子どもを傷めつけるのはいつも親だ
クズに与えるチャンス
主人公である国吉直人は、本当のクズである。もちろん、トラウマとなった小学生の頃の思い出は根深く、それを克服させてくれる人もいなかったことは悲しいことだ。友達も、親も、君にどう接したらいいのかわからなかったんだよ。でも立ち直り方を教えるのは、きっと親の仕事なのに、誰も助けてくれなかったね。大学生になった今ですらそれを引きずり、誰の事も大事にできず、毎日をただ生きている国吉。悪口や陰口に敏感になり、世の中の誰もが自分に興味を示さないことに絶望する。世の中のすべてから愛される存在なんてあるわけないのに、自分ばっかり置いていかれたような気持ちになる。そんな彼の気持ちは、わからないわけじゃない。いつだって何かのせいにして、自分ががんばったのに認められないのはおかしいって言いたくてしょうがない。クズである自分にも、その気持ちは痛いほどわかるよ。ピッキングや盗撮、子どもへの傷害などにまで手を出すのは、人としてだいぶ終わってるけどね。そこに手を出さないでくれてたら、ただのいい子だった。犯罪にも手を染めつつ、自分のせいだとある程度は気づきながら、そうじゃないと言い聞かせる彼は、だいぶ痛い。
そんな彼のもとに、突如としてナイスバディなディーラーが出現。殺し合いゲームへの招待状を届けるのだった。つまらない毎日を刺激的にするゲーム。クズにそんなすごい場所へ行く勇気が持てるのか…?
国吉のかたまりすぎたプライドをはぎ取っていくと、ちゃんといい奴なんだよね。妹のためにがんばれた時もあるし、大学生になりたてくらいのときは、ハンカチを落とした人へ届けるくらい、優しかったはず。どこへ行っても自分が無下に扱われたことが忘れられず、誰にも認めてもらえないような気持ちになってしまったことが悲しいね。負けたら死が待つデスゲームで、彼が見つけるものは何なのか?クズでもできることがあるのか?テーマは「カイジ」的な雰囲気もあって良さそうではあった。たぶん、国吉がクズ過ぎて、読者が付いてこなかったんだと思う。だから早々にラスボス現れたんだわ。
家族がダメなら全部ダメ
結果として、国吉の家族はそんなに悪い人ではなかったんだよ。だけどこうなっちゃったのは、話し合わなかったから。少なくとも、母親と妹はもっと思っていることを早く伝えるべきだった。国吉直人だって悩みながら、いつも支えを必要としていたのだから。思い通りにならないことを、そういうものなんだって教えてやることも、立ち直り方を教えてやるのも、居場所があるからできる。お父さんだって、「空気男」というワードを使って責めてもしょうがないのに…卑怯で自信がないのは完全に遺伝だろう?
確かにクズだけどさ。もう一度立ち直れないわけじゃない。いつも迷って、ドキドキしながら、できれば関わりたくないと思いながらも、関わっていかなくちゃならない葛藤があるから…それは家族が教えてやるんだろう?
少女殺害愉快犯の男の子なんて、完全に親のせいでできた人格。せめてもの救いは、精神科医がいたこと。それなのに精神科医まで腐ってやがって、少年たちを食い物にしてきた。どこまでいっても、傷つくのは後に生まれる子どもだね。彼に救うべき何かがあったとすれば、精神科医のリョウコ先生だけだったのに…。身勝手な大人から悲しい子どもがつくられる。
長編になったら祐樹が危険だった
彼は国吉に優しすぎたため、裏があると思って常に観察してきた。3巻という短さで終了してしまったためか彼の醜さ(予想)は出てこなかったのが残念。ポジティブであるために、寛容であるために、国吉直人を見下していた可能性が高いこの人物。こいつより俺はできる、こいつみたいなのがいるから俺がしっかりしてやらないと、どうせ同窓会の連絡も来てないんだろう?俺が教えてやるよ…俺より上もたくさんいるが、俺より下もたくさんいる。この事実だけで心が救われてしまう人種がいる。見た目ではわからないからひどいもので、危険が起きた時にそれは表在化すると思うんだよね。だから彼も絶対このゲームの参加者として選ばれている可能性が高かった。クズが這い上がれるかどうかを試されているのだから。
1巻はじめのほうで登場する、国吉直人と同い年でテレビに出演するほど成り上がった人物。彼がおそらくこのゲームの主催者か、ゲームに参加することによって大逆転を起こした人物設定だったのではないだろうか。クズだった彼がここまで上がるまでに、いったい何人のクズを死に追いやったんだろうね…そんな想像が止まらない。
国吉直人の光でもあり、自分に影を落とす原因でもある祐樹。ゲームの第一段階をクリアして、第5段階くらいで出てきてくれる相手だったんじゃないのかな?裏切られるのは辛すぎるけど、それでも闘い勝ち抜く国吉直人が見たかった。続きが出ることはないってわかっているが、彼をスピンオフで登場させてほしいと願っている。
精神科医によってつくられた悲しい人生
確かに、精神科医だって、ただ少年院に入った男の子たちで性欲満たしているだけだわって思っていたかもしれない。まさか定期的に殺人しに外に出ていっていたなんて知るわけない。それでも、あんたがいたから彼は死ななかった。あんたがいたから生きる意味がまだあると思っていた。それが悲しすぎた。心から信頼した人は最低な大人。もっと違う関わり方があるはずなのに…彼女のせいで彼の人格はより複雑にねじ曲がったと思う。
虐待されて、生きる意味がわからなくなって、社会での生き方も、正しいこともわからない少年たち。そんな少年に快楽と喜びを与えた彼女は…自分が楽しんだだけだ。強要するプレイがキモすぎる。そりゃ表立ってできることじゃないわ。掃き溜めだと思っているからできることなんだろう?欲望にまみれた彼女が心底嫌いである。
一番悲しいのは、最期の時まで彼がこの精神科医を頼るしかなかったということ。頼って生きていたということ。どんなに頭が良くても、心のよりどころをくれた人を愛してやまないということ。もしかしたら、最後に最愛の人と一緒に死ねたことは、彼にとっては一番幸福だったかもしれない。そしてあの精神科医にとっては最悪で、ざまーみろという結果なのかもしれない。
こういうバイオレンスな物語を読むと、普段の毎日をつまらなくさせているのは自分であること、ちょっと勇気を出したらものすごく楽しいことを知るよね。いつもきれいな漫画ばっかり読まずに、腐った人間を見て「そうはならない」と決めることも、大事なことだと思うんだ。
もはや続ける気がない構成
8人の対戦相手を退けてようやくゴールなのに、1人目でこの重さだからね…すでに長編にする気がまったくない。最初っから妹を人質に取られるなんて、次から何を対価にがんばったらいいのかわからないじゃない。ということで、早々に打ち切られた。闘いは続く的な終わりは本当にがっかりするけど、やっぱり国吉直人がクズすぎて、読者が離れたのではないだろうか。
負け犬をテーマにしたマンガだけでなく、むしろ自伝やビジネス本でも負け犬が勝ち組になるための方法を解説している。どれも共通しているのは、大げさに言えば、自分の死や最も失いたくないものを目の前においてがんばる、ということなんじゃないだろうか。そうまでしないと戻れないくらい、負け犬のコンプレックスは根が深い。それは自分のせいじゃないかもしれないけれど、立ち直るときは一人で立ち上がらなければならない。そんな過酷な道を選ぶ前に立ち直れ!ってことを漫画は教えてくれるのだ。
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