいに小食で体の大きくない人間には、勉強で1番になることしかないんだ…!!」っていう親父。い…意味が分からない…体が小さいことの何がコンプレックスになるっていうんだろう…勉強だって、1番になったからって何になるんだろう…この親父のせいで彼は…あまりに大きすぎる傷を心に負ってしまったんですよね…もう少しうまい具合の虐待理由がなかったのだろうか。そこは作者さん、いったいどうしてしまったんだろう。あまりにも理不尽な設定にしたかったのでしょうか。

相手は殺人犯ですから、人を殺すことは造作もない。だから、殺さずに死に追い詰めるということは相当難しい課題だったことでしょう。それでも、勉強ばっかりやってたおかげか割と頭も回るらしく、どんどん国吉を追い詰めていきます。ただ、彼を更生させられなかったのは、確実に少年院の精神科医のせいじゃん…あんなプレイを強要し、外出許可を出していたなんて、どんな犯罪者!!欲望にまみれすぎていて、ちょっと具合が悪くなる。

最期の時では、彼が少なからずこのクソ精神科医を頼っていて、彼女のおかげで心を保てていたのかな…と思えるようなシーンもありました。これがまたすごく複雑な気持ちにさせられるところで、何が悪い事で、何がいい事で、いわゆる普通に生きていられることがどれだけ幸せなんだろうとか、深く考えさせられますね。

1人目の敵にして改心

なんと8人と闘わなければならないゲームの1人目にして、すでに国吉はちょっと改心できています。最初から敵の設定を強くしすぎた感がありましたね。妹をさらうとか、絶対早すぎた。これでは8人目まで話題がもたないですよ。あまりにいろいろなところを、一気にすっ飛ばした感じがあります。それでも、本来の心の清さを持って、これからの闘いに臨んでいってくれることは、本当に希望だなーと思いました。

アンダードッグ=負け犬は、果たして勝ち組になれるでしょうか。最終的には、そんなものを手にするのではなく、仲間や、組織を壊すような力を手に入れることのほうが、平和的かなーという気はします。打ち切りになっちゃったので、どうするつもりだったのかは謎のまま。3巻の終わりでクズがクズから立ち上がるところが見れたので、それほどイラっとはしなかったのが幸いでした。

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子どもを傷めつけるのはいつも親だ

クズに与えるチャンス主人公である国吉直人は、本当のクズである。もちろん、トラウマとなった小学生の頃の思い出は根深く、それを克服させてくれる人もいなかったことは悲しいことだ。友達も、親も、君にどう接したらいいのかわからなかったんだよ。でも立ち直り方を教えるのは、きっと親の仕事なのに、誰も助けてくれなかったね。大学生になった今ですらそれを引きずり、誰の事も大事にできず、毎日をただ生きている国吉。悪口や陰口に敏感になり、世の中の誰もが自分に興味を示さないことに絶望する。世の中のすべてから愛される存在なんてあるわけないのに、自分ばっかり置いていかれたような気持ちになる。そんな彼の気持ちは、わからないわけじゃない。いつだって何かのせいにして、自分ががんばったのに認められないのはおかしいって言いたくてしょうがない。クズである自分にも、その気持ちは痛いほどわかるよ。ピッキングや盗撮、子どもへの傷害な...この感想を読む

3.53.5
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