宗教的なものをいかに現実に近づけるか - GOGOモンスターの感想

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GOGOモンスター

4.504.50
画力
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ストーリー
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キャラクター
4.50
設定
4.50
演出
3.00
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宗教的なものをいかに現実に近づけるか

4.54.5
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
3.0

目次

”奴ら”が来る

登場人物である小学生の立花は、頻繁にこの言葉を発します。もちろんこの話はタイトルにもあるように、モンスターの”奴ら”と小学生たちとの話なのですが、実際にはこの漫画はただのファンタジーではありません。つまり”奴ら”などというものが本当に存在しているという話ではなく、多感な小学生たちの抱える究極の内面の問題が”奴ら”として彼らを襲うのです。このように究極の内面をファンタジーとして世界を構築するという手段は松本大洋の常とう手段で、「鉄コン筋クリート」のシロとクロの存在ももはやそれにあたると思います。

そして松本大洋の作品では「青い春」なんかでも見られるように、自己を除く”一般”が存在します。GOGOモンスターでも主人公以外の小学生たちには奴らが見えておらず、また「早く帰りてー」や「バカは伝染るぞ気を付けろー」などと低俗だがありふれたセリフを吐き、松本の中の一般としてひとくくりにされていきます。そしてモンスターと立花、IQ、主人公の関係についてだけはどこまでも探求されていくのです。そして内面で葛藤している子供からすると最もコンプレックスのもとになる存在が大人であり、登場人物の中では唯一ガンツだけが彼らと取り合うことのできる大人として現れます。

それぞれの登場人物からの目線から見ると”奴ら”といういわば強大な力について、松本自身がどのようにとらえているかがわかります。おそらく一番素直な感覚が立花と”奴ら”の関係だと思います。立花は自身の抱える内面の問題である”奴ら”に対して、一番敵意を抱いています。そして最も攻撃的で稚拙な表現で”奴ら”という存在と自分という存在を他者にアピールします。そしてIQもまた同じように自身の抱えるコンプレックスにより”奴ら”の存在を認識しているようなのですが、松本からすればIQは”奴ら”と自分との相互の関係について折り合いをつけられている存在として描かれているのだと思います。その証拠にIQは他社との関わりを避け問題的な行動も見られますが、頭脳は小学生にして並外れたものがあります。ここに、問題は”奴ら”ではなく自分自身であるという自己否定的な意味もくみ取れます。そして最後にIQは段ボールを取り、完全に自由の身となるのです。

本作は松本の作品の中でも、”奴ら”という内面の葛藤に対して最も純粋に描かれた作品ではないでしょうか。

宇宙人

ガンツの奥さんが、「正直今の子供たちが怖いわ。まるで宇宙人みたい。」という一コマがあります。物語全体が子供の目から見られ、大人はほぼ教師のみで彼らはほとんど役立たずとして描写されるのみです。しかしガンツは違った描かれ方をしていて、主人公や立花たちにとって味方のような描写をされているのです。しかし奥さんは言うのです、「環境の変化が生物に対する影響」について、そして小学生全体を「宇宙人」みたいだと。この新たな一面は物語の中で最も客観性がある立場として描かれています。ガンツとその奥さんこそが、松本自身の現在であり、その感想こそが昔の自己の事なのではないでしょうか。ガンツが主人公に寄り添うように、決して否定されるような人間性ではないと感じつつも、どこか完全に肯定しきれないものとして「宇宙人」のようだという発言があるのです。ここに自己否定と自己肯定がないまぜになっている松本の葛藤があるようにも思えます。

コンプレックスとその補償

松本自身の経験としても、幼少期に親元を離れて施設で暮らした経験があります。そしてそのころに感じた疎外感や、また強烈なコンプレックスが、この作品では色濃く表れている気がします。主人公の葛藤に親の存在は一切かかわってきません。また親という存在が小学生にとってどういうものであるかということも直接的には表現されていません。立花やIQにとっては親という存在は無力にすぎない、誰の手も借りることが出来ず、ただ自己の中で葛藤があるだけなのです。

最も純粋に自己のコンプレックスに反発している立花、自己のコンプレックスを認めながらもそれを才能として外の世界で活かしているIQ、そして主人公はただ周りで起こることに何の抵抗もなく無力に受け止め続けるだけ。それぞれはやはり松本自身の中に存在するコンプレックスと、それを克服したり逃避するために身につけたあらゆる所感や才能のことについて、肯定も否定も同時にしているような気がします。

松本の後の作品であるSunnyでは、今作のような内面の動きに関してよりリアルに、些細なことによる心象風景まで丁寧に描かれています。そこには切なさや感傷のようなものが存分に出ていますが、その中には現実を受け止めようとする小学生の痛々しさがにじみ出ています。そういった意味では、今作は松本自身が今まで経験してきたつらい体験(その中にはもちろん私たちの誰もが感じる幼いころのコンプレックスも)やそのコンプレックスや補償について、松本がどのように戦ってきたかということを、最も読者が理解することに挑戦する価値がある物だと感じました。

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