「アホ」のタブーを破った作品 - アホガールの感想

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アホガール

4.004.00
画力
3.50
ストーリー
4.00
キャラクター
4.50
設定
4.50
演出
4.50
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「アホ」のタブーを破った作品

4.04.0
画力
3.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.5

目次

文脈により言葉の意味は決定される

私達の使用している言葉にはそれぞれ意味がありますが、使われる文脈によってそれぞれその意味合いは異なります。例えば「メガネ」という言葉を考えて見ると、単に「メガネ」というものを指す言葉でもあり、美少女メガネキャラクターやガリ勉キャラクターの仇名でもあるのです。また、今にもメガネを踏みそうな場面に遭遇すれば「メガネ!」という言葉は「そこにメガネがあるから踏むなー!」という意味にもなります。

こうした意味の多義性とも言える性質は漫画のジャンルによってある程度固定化しているものです。本作にもある「アホ」で言えば、シリアスな状況なら知的障害をもつ人物を指すかもしれませんし、ギャグなら突っ込みかもしれません。そして恋愛ものやラブコメにおける「アホ」というのは常にかわいさを伴う天然キャラクター的なニュアンスを伴います。美少女キャラクターにおける「アホ」はあくまで一定のボーダーラインを保った「アホ」であり、ギャグやシリアスとはまた異なるわけです。

ヒロインの枠から逸脱した「アホ」

『アホガール』のヒロインである「花畑よしこ」はラブコメのヒロインにおけるアホの範疇を超えています。そこらで売っているようなバナナを食べると、そのおいしさに感動し涙を流しながら「バナナうめぇ…」と呟くのです。通常のヒロインであればまずバナナが好物ではありませんし、仮に好物であったとしても「バナナおいしーなー!」と言って笑顔になるようなものですが、よしこは違います。何本食っても「うめぇ…」と感嘆の声を漏らすのです。

これは本来ギャグ漫画のギャグ担当が備えるべき性質で、ギャグないしラブコメのヒロインには適していないのです。そんなことをすればヒロイン性が失われ作品世界が破綻してしまいます。ですがそれを逆手に取ったのが本作『アホガール』です。あえてヒロインにギャグの中心となる性質を与えることで、唯一無二のオリジナル性を獲得することに成功しました。

ヒロインらしいヒロインは不在

本来ヒロインであるはずの「花畑よしこ」がアッパラパーなのでヒロインには相応しくありません。ですが本作は幸いハーレム系のラブコメかつギャグ漫画なのでヒロイン候補は何人か存在しています。女性キャラクターのメイン層は優しくて地味な「隅野さやか」変態風紀委員長の「風紀委員長」よしこの母「花畑よしえ」そして主人公の妹でかつアホな「阿久津瑠璃」となります。ただ、この中で明確に主人公へ好意を寄せているのは「風紀委員長」のみで、しかも主人公は風紀委員長のことをやや嫌っていたりします。つまりヒロインらしいヒロインがこの漫画には存在しないのです。

もっと言えばこの漫画にはオーソドックスなキャラクター付けをされた人物が存在しません。いずれの人物も何がしかが笑いに繋がるよう過剰な要素をもっているのです。

「隅野さやか」は優しすぎて暴走し「風紀委員長」は好意が強すぎてストーカーとなり「花畑よしえ」は主人公に睡眠薬を飲ませてよしこに既成事実を作らせようとしますし「阿久津瑠璃」はテストで0点を取れる努力家なのにアホという、それぞれ特徴的なキャラクター設定となっています。

主人公も特徴のあるキャラクター

こうした面々に囲まれると主人公は自然とツッコミ役として頑張るわけですが、主人公ですら普通のキャラクターではありません。1人で神経衰弱を楽しんだり友達が懇願するまで遊びに行ってくれませんし、妹を溺愛したり友達が0人という設定です。特に勉強をいくら頑張っても頭が良くならない妹との掛け合い時にはツッコまれる側に回ったりします。

誰もがツッコミ役にもボケ役にもなれる

それぞれのキャラクターが特徴をもっているため、誰でもボケ役になることができ、かつ誰でもツッコミ役になれるのが『アホガール』の世界です。そのため単調な掛け合いに終始することなく、各キャラクターを主題としたエピソードを展開することができ作品世界はどんどん豊かになっていきます。

また、ボケ役同士の掛け合いをさせ、読者に突っ込ませるという展開も繰り広げられています。よしこが妹の瑠璃の宿題を手伝う場面では間違いに間違いを被せ最終的には大きく間違う、というツッコミキャラクター不在の漫画が成立しているのです。

影のメインヒロインは妹

主人公の妹はいくら勉強しても何をしてもテストが0点でかけ算すら一切分かりません。シリアスものであれば深刻な展開になるのですが、作品世界は明るくギャグ調なので楽しい雰囲気で描かれています。そして何より重要なのが妹の備えている属性「アホ」です。そう、この作品の題である『アホガール』の要素は「よしこ」だけでなく妹にも被っているのです。

主人公が何の関心も無い「よしこ」と溺愛する妹「瑠璃」の対比は面白い試みです。よしこは何もせずに遊びほうけてテストで0点、瑠璃は一生懸命勉強してテストで0点を獲得します。全く正反対の性質をもつ2人のヒロインなのですがアホであることは共通しているのです。物語の登場人物として稀有で興味深い設定と言えます。

とことんアホを貫いて

アホなガールを主題とした本作『アホガール』は連載開始から一貫してぬるくなりません。常に「よしこ」はアホ生命体としての活動を休めることは無いのです。アホよしこを中心として登場人物全体で作品世界を深めつつ話は進んでいきます。『アホガール』は一風変わったラブコメ風味のギャグ漫画として比肩する作品の無い魅力を放った漫画です。

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